出会い
古びた自転車に乗りすみれは帰宅する。
すみれは少し浮かない顔をしていた。
原因は、この猛暑のせいでも無く、代わり映えのない日常だったからでもない。その逆だ。
今日は日常の中で変化があった。転校生だ。
たかが転校生だと思うがあれは違った。たかが美少女や美男子ならクラスが色めき立ってわかりやすい空気になるのだがあれは、そう、美しすぎた。
これからアレが後ろにいる事に慣れる事が出来るのか心配になりながらも黙々とペダルを漕ぎ進む。
近道の為遊具という遊具がなく広場の様な公園の中を通るとガゼボに珍しく人影があった。
興味から横目で見ると人影は転校生の宮本葵が本を読んでいる姿だった。
驚きが体から湧き上がり脳を支配して体に命令を送ったのかすみれは自転車のブレーキを握った。
高い金属音とタイヤと地面が擦れる音が鳴り自転車は止まった。
その音のせいか葵は本から視線を外しすみれに向けた。
お互い目が合い、すみれは気まずそうに、葵は不思議そうに見ていた。
「……宮本さんだよね?」
すみれはその気まずさから逃げる様に分かっている事を口にする。
「うん」
短く返事をされ会話が途切れる。
すみれが頭をフル回転させ何か話題はないかと絞り出し目の前にある物を話題にする。
「何読んでいるの?」
「え?……あ、これはメルトの階段」
「風会先生の?」
「え!?知ってるの?」
「う、うん」
今まで無機質だったり、緊張からか警戒からか硬かった声色が柔らかくなり、少し身を乗り出し葵は声を荒げる。
その急変ぶりに少し驚きながらもすみれは答える。
そしてすみれは葵の情報を一つ取得してそれを活用する事にする。
「風会先生の作品は好きだから」
「でもメルトの階段は目立たないし地味って言われているから人気も知名度もなかったのに」
「メルトの階段はリアルだよね。人の考えが皮肉に書かれていて情景描写が異様に多いのも綺麗だし」
すみれがそう言うと葵の表情は明らかに明るくなった。
「そうそう!ちゃんと見れば色々な所に伏線が張られていて、それとまるで読者に答えを求める様な名言が多いのも素敵だよね!」
「私はあれが好きだなー。『純粋な悪はこの世にはいない。なら何故悪という言葉が存在しているのか?』ってやつ」
すみれは流れる様に自転車から降りて傍に止め葵の向かいに座る。
「私はねマスターが矢幡に言った『恋は求めるもの、愛は与えるもの。どちらも素晴らしい形だ』ていうのがいいよね!」
「以外に宮本さんロマンチストなんだね」
太陽が世界をジリジリと焼く中、二人の笑顔が輝いた。
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