二日目 振り返り

「お疲れー」

「お。お疲れー、大内おおち


 頬張ほおばっていたしゃけおにぎりを飲み込み、遅れて休憩室にやって来た同僚に声を掛ける。


「客先で打ち合わせ? 忙しそうだね」

「ホントだよー」


 大内は持ってきた弁当箱を開いた。白飯の上に塩ごま、栄養バランスの良い蒸し野菜とミートボールが入っている。

 大内は、いつも手作り弁当を持ってくる。いつもコンビニで昼ご飯を調達してくる私とは、女子力に決定的な差があった。

 これで彼氏なしなんて、周りの男共は見る目が無さすぎる。……あるいは、彼女に相手にされていないのか。


「そっちはどう? 開発忙しいんでしょ?」

「私はそんなに無理してないから。それよか、西村の方が大変そうだよ」

香坂こうさかの後輩、プログラミング得意だもんね」


 西村は私の二年後輩。情報系の大学出身だったため、現場に入ってすぐに即戦力となった。

 そうしてプロジェクトの遅れを取り戻すため、昼夜ちゅうや問わず働かされている可哀想かわいそうな奴である。


「私もプログラミングの勉強やらないとなー」

「大内はもっと上流工程の仕事、勉強してるじゃん。今日の打ち合わせも要件定義ようけんていぎでしょ?」

「まぁねー。上司が、色々見て覚えろってさ」

「期待されてるじゃん」

「でも最近、仕事ばっか。そろそろ恋とか、別の楽しみが欲しいわ」


 仕事も恋も両方とは、相変わらず大内は向上心が高い。私は、鎌倉で聞いたウグイスの事を思い出していた。


 やはり、人間とウグイスも同じ。

 良い師匠を持ったウグイスの鳴き声は綺麗で、悪い師匠を持ったウグイスの鳴き声は、どこか締まらない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る