第12話 欲求
「お昼食べないんですか?」
「えぇ、子供の頃から1日1食なんですよ」
「お腹空かないんですか?」
「慣れてしまいました」
どこに行っても、お昼を食べないと不思議そうに聞かれる。
1日、3食食べるのが普通なのだろうか?
私は朝も食べないし、学校でも給食というものを美味しいと思えずに、ほとんど食べなかった。
家でも母親の料理を美味しいと思ったことはないし、外食でも、美味しいと感じたことはない。
好きか、嫌いかはあるのだ。
例えば、セロリは嫌いだし、キュウリは好きだ。
美味しいかと聞かれれば、少し違うのだ。
好きか嫌いかの差で美味しいとは違う。
自分でも上手く説明できないのだが、何を食べても満たされないような空腹とは別の空虚感が残るのだ。
これじゃない…そんな気持ちだけが残る。
だから食べ始めると満たされないまま、何でも食べ続ける。
アレも…コレも…滅茶苦茶に食い散らかす。
何かが違う…
「なんか、アタシの料理…口に合わないの?」
「いや…そうじゃないんだけど…」
「なんか、いつも不味そうに食べるよね」
「いや、えっ?そうかい?」
「うん、外で食べる時も…だけどね」
「うん…ごめん」
こんな調子で上手く女性とも付き合えない。
たかが食事…じゃないか…
そう言えればいいのだが、結局、そのたかが食事に一番こだわっているのは自分なのだ。
「ねぇ!! 聞いてるの!!」
彼女が机をバンッと叩いて立ち上がった。
「ごめん…」
私がうつむくと、彼女が僕の頭に自分が作ったハンバーグを投げつけた。
「そうじゃないんだよ!!」
思わず、私は怒鳴って彼女を殴ってしまった。
「ごめん…でも…」
仰向けに倒れたまま、動かない彼女…
「おい…おい、嘘だろ!!」
彼女の鼻にそっと指をあててみる。
「嘘だろ…」
息をしてない。
慌てて彼女の胸に耳をあてる。
心臓の鼓動が聴こえない。
どうしよう…
唇を切ったのか、口元から赤い血が流れていた。
ゴクッ…
なぜだろう…
動揺しているのか?
無性に腹が減る。
呼吸が荒くなって…
気付けば、彼女の唇から頬肉を食いちぎっていた。
初めて食欲が満たされたような気がする。
常に飢えていた…ずっと…ずっと…私は飢えていた。
彼女の唇から流れた血を舐めて…夢中で食い漁った。
血の味は邪魔なような気がする。
私は彼女の遺体を風呂場で切断した。
動物と変わらない。
頬肉は柔らかく、もも肉は適度な弾力がある。
胸肉は脂肪が多く、骨回りの肉はスペアリブだ。
1週間と絶たないうちに食い尽くした。
骨を鍋で煮て出汁をとろう…
この鍋で、今度は誰を食べようか?
子供の肉なんて旨そうだ…。
窓から下校途中の小学生を眺める。
揺れる赤いランドセルを目で追っている自分に迷いはなかった。
(いつか捕まるまで…食べ続けよう…)
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