第11話 メメント・モリ
電源の落ちた、暗い液晶画面に自分の姿が写る。
僕が腰を下ろすソファの後ろに美しい女性が写る。
女性は無表情で画面の僕を見つめる。
僕は、視線を逸らし…気づかないふりをする。
彼女はソファの横にまわり、僕の目の前に画面を隠すように立つ。
それでも僕は、彼女に気づかないふりを続ける…。
『彼女は、もう…この世にいないはずだから…』
視線を横に逸らす。
長い、3人掛けのソファに別の女性が2人座っている。
2人共、僕をじっと見つめる…。
その目に愛は宿らない。
『過去に愛した女性達…愛していると言ってくれたのに…』
リビングの入り口に目を向ける。
引き戸の陰から、こちらを覗き見る女性が1人。
『アレは誰だっけ…思い出せない…でも、きっと僕を愛してくれたヒト』
誰とも目を合わせてはいけない。
彼女達は、誰一人として、この世にいない…。
あるいは、僕の瞳の中で蠢いているだけの存在かもしれない。
それとも、本当は僕の方がこの世にいないのかもしれない。
『死』を忘れてはいけない。
それは…望む形で訪れはしない…決して忘れてはいけない…。
だから…今夜も、僕は愛を向けてくれる、この女性を殺す。
階段を上がってくる…バスローブを羽織った、若く美しい…この女性を殺す。
彼女も、きっと僕の傍らで『死』を囁き続けてくれるだろう…。
『愛しているよ』…だから…『死んで』………。
広いリビングが狭く感じる。
彼女達は、皆、僕を愛してくれた…ありがとう…だから、ずっと傍にいておくれ…。
死んで…死んで…死んで…。
囁いておくれ…『死』を…。
唄っておくれ…『死』を…。
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