第7話 ジーザス

「なんか馬小屋のマリア嬢、妊娠したみたいよ」

「ヨセフじゃね?」

「大工のヨセフか~…あぁオキニだったからね」


 ………

「アタシ…ヤバくね? コレ…妊娠じゃね?」

 馬小屋で客を獲っていたマリア嬢は悩んでいた。

「ぜってぇ、ヨセフだよ…あのバカ…あれほど外にだせって言ったのに…これだからガテン系は嫌なんだよ」

 ほどなくして無事、出産を迎えたマリア嬢。

「マジでツラかった…身体裂けるかと思ったわ…マジで…」

「マリアさん、男の子ですけど…名前考えてるん?」

「名前…いや…それどころじゃなかったわ…デキ婚じゃん、式前だし…式でイッパイイッパイじゃん」

「とりあえず…イエス(仮)でいんじゃね…面倒くさいし、イェス!!イェス!!みたいなノリでイエス!!」


 ………

「というわけで…俺、馬小屋産まれ、馬小屋育ち、仲間は大概、羊飼いイェス!! 手品覚えて、旅して見せて、弟子増えて、気づけば、それなり大所帯、イェス!!」


「イエスさん、次の出し物の準備OKっす」

「早くね、優秀じゃね、ユダ君、凄くね」

「コレ凄いですよ、ウケますよ」

「マジで? 最近、俺、巷で神ってるって評判らしいね」

「もう神ですよ、イエスさん、神でしょ」


 ………

「えーっ…夕食の前ですが…皆に嫌な話をしなければなりません」

「どうしたっすか?イエスさん」

「えー、どうやら、神ってる私の奇跡をインチキだと言う人がいます」

「インチキって、イエスさん、アレ手品じゃねぇっすか…ウケる」

「いいの!! ネタバレしなきゃ奇跡なの!! 私、神の子イエス・キリストで居続けたいの!! 大体、アレだからね、私がインチキだとバレたら、キミ達も同罪だからね」

「いやいや、俺達、関係ないっしょ」

「同罪だからね!! ねっ…ユダくん…」

 ギクッ…

「アレ…ユダくん…顔色悪いよ…どうしたのかな~?」

「いやいや…イエスさん…そんなことないでゲスよ」

「ゲスよ? なるほど…私をインチキだと巷で罵る下衆には相応しいでゲスね…ユダくん」


 ………

「いや、アイツ…マジで、神じゃねぇし、馬小屋産まれ、馬小屋育ち、お袋娼婦でオヤジは大工…マジだから…神臭とかしないから、馬糞臭だから」

 毎晩、飲み歩いて愚痴って………

(耳に入っちゃった…かな…)


 夕食後、こっそり抜け出して…

「あの…奇跡のネタ…買いませんか~?」

「売っちゃった…銀貨30枚で…」


 ………

「オマエだな…イエスとかいう神を名乗るインチキ大道芸人は」

「……ユダの野郎ー!!」


 ………

「いやいや…どうなるかと思ったね…マジで…ロンギヌス君が、手品用のヤリを使ってくれるか…ヒヤヒヤしたよ」

「良かったスね」

「でもさ、でもさ!! ココ、ほら!! 見て、ちょっと血が出てるっしよ!! ねっ!! バネがさ~硬いんだよ…チクッとしたもん」

「あのヤリ、聖なるヤリとか言って『ロンギヌスのヤリ』だったかな? 超、崇められているらしいっすよ」

「マジで?」

「イエスさんの血が付いたとかで」

「あ~、アレ…先端に仕込んだブタの血だよ~ウケる~」


 ………

「でも、明日、私がピンピンとしてるの見たら、たまげるよね~」

「そりゃもう」

「ますますウケる~」


 馬小屋で娼婦の子として産まれた子供は、こうして神の子として人生をまっとうしていくのであった。


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