4鱗目:お風呂!龍娘!

 イッショニハイル?オフロニ?

 ………………いやいやいやいやいや!ダメでしょ!だって天霧さんは女の人だし!

 というかいつの間にお風呂沸かしてたの?!

 それに──────


「僕は男ですよ!?何言ってるんですか天霧さん!一緒に入るなんてダメに決まってるじゃないですか!」


「え?何言ってるんですか?」


「はい?」


 いや、だって僕は男で───────


「貴女は今女の子ですよ?それに、女同士で入るのに何か問題でも?」


「いや……!でもっ…………確かに?」


 そういや、僕って今女の子なんだっけ?…………それなら女同士になるし問題はー………ない?

 銭湯でも性別同じ人と普通にはいってるし。


 真顔で首を傾げつつそう言ってくる天霧さんを見て、僕も首を傾げながらそう結論を出す。


 なんだか根本的な所を忘れてしまっている気もするけど…………あれ?なんだっけ?


「ほら、問題ないですよね?さ、入っちゃいましょう」


「問題はー…………ない……のかな?」


 僕は疑問符を残しながらも天霧さんに背中を押され脱衣場へと連れていかれる。

 そしてそのまま天霧さんに病院服を脱がされると、いつの間にか湯の張られている湯船の前に立っていた。

 ハッとして僕はきょろきょろと病院らしい清潔感のある風呂場を見回すと、ふと鏡が目に入る。

 そこには全く凹凸のない白く細い肢体に、所々に鱗がある大きな翼と長い尻尾を生やした女の子が映っており──


「うわぁっ!ごめんなさい!見る気はなかったんです…………って僕か!あー驚いた………全くもう、心臓に悪い……ってこれ、僕?」


 そう言ってじーっと鏡を見た後、鏡に映ってる女の子に向かって手を振ったり、ぺたぺたと体を触ってみたり、翼を動かしたり……なんなら胸を揉もうとして…………


「女の子だからって男と大して変わる訳じゃないのか」


 なんて言った所で僕はようやくこの子が自分だということが分かり、石になったようにピシッと固まる。


「少し遅れちゃった、ごめんねー…ってあら?おーい……あれ、なんか固まっちゃってる?大丈夫ー?」


 遅れてやってきたショックに硬直していた僕は天霧さんに話しかけられてようやく再起動し、ゆっくりと天霧さんの方を向いて────────


「あ…天霧さん!僕女の子になっちゃってる!こっこれ!僕!天霧さんこれ僕!僕が女の子で!あれ?女の子?僕は女の子?つまり僕は女で……あれ?」


 僕が天霧さんに向かって混乱したまま鏡を指さして話すと、天霧さんはそんな僕に手をワタワタさせながら落ち着くように言ってくる。


「えーっと、とりあえず落ち着いて?大丈夫よ、ほら女の子になったのはー…………そう!翼と尻尾が生えてたりする事に比べたらまだ……ね?」


「いや、でも!………………確かに」


 僕はまだ何か言おうとしたが、天霧さんの言葉ですっと冷静になり、ぽんと手を合わせる。

 それ程までに天霧さんのこの言葉は僕にとって的を射た発言だった。


 そうだよね、うん。

 こう、人間の体にはない部位が出来てたり、手とか足に鱗が生えたりしてるのに比べたら…………まだ性別が変わったくらい……ね?

 なんだか女になったってことで騒いでいたのが馬鹿だったみたいな気がする………………

 とりあえず天霧さんにお礼を。


「なんか落ち着きました、天霧さんありがとうございまし……た?」


 なぜ目の前に立っている天霧さんは素っ裸なのだろうか。

 というか凄いなこの人、でっかい。それでいてくびれている。そしてまたでかい。

 さっきまで普通だったのに……脱いだら凄いっていうのの体現者だ。

 ボンでキュッでボンだ。

 うーむ、せっかく女になったんだし自分もあれくらい…………って裸!?


 僕はすっと後ろに下がり、膝をついて手を上にあげそのまま上半身を前に倒す。

 つまりは土下座の体勢を僕は取り────


「天霧さんごめんなさいっ!!裸見ちゃいました!僕にできることなら何でもしますのでどうか許してください!」


 うぅぅぅ……いいもの見れた……じゃなくてやらかしたぁぁ…………


 僕は深々と全力で謝りながら本日2度目の謝罪を天霧さんにする。

 顔はよく見えなかったが、天霧さんから気不味そうなそんな雰囲気を僕は感じていた。


「あ、あらぁー……ほ、ほらっ女の子同士なんだから大丈夫だよ?だから……ね?大丈夫よー?」


「いや、でも性別は女の子になってても中身は男ですし……」


「あ、そういやそうだったわね。でも大丈夫よ。今の貴女は女の子だからそんなに気にならないし、それに体が女の子なら襲われることもないし?さぁ、洗うわよー!」


「え?あ、ちょっ、その手はなに!?」


「ふへへへ……さぁ観念なさい!」


 そう言って天霧さんがワキワキと手を動かしつつニヤケた顔でジリジリと僕に近づいてくる、僕は身の危険を感じ逃げようとしたが壁際に追い詰められ───


「ふへへへへ……真っ白なすべすべぷにぷにっ……!」


「ぴゃぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」


 可愛らしい悲鳴が風呂場に響いたのであった。

 しかしそこからの展開は早く……


「あ、こら!そんなゴシゴシと強く洗わない!手で優しく洗わないと!……おぉ…やっぱりお肌ぷにぷにですべすべ……」


「うひゃあ?!」




「髪の毛はまずブラシをかけて素洗い、そして次にシャンプーをよく泡立てて────」


「ひぇぇぇぇぇ……」




「翼ってどうやって洗うのかな……」


「さ、さぁ……?」




「わっ!きゃっ!もうっ、あんまり尻尾動かさないでねー!」


「だってこそばゆいんですもん!」


 ーーーーーーーーーー


「ふはぁー……生き返るぅー……」


 温かーい……お湯の温かさが体に染み込んで染み渡る……

 いっそここに住みたい……


 割と直ぐに体は洗い終わり、僕は湯船で蕩けていた。


「翼が思ったよりも大きかったねー、まさか広げきれないとは」


「ですねー……あぁ…翼も全部沈めたい……」


 翼も沈めきれたらすっごい気持ちいいんだろうなぁ…………


 僕は緩んだ顔で湯船に深く浸かり息を吐いてぷくぷくと泡を出し、そんな僕の頭を同じく湯船に浸かっている天霧さんは撫でて居た。

 最初こそいきなり撫でられて最初は少し驚いたが、撫でられる事が凄く心地よく、僕はそのまま撫でられていた。


 いやぁ〜……最初こそ女の人と一緒にお風呂なんてーって思ったけど、改めて自分のが無くなってる事を確認出来てしまったショックでそれ所じゃなかったね。うん。

 それに、恥ずかしいってのはあったけど「あぁ、裸だ」程度だったんだよね。女の子になってちょっと感性が変わったのかな?


 それから暫くして「そろそろお風呂から上がろうか」と天霧さんに提案され、僕も一緒に湯船から上がる。

 そしてお風呂から出てこれまた天霧さんの言う通りに時間をかけて体を拭き終わった僕は入院服へと手を伸ばす。

 しかし僕の伸ばした手は天霧さんに止められてしまい────


「えっとはいこれ、貴女用のパンツとキャミソール、それと服にスカートとTシャツね」


 僕はそう言われ天霧さんが袋から取り出した女物の服を渡されたのだった。

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