7鱗目:新しい関係!竜娘!

「いいかお前ら。話はこれから詰めるが、仕事さえ終わっていれば姫との交流は姫さえいいならいつでもいいからな。せいぜい仕事に励んでくれよ」


「よし、仕上げるか」「さぁて!やってやっかな!」「頑張らなきゃ」「ふふっ、楽しみです。早いところ終わらせちゃいます」「やっちゃうよー!」


 三浦さんの一言でさっきまで賑やかだった部屋が雰囲気だけを残して一気に静かになった後、その三浦さんの言葉で皆がそうやる気に満ちた声を上げる。

 そしてその傍らで……


「そんなに楽しみなのかな?」


「そうだよー、皆貴女に会うのを楽しみにしてたんだから」


「そうそう。そして実はおじちゃんもうお仕事終わってるんだなこれが」


「流石柊さん、早いですね」


「だろ?」


「あれ?天霧さんは?」


「昨日頑張って終わらせたんだよー。褒めてもいいのよ?」


「それは……よく頑張りましたね」


「でっしょー!」


 天霧さんと柊さん、そして僕はそんな会話をしていた。

 そしてそんな様子を見ていた三浦さんは考え込むような顔でこちらを暫く見つめた後、天霧さんに声をかける。


「天霧、すまんが姫連れてこっち来てくれ。大事な話がある」


「はーい!それじゃあいこっか?」


「は、はいっ」


 そうして僕は天霧さんに手を引かれながら部屋の奥へと入った。


 ーーーーーーーーーー


 僕が天霧さんに連れられて部屋へ入ると、そこは壁や床が全体的にほんの少し暗い、さっきまでの白い部屋とは違う落ち着いた感じの部屋だった。


「それで、だ。別にあいつらの前でもよかったんだがこれは大事な事なんでな」


「それってどういう……」


 僕と話してる間に三浦さんは目的の書類を見つけたようで、僕と天霧さんの前に数枚の書類を広げる。

 そしてその書類には──────────


「えっと、もしかして……」


「そうだ、君は名前を変えないといけない。

 女になってしまったからそれらしい名前が要るし、元の名前だと君の前の姿がバレる可能性がある。

 それは君としても、こちらとしてもあまり良くないからな」


 三浦さんはその真っ黒な瞳で僕の目を見ながらそう話をする。


「勿論君も今の名前が1番いいだろう。だから変えることに抵抗があればまた別の─────」


「いいですよ」


「え?」


「変えていいですよ」


 三浦さんの別の提案を聞くまでもなく僕が即答した事に驚いている三浦さんの顔を見て、僕はニコッとしてみる。


「えーっと……そんな即返答しても大丈夫なのか?」


「はい、大丈夫です」


 実際僕は「瑞葉蒼」という名前に思い入れは無い。

 名付け親である消えた両親にはまず何も感じない。

 それに商店街の人からも「坊主」や「お前さん」などと名前呼びはされてなかった為、自分の名前であるという認識すら薄い。


 なんならここでもまだ名前で呼ばれた事ってないなぁ…………名前とは……………………哲学だなぁ。


「…………それじゃあこっちは変えるということでいいな、なら話は1つ終わりだ。次に移ろう」


「まだ何かあるんです?」


 天霧さんは三浦さんに首をかしげつつ不思議そうな顔で聞く。三浦さんはその問を聞いてひとつ頷くと、次の書類を取り出し説明を始めた。


「次は君の血縁関係だ、勝手に調べさせて貰ったが法的な隙を減らす事を考えると、今の親類が居ないという状態は正直あまり宜しくない」


 そして三浦さんが「ここまではいいか?」と言わんばかりの鋭い視線でこちらを見てくる。

 僕はそれにこくりとひとつ頷き返すと、三浦さんはそれで満足したように説明を再開する。


「もし君が法的にも親類が居ないということがバレればマスコミが「本人の意思を無視した実験」などと騒ぎ立てることも考えられる──というか確実にそう叩いてくる」


「それに、儲け目当てで君の親族を名乗る奴が出てきてもおかしくは無い」


 三浦さんの言うことは冗談と切り捨てられることでは無く、それを聞いた僕はこの先の展開を若干察しつつもこくこくと頷く。そして……


「だから2人には養子縁組を、親子関係を結んでもらいたい」


 予想は出来ていたが、まさか天霧さんとそういった関係になれと言われるとはおもっておらず、三浦さんからのその提案を聞いた僕は天霧さんの方へと振り向く。

 するとそこにいた天霧さんは、なんだかその目をとても目を輝かせており──────────


「やります!結びます!結ばせてください!」


 怒涛の勢いでそう言ったのだった。


「あ、天霧?お前そんな簡単に決めていいのか?」


 そうだよ?!嬉しいけどそんな簡単に決めるもんじゃないと思うよ天霧さん!


 そんな僕と三浦さんの心配を横に、天霧さんは怒濤の勢いそのままで熱弁を続ける。


「いいんです!だってご飯食べたり、一緒にお風呂に入ったりして、少なくとも悪い子じゃないって分かりましたから!」


 天霧さん…………嬉しいけれど抱きつくのはやめてぇ。


「いや、だが配属してまだ1日も……」


「それに!この子の事を調べてた時から私が守りたいって思ってたんです!確かに若い私じゃ色々大変かもですけど、それでも一緒に居てあげたいって思ったんです!……それに妹欲しかったし」


 あ、天霧さん………………最後ぼそっとなんか聞こえたんだけど、そっちが本心だったりしないよね?ね?


 最後の一言に少し不安になりながらもこのチームのリーダーである三浦さんを押す程の天霧さんの感情の籠った言葉に、僕は胸が暖かいものでいっぱいになるのを感じる。


「はぁ……天霧が引き受けてくれるのはよくわかった。だが後で一応精神鑑定な。それで姫はどうだ?天霧と家族になるのは。勿論嫌ならば断ってくれて構わない」


 天霧さんの熱意は充分伝わったのか、今度は僕が三浦さんに話を振られる。

 しかしこんな重大な決断、やはり理解や納得は出来てもあっさり決められるものではない。

 そこで軽く妄想というか、もし天霧さんとそんな関係になったとしたらと考えてみる。

 だが頭に浮かんだ物はどれもこれも楽しそうな風景しかなかった。


 それは僕が料理をしたのを天霧さんが美味しく食べたり、ゲームやスポーツをして遊んだり、一緒にお昼寝をしたりといった、僕の憧れた一般的に言う普通の生活だ。


 養子縁組だから親子関係になるはずなんだけれどどちらかと言ったら母娘というより……姉弟?あ、今は僕女だから姉妹か。


「さて、どうする?悩むならまだ決めなくても大丈夫だが────」


 雰囲気的に養子縁組はいずれ誰かと結ばないといけない事だし、それならまだ殆どお互いのことは知らなくても楽しく過ごせそうと思えたこの人なら。

 うん。


「僕も天霧さんとなら家族になりたいです」


 僕はそう答え、真っ直ぐ三浦さんを見つめる。

 笑顔を浮かべるでもなく、真面目に本心でそう思っているということを伝えるために。

 三浦さんは先程より鋭くなった眼光で僕の目をじっと見たあと、折れたかのようにため息をつく。


「わかった、それじゃあこの話もこれで終わりだ。天霧、お前はここに残れ。最後に話がある」


「はい。それじゃあ蒼君、また後でね。柊さんにお願いして先に部屋に送ってね」


 天霧さんはそう言いながら僕の頭を撫でる。

 僕は撫でてくれた天霧さんにニコッと笑顔を返し、前の部屋へと戻ると天霧さんに言われた通り柊さんへお願いして僕の部屋へと連れていってもらった。


 ーーーーーーーーー


 同じ日の同時刻、都内の一角にあるビルにて太い男が女秘書から何かを受け取っていた。


「ふむ、日医会の下層にて立ち入り禁止区域の設置か……」


「はい、日医会本部の最奥部である下層にてここ数日そのような区間があるのを手駒が報告してきました。

 それに中央最奥部にはこの間何かが他の病院から緊急で運び込まれた為、確実になにかあるかと」


「ほう、そうかそうか……それはまた珍しそうだ。ならば是非とも──」


 男はそこで口をニヤリと歪ませ


「──1度拝んでワシのコレクションにせねばな」


 そう一言言い放ち、酒を1口煽ったのだった。

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