3鱗目:お触り!?龍娘!
「ご、ごめんなさい!」
ズバッと勢いよく頭を下げて精一杯謝った。
その心は────
だって勝手にベッドから出た挙句、最初に翼広げた時にめっちゃ散らかしちゃったもん!
それに怒られるだけならまだいいけど、ここまでやらかしちゃってるとまた拘束されてもおかしくないし!
という訳で翼や尻尾を動かして遊んでいた僕は、その現場を目撃した天霧さんに深く、ふかーく頭を下げて謝っているのだ。
これで許してくれるならいいんだけど……この天霧さんって人が優しいならばきっと許して…………
「あ、いえ……あの……もしかして…………」
頼む!お願い!許して!
「動かせるんですか?」
はへ?
「あ、あの!もしかして今、翼と尻尾動かせてませんでしたか?!」
そう言って天霧さんは僕の手を取り、興奮したように顔を近づけて聞いてくる。
そしてそんな天霧さんに気圧されつつも僕は正直にその質問に答える。
「は、はひ…動かしてました……」
「すごいすごい!私達の見立てだと動かせないだろうなんて言ってたんですよ!動かせるなんて凄いです!すごすぎます!」
「そ、そうなんですか……あはは…………」
なんか怒られるどころか褒められた!
な、なんで?どうして?えぇ…もう訳わかんない………
そう言って僕の手を取ったままぴょんぴょんと小さくジャンプする天霧さんを見て、いつも通り僕は混乱してきていた。
そんな僕を見てか、盛り上がっていた天霧さんがいきなりハッとしたような顔をして止まると、今度はおずおずと、というかそわそわしながら僕にお願いをしてきた。
「あのー…」
「は、はい」
「よかったらその、翼とか尻尾……触らせてもらっていいでしょうか……」
「へ?つ、翼と尻尾…ですか……」
翼と尻尾を触りたいという天霧さんのお願いを聞いて僕は内心……
触りたいの?これを?なんでぇ?
という疑問符まみれになっていた、そしてそんな僕に天霧さんは。
「やっぱり……ダメ…ですか?」
なんて僕の手を握ったまましょぼんとしてくる。
そしてそんな風にされ中身が健全男子な僕が断ることなんてできる訳もなく、それと混乱していた事もあり─────
「あ、いえ!そんな事は!えーっとその……優しくしてくださいね?」
なんて誤解を招きそうなセリフで返してしまったのだった。
「はい!それはもちろん!それじゃあお言葉に甘えて……」
そしてハイテンションで僕の翼に手を伸ばしてきた天霧さんの手が僕の翼、その翼膜に触れる。
すると天霧さんは感無量と言った声で────
「おぉぉぉぉ……!おぉぉ…………!ふにふにしてる……すべすべ…………きもちいい…………!」
そう言いながら天霧さんが翼膜を触る度に揉み混むような、擦るようなそんなもにょっとしたような感覚が背中に翼越しで伝わってくる。
そして僕にとって初めて感じるそれは耐え難いこそばゆい感覚で……
「あ、あの…あんまり強く擦らないでください……その…………こそばゆい…です……」
その感覚に声を我慢しつつ、込み上げてくるような何かに耐えながら、振り絞ってなんとか出した声で天霧さんにそう伝える。
「あ!ごめんなさい!硬そうな見た目と違って細っこくてつやつやな毛が生えてて、思ってたよりももふもふすべすべだったから……」
そんな僕の注意は天霧さんに一応は微妙に通じたようで、触る力が少し、本当にほんの少しだが弱くなった。
その後も暫く天霧さんは、翼膜だけでなく翼の軸みたいなのを「鱗ツルツルしてる!」や「硬いけど弾力性凄い……」なんて言いながら触っていた。
そして翼は満足したらしく…………
「つ、次は尻尾もいいかな!」
「かかってこいです!?」
と言ってきた。
そしてそんなお願いをされた僕も長時間触られていたからか、気付かぬ内に若干テンションがおかしくなっていてそのまま尻尾のお触りタイムに行こうとしていたが……
きゅくるるるる
思ったよりも大きな僕のお腹の音がそれを遮り、その音のおかげで僕達2人はハッと正気に戻る。
「朝ごはんの事……すっかり忘れてたね、ごめんなさい」
「あ、いえ、そのー……こちらこそ?」
2人して謝り、顔を見合わせてくすくすと笑う。
「それじゃあ朝ごはんにしましょうか」
「はい!」
そう言って僕達は朝ごはんを食べに最初の部屋へと戻り、多分数日数週間数ヶ月ぶりであろう朝ごはんを食べようとしたのだが……
パキッ
「あ」
ポキッ
「ううう……」
ペキッ
「あぅぅぅ……」
「えーっと……スプーンとフォーク取ってこようか?」
「ううう………………お願いします……」
「ふふっ、はーい♪」
なんか楽しそう?
ガクリと肩を落として天霧さんの提案を素直に受けた僕は、小さく笑い声を上げながら楽しそうに天霧さんが返事をして部屋を出ていった後、折れた割り箸を前に尻尾や翼を垂れ下げてしゅんとしていた。
どうしてお箸折れるの……いや、うん、原因はわかり切っちゃいるけど。
そりゃあ拘束を無理やり力技で引きちぎったもんなぁ………お箸くらいちょっと力入れるだけでペキッて折っちゃうよなぁ……
しかしながら、なんだか楽しそうに出ていった天霧さんが戻って来るのをただ待ってるのも癪なので、戸棚から更に予備の割り箸が入った袋を取ってくる。
取るだけなら握りしめなければいいし、割り箸を袋から出すのも袋の方を摘んで逆さまにすればいいもんねー。
だが次からが本場である。
割り箸だから割らねばならないのだ。この時点で力加減が上手くいかず、べキッとやってしまう可能性も充分にある。
僕は少し緊張した面持ちで割り箸を両手で持ち、いつも通り割ろうとする。
よし、後はこのまま力を加えて左右に引っ張って割るだけ──────────
だったのだが、無残にも割り箸はベギッと音を立て指で潰してしまい砕けてしまった。
その後2本目3本目と挑戦して…………
わ、割れたっ!
なんとか割ることに成功した。
そして次のステップである持つ所に移行する。
よーし、いいぞ……後はこれを持つだけ─────
ポキッ
持つだけだったのだがどちらかと言えば先程のは前座、こっちの方が本番なわけで案の定失敗してしまう。
なんのこれしき!今までの苦しい生活に比べたら1度や2度で──────────
そんな気持ちでさらに8度9度と挑戦しているうちに流石に力加減が分かってくる。
そしてそれから何度目かの挑戦で……
も、もてたぁぁぁぁあ!
やった!成し遂げたぞ!
なんとか箸を持つことに成功した、僕は指に加える力はそのままで慎重に席へ戻り、少しぎこちないがなんとかご飯を口へと運ぶ。
食べれたぁー!でも冷えてるー!でも美味しい!
ご飯自体の味よりも達成感を味わいながら嬉しそうに更に2口3口と口に運ぶ、そして4口目に行こうとして……
「持ってきたよー」
ペキッ
「あ」
「あ」
予定調和と言うべきか予想通りと言うべきか、僕は戻ってきた天霧さんに驚き手に力を込めてしまい、持てていた割り箸を折ってしまった。
そして数秒間の沈黙が訪れ……
「…………えーっと、ごめんね?」
「………………あ、はい。大丈夫です」
気まずそうな天霧さんとしゅーんとなってしまった僕が出来上がったのだった。
その後、どうやら僕は相当お腹が減ってたようで天霧さんと話すこともなく持ってきてくれたスプーンで夢中になってごはんを食べてしまう。
そして天霧さんと少しは打ち解けた僕がごはんを食べ終わって満足していると、食器を片付け戻ってきたニコニコ笑顔の天霧さんの手には袋が下げてあった。
「それじゃあまずこれからの予定なんかを伝えるつもりだったんだけど…………ついでに先にお風呂にも入っちゃいましょ」
「お風呂ですか?」
「そうよー、さっぱりしてからの方が色々といいだろうし先にね?」
なるほど、体は拭いて貰えてたかもしれないけど確かに1度お風呂に入ってスッキリはしたい……うん、これはお言葉に甘えよう。
「それはいいですね、じゃあちょっと入ってきます。あ、でもその前にお風呂沸かさないと」
「大丈夫、お風呂はもう沸かしてあるよ。それじゃあ一緒に入ろうねー」
「あ、ありがとうございます…………ってはい?」
今、この人は何て言った?
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