9鱗目:規格外な身体測定!竜娘!

「うぅぅ……酷い目にあいました…………」


「よしよし、よく頑張りました。えらいえらい」


「大変だったろう、本当によく耐えたな。いい子だ」


 ようやく大和さん達から解放された僕は、頭をぽんぽんと撫でたりして慰めてくれている柊さんと花桜さんの陰に涙目で隠れていた。

 ちなみに花桜さん以外の女性陣はやり過ぎだと現在進行形で三浦さんに叱られているが、それに関して僕は同情なんか絶対にしない。


 だって嫌って言ったのにあちこち触ってくるし、それに翼と尻尾の付け根って触られるとこう、変な感じがするって言うか………………

 こほんっ!とりあえず!ちゃんと謝ってもらうまで絶対許さない!

 というかわからん、女性同士のスキンシップの普通というのがまずわからん。


 そんな事を思いながら暫く三浦さんのお説教を受けてる女性陣を遠くで眺めていると、女性陣を正座させたまま三浦さんだけが戻ってきた。


「待たせたな。ごめんよ」


 なかなかに疲れた顔の三浦さんに申し訳なさを感じつつ、僕はお姉ちゃん達はどうなのか聞いてみる。


「あ、いえ。あの……お姉ちゃん達は?」


「お昼まで後2時間あのままだ、妥当だろ?」


「もっとお仕置きしてあげてください」


「おぉ、なかなかに厳しいんだな……さて、測定終わらせてしまおう。ウエストとかはきっちり測ってあると思うんだが…………一応測り直してもいいか?」


「あ、はい。それはこちらからもお願いします」


 遠慮がちに聞いてきた三浦さん達にぺこりと頭を下げ、ウエストなんかをもう1回測り直してもらう。

 お姉ちゃんやら大和さんやらに測られた時とは違って三浦さん達男性職員の皆さんは淡々と測る部位に合わせてメジャーを伸ばし、測っていく。

 途中胸囲だけは花桜さんだけで計られたが、なんだかとても気恥ずかしかった。

 そんなこんなであっという間に僕本体は測り終え、次は尻尾と翼の大きさを測り始める。


「…………尻尾長さ173、尻尾の根元周りは?」


「68センチっス、直径にして約15センチっスね。そこからどんどん先に行くにつれて細くっス」


 尻尾が思ってたよりも結構長くて太かった、15センチっていうと千円札の横幅くらいだったはず……うーんやっぱり太い。

 それにしても、測る時に一言断ってからメジャー付けたりされるからお姉ちゃん達に測られた時と違って安心して任せられるや。


「それじゃあ、次は翼を頼む。広げられるだけ広げてうつ伏せに倒れてくれ」


「はい、それじゃあ……えっと…離れとかないと危ないかと……」


「おっとそうだな、お前ら姫の前にこーい。翼で弾き飛ばされるぞ」


「おっと済まない、姫ありがとな」


「言われてみればそうだね、姫ちゃんありかとう」


 僕がそう言うと、三浦さんがその事を他の職員さんにも教えてくれた。

 横を通る職員さんが僕と三浦さんのやり取りを聞いていたのだろうか、僕の横を通る度にありがとうと言ってくれる。

 それはとても嬉しい、嬉しいのだが……


 今更だけど改めて姫って何さ!

 あだ名みたいなものなの?!

 後なんで横通る度に頭にぽんってしていくの!いやまぁ、嫌じゃないけどさぁ……


 頭をぽんぽんされるのは置いておくとして、なんで姫と呼ばれているのかは気になるので、今横を通り過ぎた確か陣内さんと呼ばれていた人に聞いてみる事にする。


「あの!」


「ん、どうしたんだい?」


「えーっと、つかぬ事を聞くのですが…………なんで僕、姫って呼ばれてるんですか?」


「あぁ、そりゃ姫姫言われてれば気になるよね」


「は、はい。それでどうしてなんです?」


 僕がそう尋ねると陣内さんは少し首を捻りながら答えてくれた。


「んー……小さくて可愛いのと、俺らが仕えてる感じだから……かな?」


「な、なるほど…ってそんなアバウトな……でも可愛い…か…」


 面を向かって可愛いと言われ、また嬉しいような嬉しくないような、そして恥ずかしいようなそんな複雑な気持ちになる。

 そして結局僕は恥ずかしくなって俯き、モジモジとしてしまうのだった。

 その後暫くモジモジと僕は照れていたが、直ぐに翼を測る事を思い出して周りに人が居ないのを確認し、翼をめいいっぱ広げる。

 そして流石と言うべきか職員さん達から「おぉー」という声が聞こえたものの職員さん達は直ぐに測定に入った。


 流石だなぁ……

 実験とか測定になると切り替わるのがプロみたいというか…………いや実際プロなんだけどね。


 翼は付け根から翼の先までの幅、翼爪の部分から生えている翼軸と呼ばれる場所の長さなんかを測っていたのだが……


「翼はー……幅580…………でっけぇ……」


「軸は220!なっげぇなぁ!」


「えーっと、片翼が背中から翼爪まで120その内途中の関節部分までが32で翼爪までが88、翼爪の付け根から翼先まで170です」


 自分で思ってたより大きかった、扉の上に引っかかったりしてたから、2メートルくらいは高さありそうって思ってたけど……まさか両翼合わせて5m強もあるとは。

 でもこれだけ大きいのならもしかしなくても飛べるんじゃないのこれ?

 …………身体測定終わったら試してみよう。


 そしてその後も身体測定は順調に…………


「それじゃあまずソフトボール投げから」


「い、行きます!」


 緊張気味に返事をして僕は円から出ないようにしつつソフトボールを力いっぱい投げる。

 すると投げたソフトボールはゆっくりと放物線を──


 パァン!


「……………………えぇ……」


 描くこと無く、天井の鉄骨に当たり破裂してしまった。


 ーーーーーーー


「んじゃ気を取り直して、次は握力を測ってもらう」


「はい。せー……のっ!」


 掛け声をかけてぎゅっと力いっぱい握力計を握る、すると握力計から。


 バキッ


 という鈍い何かを握り折ったようなそんな音が聞こえてきた。

 そしてそれを聞いた僕が恐る恐る手に持っている握力計に目をやると…………


「に……握り壊しちゃいました……」


「うそだろ…………」


 無残にも持ち手の部分が握り潰された握力計が僕の手の中にあった。


 ーーーーーーー


「えーっと次は立ち幅跳びだな」


「それじゃあ、行きますね」


「おーう」


 柊さんの微妙な返事を聞きながら手を大きく振り、足に力を込めて前に飛び出す。

 足の裏でマットを蹴った感覚を感じつつ、飛び出したスピードはもはや風の抵抗を感じるほどで…………


「えーっと……6メートル27センチ…です」


「わ…わぁい……」


 引いてあったマットを大きく飛び越した場所に着地していた。

 そんなデタラメな結果に、僕は変な笑顔を浮かべつつ棒読みで喜びの声を返すしか無かった。


 ーーーーーーー


「次は走り幅跳びなんだが……廊下から走ってもらおうか………うん」


「は…はーい……」


 何となく三浦さんの言いたいことはわかったので大人しく廊下まで下がり、体育館の入口で飛び出す。

 もちろん助走がある為さっきの立ち幅跳びなんて比じゃないくらいの速度で飛び出し───────


「……14メートル53……です…………はい」


「ははは…………」


 数秒浮遊感を味わって着地した僕はもう笑うしかなかった。


 ーーーーーーー


「反復横跳びは……」


「…………します?」


 本当にやるのか?という思いの込もった声で僕が三浦さんにそう言うと、三浦さんはふるふると首を振って。


「………………やめとこう、床が無くなる……」


 拒否したのだった。


 ーーーーーーー


「えーっと……垂直跳びだが……GO」


「はーい……」


 苦笑いが混じりながら返事した僕に向けて三浦さんが2階の観客席を指さす。

 僕は深くしゃがんで腕を大きく振りかぶり、ぐっと足を踏ん張って飛び上がる。

 飛び上がると同時に足の裏にメキョッという嫌な音がしたのを聞きながら僕はほぼ垂直に飛び上がり、余裕で2階観客席の柵を越え…………


「とっ……とととっ…………届いちゃった……」


 着地してしまった。


 ーーーーーーー


 その後も短距離など色々とやったのだが…………

 長座体前屈と立位体前屈だけが平和だったとだけ言っておこう。


 なんだかもう……色々と規格外だなぁ……


 神妙な、というよりトホホというような雰囲気を纏いながら、身体測定を終えた僕は何ヶ所か床が凹んだ体育館を見てそんな事を考えていたのだった。

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