49.探索・コイラ墳墓
「しかしまあ、大昔の人々はなぜダンジョン化してしまうほど魔力の濃い場所に墳墓を作ったのじゃろうな」
最近はあまり人が入っていないのか、もしくはダンジョンの修復力がそうしてしまうのか、コイラ墳墓内には通り道にも邪魔になるほどの木々が生い茂っている。
それを腕や武器で払いながら進んでいると、「それもどうなんだろう」とギリアイルが返す。
「もしかしたら順序が逆で、長く墳墓として使われるうちに人々の怨念だったり無念だったりが積み重なってダンジョン化するほどになってしまったのかもしれないね」
「確かにその線もあるのう……寄り集まった人の思念が具現化する世界、か……」
この世界がどういった法則で回っているのかシエラには未だに到底理解できないが、自分の住んでいたあの世界とは全く違うものが根底に流れているのだろうな、と本能的に感じるところはある。
「そろそろ墳墓の中心に近いはずだ。注意しろよ」
草木をかき分け、幾度も戦闘を繰り返し、損傷はないものの精神的にはかなり疲弊してきた頃、ガレンから声がかかる。
コイラ墳墓は円形の構造になっており、少しずつ中央に向かってくぼんでいるすり鉢状のダンジョンである。
そのすり鉢の底には、広場と大きな納骨堂があるそうで、ダンジョン化してからはそこにボスが発生するのだという。
「俺たちもあまり頻繁に来るわけじゃないが、何度か訪れたときは毎回死霊系の魔物だったはずだ。他の冒険者の情報では来る度に人型だったり動物型だったり様々な種類の死霊が出現するようだが……」
「なるほどのう。死霊系ということだけは固定されていて種類はランダムか、そういうのもあるんじゃの」
そう話しつつ、周辺に落ちている素材を回収するシエラ。
「……それ、何を拾ってるの?」
イヴがシエラの革袋を見ながら聞く。素材を一時的にまとめておくための革袋はかなりの大きさに膨らんでいる。(無論このあとインベントリに袋ごとしまうため行動に支障はないのだが)
「ん? ああ、これは墳墓に落ちている骨じゃよ」
シエラが革袋を開いて中身を見せると、中には何の生き物のものかも判別できないほど雑多な種類の骨がぎっしりと詰まっている。見方によっては多少ホラーな雰囲気ですらある。
「これ……何に使うの?」
「これらはただの骨ではないんじゃよ。それ自体が魔化された――魔力を持った魔物の骨じゃな。使途としては基本的には錬金術の素材じゃな。錬金術で作られる治癒軟膏などが代表的かの」
なるほど、と頷くイヴ。
ダンジョン内で発生した魔物は絶命するとき魔素となってダンジョンに還るが、魔物核や強い魔力を持った素材はその場に残る。それと同じ残り方をした骨がこの墳墓には大量に落ちていたので収集していたのである。
「見えたぞ。まだボスの姿は見えないが……広場に入ったら出てくるだろうな」
ガレンに声をかけられて前方を見る。
広場は石造りのタイルが敷かれ、今までかきわけてきた道中とは正反対に枯れ葉の一枚すら落ちていない空間である。
先ほどまでの落差からか、どこか静謐で神聖な雰囲気すらも感じてしまう。
「じゃあ、加護をかけるよ。《
ギリアイルが杖を構えて唱えると、ガレンとエディンバラの武器が青白いオーラを纏う。
純粋な物理攻撃は死霊の類にほとんどダメージを与えられないため、その対策として武器に魔法的な属性を付与するのである。
ちなみにシエラの大剣は元から氷雪系の能力を込めた素材で出来ているため、加護が不要なことを既に説明済みである。
さらに、ギリアイルの魔法で対物理、対魔法、対精神干渉の加護を付与していく。
ギリアイルの修める聖属性の魔法は回復魔法の他にも防御的な魔法が充実しているのである。
「準備完了。行こうか、リーダー」
「よし……行くぞ!」
ガレンが盾を身体の前に構え、広場に突入する。
次いで太刀を納刀したままのエディンバラ、ギリアイル、シエラ、イヴと続く。
全員が広場に入ったあたりで、雰囲気が変わる。
周囲の木々がざわめき、空は暗くなり、空中にいくつもどろりとした魔力の塊が発生する。
その空気に驚き突っ立っているシエラとは裏腹に、《黒鉄》は行動を開始した。
ガレンは中央に向かって盾を構え、エディンバラは居合の構えを取る。
そしてイヴはといえば、
何かの形を取ろうとしていた魔力塊たちが、稲妻に貫かれてほとんどが霧散する。
結果、攻撃を免れた五つの魔力塊がそれぞれ動物や人間の形を取る。
中でも、中央に集まった魔力塊は非常に大きくなり、顕現する。
降り立ったのは骸骨の身体に黒いボロ布を纏い大鎌を提げた、絵に描いたような死神の姿である。
「そうか、敵の準備を待っている必要はないんじゃったな……!」
あまりにもゲームのイベントカットのような光景に思わず見てしまっていたが、確かに黙ってみている道理はない。
実際、イヴの先制攻撃によってボス戦の戦力は七割以上削がれている。
シエラがそう思っている間に、戦端は開かれた。
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