第7話 麦わらサンタ

「おはようございます、三田みたさん」

「おはようございます」

 小さな公園で毎日のように花の手入れをしているお爺さんが主婦に挨拶を返す。

 口数こそ少ないが、行き交う人に笑顔を向ける、お爺さん。

 この近所では有名な人だ。

 公園の近所で暮らし、小さな庭には季節の花が綺麗に咲いている。

 キチンと手入れされている庭は、几帳面な人柄が表れている。

 花が好きで、公園の芝生や花壇の手入れも行っている。

 皆に好かれているお爺さん。

 その長く白い髭はサンタクロースを連想させるのか、子供からはサンタさんと呼ばれている。

 暑い夏の日、日焼けした麦わら帽子のサンタさん。


 三田みたさんは水筒に入れた冷えた麦茶を飲みながら、タオルで汗を拭きラジオを聴きながら木陰で休んでいる。

 ラジオからニュースが流れる…最近は物騒な事件が多い。

 通り魔だの、行方不明だの、黒い小さなラジオからは暗いニュースしか流れてこない。

 それでも笑顔の三田みたさん。

 手入れした花壇を眺めながら満足そうだ。


 そろそろお昼になる、今日は帰ろう…続きは涼しくなってから…夜になってから。


 深夜、三田みたさんは外出する。

 河原の藪やぶを掻き分けて…奥へ進むと古い納屋がある。

 納屋の扉を開けると…ムワッとする生臭い空気が外へ流れる。

 懐中電灯に照らされた納屋の奥には…。

 綺麗な花がプランターで咲いている。


「ほほぅ、綺麗に咲いた…綺麗に咲いた…ほほほほ」


 笑顔が狂気を帯びてくる。

 シャベルで丁寧に花を掘り起こす…土の奥には…何かが埋まっている。

 掘り起こされた穴の奥から強烈な腐敗臭が漂う。

「こっちはどうだ…まだ早いかの~」

 大きな植木鉢に咲いた花をグイッと引き抜くと…ボコッと女性の頭部がくっ付いている。

 そう、花の根っこが絡みついた頭部…髪に絡みつき…目玉に根を生やす花。


「成長が早いの…ほほほほほ」

「種を撒くかの」

 先ほどのプランターの花を丁寧に掘り起し、種と植え替える。

 穴だらけの土から、腐敗した女性の胴体が覗く。

 プランターに土を足し、種を撒く三田みたさん。

 いくつかの花を持って河原を後にする。

 帰り道、酔っぱらった近所の男性に声を掛けられた。


三田みたさん?こんばんわ…こんな時間にガッ!?……ど…うし…て…」

 三田さんは鎌かまで男性の喉笛を切り裂いた。


 倒れた男性を鎌でめった刺しにし…返り血で真っ赤に染まった白い髭を撫でながら微笑む三田みたさん。


「新しい着床が手に入ったわい…ほほほほほ」


 死体を引きずり納屋へ戻り、死体をゴロンと無造作に寝かせる。

 納屋から出た三田みたさんを月明かりが照らす。


 真っ赤な服のサンタさん。

 明日も笑顔で花を植えることでしょう。

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