2鱗目:驚く!龍娘!

 もしある日、君が目が覚めたらいきなり「君は女になってドラゴンっぽくなった」なんて言われたらどう思う?

 勿論、夢だと思うだろう、僕もそうだった。

 そしてそんな僕に、そんな事を言って来たリーダーらしき人が気が進まないという様子ながらも1つ提案をしてくる。


「さて、説明は終わったが……ここに鏡がある。これで自分の姿を見ることも出来るが…………見てみるか?見るならまた2度瞬きしてくれ」


 せっかくのファンタジーシチュの夢なんだし見てやろうじゃないか!


 リーダーの人がそう言うが早いか、やけくそ気味に言う通りすぐぱちぱちと瞬きをして僕が合図を送る。

 そうすると後ろに控えていた宇宙服が鏡を持ってくる。

 そして僕がその向けられた鏡を見ると、その鏡にはいつもの僕の姿が映されることは無く、代わりに……

 頭からは2本の水晶みたいな透明な角が突き出し。

 首や頬には薄水色の鱗が生え。

 とがってる耳が飛び出した長い薄灰色の髪を持った。

 縦長の瞳孔がある若葉色の瞳が特徴的なとても可愛らしい顔立ちの女の子が映っていた。


 おー……女の子だ………しかも可愛い。

 すっごい可愛い。

 目も大きいし顔も整ってるし、いかにもラノベとかそんな感じのに出てきそうな子だな……

 この角は耳の後ろくらいから生えてるのかな?

 というか耳がとんがってる………耳に当たるシーツがこそばゆいー……こそばゆいなんて本当にリアルっぽー………


「夢じゃない?!」


 一瞬思考どころか諸々が固まった後、僕はそう叫びながら体の要所要所にかけてあったであろう拘束を引きちぎりながら起き上がり、鏡に写ってた角や耳を触る。

 そしてその触った場所から触られている感触が伝わって来て、僕は本当に夢ではないのかと自分の頬を引っ張る。


「いひゃひゃひゃひゃひゃ!いっつぅぅ…………痛いってこれ、本当に夢じゃないの……?」


「あ、えとー、はい。夢じゃないです現実です」


「あ、これはご丁寧に……って声が高い!?」


 僕は盛大にパニックになっているにもかかわらず、夢じゃない事を教えてくれた宇宙服に丁寧にお礼を述べた後。遅れながら自分の声が女の子特有の高い声に変わっていることに気がつく。


 声!声が高い!う、うそでしょ!?まさか本当に女の子になってたりしないよね?!


 落ち着いてさえいれば例のブツが無くなっていたのは感覚で気がつくはずなのだが。

 この時の僕は気が動転していた事もあり、なんの躊躇もなくその場で病院服の裾をたくしあげる。

 そしてあるべきものがあるべき場所に何も無いのを目にしてしまう。


 あぁ………無くなってる……明日からどうしよう。

 こんなんじゃ外にも出れないし……女の子の生き方とか知らないし……

 それに、貯蓄は入学金で半分消えてるし……というかせっかくお金払ったのに高校行けず終いかぁ…………


 本当についてないなぁ……物理的にも運的にも…………


 僕は拘束されていた台に倒れ込み、遠くなる意識の中でそんな事を考えていたのだった。


 ーーーーーーーーーー


 パチリと目が覚め、病院特有のサラサラとした布団の感触を感じつつ僕は重い体を起こし、伸びを一つして目を擦る。


「んんっ……ふぁぁぁ。よく寝た……今何時…………?」


 そう言って時間を知る為に周りを見渡そうとした僕に、横から誰かが時間を教えてくれる。


「あら、おはようございます。今は朝の5時ですよ。早起きなんですね」


「ありがとうございます………えーっと昨日僕は何してたっけなぁ………………どなたっ?!」


 普通に話しかけられたせいで自然に会話してしまったものの、自然にベッドの傍へ居た一人の女性に驚いた僕は跳ね起きるようにして距離を取る。


「あ、ご挨拶がまだでしたね……こほん。では改めて、貴女の専属職員に任命された天霧千紗といいます。これからよろしくお願いします」


「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします……って専属職員?」


「はい、貴女の体調管理や日常生活のサポートなどをやらせてもらいます。それと────────」


 くきゅうううう。


「ふふっ、少し早いですが朝ごはんにしましょうか、説明は食べてる時に。一応パンとご飯で選べますがどっちがいいです?無理な様でしたら全粥もありますので」


「えーっと……ご飯で」


「はーい、それじゃあ今から持ってきますので部屋でゆっくりしててくださいねー」


「あ、はい。わかりました」


 そう言って天霧さんという女性職員さんはパタパタと足音を立てて部屋を出ていき、残された僕は唐突な展開に暫くの間ポカーンとなっていた。

 そして数分後。


 …………………………とりあえず……顔洗お…………


 ようやく放心状態から復活した僕は、顔を洗う為に洗面台を探そうとベッドから降りる。

 そして何かを引きずるような感覚を背中と腰に感じながら歩き始め、今いる場所から部屋の出入り口にかけて左側の壁にある3つの扉の1つへと向かう。

 まず1番近い1つ目の扉を開けるとそこはキッチンだった。それも最新のクッキングヒーターやら最新冷蔵庫と高性能がぎっちりな最新式のキッチンだ。


 おぉ……凄い、全部今話題の奴だ…!

 これなら一体どれだけ電気代安上がりになるんだろ。いいなぁ……こんなキッチン家に欲しいなぁ……って違う違う、とりあえず洗面台探さなきゃ。


 本来の目的から脱線しかけ、ふるふると顔を振り気を取り直した僕はキッチンから出て次の部屋へと向かう。

 次に開けた扉の部屋は風呂場に通ずる脱衣所のようで、洗濯機の横には目的の洗面台が備え付けてあった。


 あったあった良かったー洗面台があって。それじゃあさっさと顔洗ってスッキリしよう。

 まぁ何かあったからこんな状況なんだろうけど、女になっただとか羽?翼?が生えたとか、それは流石に夢でしょ。


 いつもの癖で手の甲で水道のレバーを軽く跳ね上げ、流れ出した水でぱちゃぱちゃと顔を洗いつつ、そんな事を考えていると段々寝惚けていた頭がハッキリしてくる。

 タオルで顔を拭き僕がパッと顔を上げると洗面台の鏡にはいつもの至って一般的な僕の顔ではなく、水晶の角が生えているとても可愛らしい女の子の顔が映っていた。


 わー…………夢じゃなかったぁー…………まぁ声で薄々分かってたんだけ……ど…?


 その僕とは思えない可愛い顔が映っている洗面台の鏡は昨日の鏡よりも3回りも4回りも大きく、昨日の鏡では映らなかった僕の後ろにあるものまで映しこんでいた。


 その鏡に映っていたものは僕の背中から生えており、青白い鱗に覆われ、途中には水晶の爪がある──────


 大きな翼だった。


 それを見て鏡に映ってる女の子……僕の目は完全に見開かれ、口も大きく開けてもう何度目か分からない放心状態になっていた。

 そして時間をかけて再起動した僕の頭は今度はパニックになっており……


 なっ…………


「なんじゃこりゃあぁぁあ?!んみゃっ!?」


 まるで僕の叫び声に呼応するかのように、床に垂れていた翼は色んなものを押しのけながら大きく広がる。


 はっ、羽?!翼!?はえっ…生えてる!?開いた!畳めた!って動かせて……おぉ…………おぉぉぉ…………なんかこれ、ちょっと……楽しい……うん……楽しい。


 しかしながら、一度動かした事で感覚が繋がったからか、広げてしまった翼を自分の意思で畳むことが出来た。

 そして翼を動かせることがわかった僕は焦って翼を開いたり閉じたしていたが、なんだか楽しくなってきて少しパタパタと羽ばたかせたりしていた。

 その後、暫く翼を動かす事に夢中になっていた僕は翼を動かしてるうちにふと足元に視線を落とす。

 するとそこには何枚もの大きな甲殻に覆われた根元は電柱位の太さがあるであろう、世間一般的には尻尾と呼ばれるものがあった。

 そしてそれを見た僕はもう諦めたと言わんばかりの表情でそれをつまみ上げ、試しに動かして見たりしてみる。


 うわぁ……きちんと摘んでる感覚があるぅ……そうかー…………尻尾もあるのかぁ…………うわっ、これも動かせる……というか意外と太い。

 えっと尻尾は……こう…かな?んん…………翼より難しい…………


 僕は付け根辺りに力を入れたりしながら尻尾に意識を集中して空中に持ち上げようとする。

 何回か持ち上げることに失敗したがその度にどこに力を入れればいいかが分かってきて、ついに何度目かの挑戦で─────


「できた!持ち上げれた!」


 尻尾をピンと付け根から上へと持ち上げることが出来、思わずガッツポーズを取る。

 とても制御の難しかった尻尾の制御に成功した僕は、嬉しさから思わずバンザイと手を上げる。

 そしてその間尻尾はゆらゆらと嬉しそうに揺れていた。

 その後僕はしばらくの間尻尾と翼を動かすことに夢中になって遊んでいたのだが知らない内に結構な時間が経っていたようで……


「あ、探しましたよー!ここにいたんですね、朝ごはん持ってきました…………よ……………」


 僕を探していた天霧さんに翼やら尻尾を動かしているのを見られてしまったのだった。

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