8鱗目:真面目な?身体測定!竜娘!

「ふぁぁぁー…………んむぅ……」


「鈴香ちゃん、まだ寝てていいよ?」


「でも天霧さんも起きてるのに……」


「ったくもう。気にしなくていいのに…………それと、私達は家族なんだから、天霧さんじゃなくてお姉ちゃんとか千紗お姉ちゃんって呼んでっていってるじゃない」


「全部お姉ちゃんだよお姉ちゃん……」


 天霧さんと養子縁組を結んではや2日、結んだ次の日にチーム全員で丸一日かけて僕の新しい名前や呼び方を決めたりしていた次の日の事。

 僕は僕の移動用に大改造され部屋のようになった大型トラックのその荷台の中で、お姉ちゃんこと千紗さんに膝枕をされながらそんなやり取りをしていた。


 僕としてはちゃん付けは勘弁願いたいけどね。



 ちなみに、僕の新しい名前である「鈴香」には鈴の音のように澄み、皆を引き付けて愛されるようにとの意味があるそうだ。

 僕はそんな素敵な意味が込められた「鈴香」という新しい僕の名前を呼ばれる幸せを感じつつ、トラックに揺られながら眠りへと落ちたのだった。


 ーーーーーーーーーーーー


「ほら、着いたぞお前らー」


 そんな声が荷台の扉が開かれたと同時に聞こえ、僕は目を擦りつつ体を起き上がらせると、その声の主である三浦さんを見る。


「おはようございますー……ねむい……」


「身体測定始めるまで後数時間はある、休憩室があるからそこでもう一眠りしてこい」


「そうします……お姉ちゃん連れてってー……」


 そう言って僕は目を擦った後、起こしてと言わんばかりに両手をお姉ちゃんへと伸ばす。

 するとお姉ちゃんは少し驚いたような顔をした後、可愛いものを見るようなそんな顔をしつつ嬉しそうに手を取り、僕を連れていってくれる。


「お前らもう……というかいつもそんな感じなのか?」


「何言ってるんですか三浦さん、寝ぼけてるから甘えん坊モードなんですよ。これは発見です、活用しなくては」


「なるほど、これは可愛いものだな。記録をしなければ」


「でしょう?勿論しますとも、ビデオで」


 その後もう一度ぐっすりと寝てようやく目の覚めた僕は、そんな事を言っていたのを思い出し、恥ずかしさで悶絶する事になるのであった。


 ーーーーーーーーーーーー


 おぉー、広い!すっごい広い!中学校の体育館の5倍くらいあるんじゃない?


 何となく懐かしさを感じる足の付け根までしかない赤いズボンと白い体操服に着替えた僕は、とても大きい体育館に連れてこられていた。

 ちなみに体操服にはゼッケンまで着いており、そこには平仮名で「すずか」と書いてあったが……深くは考えないことにした。


「それじゃあ今から鈴香の身体測定と体力測定を始める。

 なんでわざわざ日医会の投資してる所の大型体育館を貸切にして使っているかというと、屋外だと姿を見られる危険性があり不味いから。

 そして本部備え付けの測定部屋が狭いからだ」


 なるほどそういう事だったのか。というかそれ以外にないよね。


「とりあえず身長とかから測るか、なら──」


「リーダー」


「ん?なんだ叶田」


 早速測定に移ろうとした三浦先生のセリフを、叶田さんが遮ったかと思うと前に1歩前に出て喋り出す。


「身体能力の測定とかは別に構わないと思うけど鈴香ちゃんは一応女の子なんだし、ここはウチ達4人に身体測定は任せてくれない?」


 そう言って叶田さんがお姉ちゃん達、女性職員の方をちらりと見たのを見て僕もそっちに目をやると、お姉ちゃん達はこくこくと頷いていた。


「いやまぁ、ウエストとかは任せるつもりだったが体重とかそういうのは別に──」


「任せてくれない?」


 別にそれくらいならと一緒にやろうとする三浦さんに叶田さんは威圧感たっぷりでずいっと近づき、それに合わせてお姉ちゃん達までずいっと近付く。

 そしてその間にいつの間にか僕は大和さんとお姉ちゃんに人質と言わんばかりに腕を取られていた。

 僕としては別に男の人に計られてもいいのだが、どうやらそれは女性陣の皆様が許さないらしい。

 そして三浦さんもそんな女性陣には勝てなくて……


「──いいだろう、それじゃあ俺らはその間に運動系の準備だ。身長とかは女性陣が測る!以上」


 そう許可を出して作業に取り掛かったのだった。そして僕はそんなお姉ちゃん達を見て────


 女の人って怖いなぁ……


 そう思っていた。

 いや、思わざるを得なかったのだった。


「それじゃあ始めるわね。まずは身長から行くわよー」


「あ、はい」


「背筋伸ばしてねー、はい顎引いてー、つま先立ちは……してないわねー」


「しませんよそんなこと!そこまで僕幼くないです!」


「あはは、ごめんなさいねー?」


 あの後すぐに身体測定は始まり、今はなんだかテンションの高い大和さんとそんなやり取りをしつつ、まずは身長を測っていた。


 感覚的には男の頃より10センチくらい下がってる気がするけど、周りに比較できる物も無かったし実際幾つだろう。

 流石に150はあると思うけど……


「はい、143ジャスト。思ったより小さかったわね」


「でも小さいのは可愛くていいと思うよ鈴香ちゃん!」


「そっ、そうですよ!だから、そのー……元気だして?」


 ちくしょう……!思ったより小さかったよ!150無かったよ!

 慰めてくれるのはいいけど僕中身は男なんだよ!

 女の人は背が低い方がいいのか分からないけど、身長が低いのは凄いショックなんだよ!

 ほんと、可愛いって言われても男としては複雑だよぅ…………いやなんか嬉しくはある気はするんだけどさ。


 ガクリと肩を落としていた僕は花桜さんや叶田さん、お姉ちゃんに励まされ何とか立直り、次の検査へと向かう。

 そして次に僕を待ち構えていたのは学校で見るような体重計だった。


「次は体重ね。でも鈴香ちゃんは小さいし多分相当軽いと思うわ」


「そう?尻尾とか翼が相当重いと思うけど」


 そう言って僕は翼を広げられるだけ広げる。

 地味に初めて翼を完全に広げた事もあり、背筋がぐっと伸びるような感じがしてとても気持ちよかった。


「おぉぉぉぉ……でっかい…………って翼の長さはまた後で測るわね。とりあえず体重測っちゃいましょ」


 この体重計メモリ300キロまである…………そこまで重いかなぁ……いやまぁ翼だけで100キロくらいありそうとは思うんだけどさ。


 そんな事を考えつつなんとなく尻尾を右手で持って、僕はゆっくりと体重計に足を乗せる。

 体重計は少し体重をかけるとミシッという嫌な音を立てたが、幸いにも壊れる事は無く針は276kgを指していた。


「…………思ったよりあったわね」


「やっぱり相当翼と尻尾が重いんでしょうか」


「これって真の意味で体重だけって言うことになる…………よね?」


「多分……なるはず……です」


 僕達は全員一瞬固まった後、そんな話をした。

 結局体重は後で全職員で話し合った結果、翼やら尻尾やら何もかも合わせた276kgを正式な数値とする事になったらしい。

 ちなみにまた別の日に翼や尻尾だけの重さを測ることになったのだが、これは仕方の無いことだろう。


「さ、さて。体重は驚いたけどとりあえず次行きましょ!鈴香ちゃん、あの区切ったところに入ろうねー」


「あ、はい」


 なんだかテンションが上がり出した女性陣4人に連れられ、体育館の一角に作られたカーテンで囲まれた場所へと僕は連れていかれた。


 ーーーーーーーーーー


「…………リーダー」


「どうした島内」


「女子の健康診断って……あの中で何やってるかすげぇ気になりますよね。いや項目は分かるんすけど」


「…………分からなくはないけど言うな。天霧はともかく、叶田と大和からの俺らの評価がすっごい下がるぞ。姫、鈴香は……その辺理解してくれそうだが」


 チームに5人いる男性職員の内、柊意外の4人は仕切りの向こうへ消えていった鈴香達を見てそんな話をしていた。

 そして暫く各々の作業をしていたのだが……


「はーい測るからねー」


「わっ!ひゃあ!?大和さんそこおへそっ……!」


「ふへへ、そのすべすべ素肌を触らせなさいっ!」


「叶田さんまで!脇はっ……んんっ!お姉ちゃん助けて!」


「翼と尻尾は私が測るから安心してね!」


「安心できない!ちょっ、根元は敏感でっ……!」


「こら!3人とも、鈴香ちゃん困ってますよ!」


「えー、花桜さんも触ってみなよー?」


 そんな声と共に仕切りの向こうから時々翼や尻尾の先が見える。

 どことなくだが間違いなく男子禁制な光景を前に、行動が完全に止まった男性職員達を見て、三浦は無言で立ち上がり静かな声で話始める。


「お前ら、清聴せよ」


 男性職員はその呼びかけで神妙な顔で整列をする。


「我々は紳士だ、だからあのような光景を見たからと言って撮影などをしてはならない。

 そして我々は男だ、だからこそあの光景を心に保存する義務がある。

 それを心してあの光景を心に刻むのだ」


「ちょっ、まって!皆、やめて!そこはっ……!ひゃああ……」


 僕が大和や叶田、天霧に好き勝手されている間に男達の間でそのようなことがあったのは、一生知ることはなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る