48.突入・コイラ墳墓
翌朝、日の出より少し早く出発した一行は、昼過ぎにコイラ墳墓の入り口へとやってきていた。
道中では冒険者組合での話の通りかなり多くの魔物と遭遇し、撃破を余儀なくされた。
シエラの想像ではほとんどが以前のようなアンデッド系なのかと思っていたが、遭遇する魔物は意外にも種類が豊富で、アンデッド、動物系、精霊系など雑多な様子であった。
ギリアイルに聞いたところ、コイラ墳墓には人間の墓の他に、動物の墓やゴミ捨て場といった機能も兼ねていたらしく、そういった様々なものが集まった結果普段から魔物の種類も多彩なのだという。
もっとも墳墓として使用されていたのは大昔のことのようで、現在は完全にダンジョンと化しており戦闘力のない者は立ち入ることすらできないスポットとなっている。
現在、コイラ墳墓はその広大な敷地を立派な石造りの塀で覆われた閉鎖空間となっている。
そのため、シエラの目からは中の様子は全く確認できない。
「……とはいえ、これでは逆に道中に魔物が溢れていたのが説明がつかぬな。どう思うかの、ギリアイル」
「そうだね。全体的に塀が崩れている様子はないし、門もしっかりと閉じられてる。塀を乗り越えているのか、もしくは……うーん、今の状態だけではなんとも言えないかな」
ギリアイルが首をひねり、その言葉にガレンが頷く。
「やはり突入して調べてみるほかあるまい。行くぞ」
ガレンが右手に盾を構えつつ、錆び付き苔むした金属製の扉を押し込む。
「応よ!」
次いで意気揚々と入っていくのはエディンバラ。
その腰には、真新しい雰囲気のつや消しの黒い鞘がさがっている。
これはシエラ謹製のエディンバラ専用太刀、《
アストラ遺跡事変の帰りに武器を打ってくれと言われ、その後正式に依頼を受けて制作した品である。
見た目は普通の太刀だが、グランリット鉱山で採掘した緑鉄が多めに含まれており、反射光がうっすら緑に光るという特徴がある。
ほぼ全ての材料がグランリットのもので出来ているが、友好の印としてほんの微量だけ天空城《アルカンシェル》備蓄の魔法金属を混ぜ込んでいるのはシエラのみが知る秘密である。
本人の筋肉量は十二分なので攻撃力増強系の追加効果は込めず、本人の反応速度を若干ブーストする効果が封じてある。
シエラ自身には刀は振れないが、リサエラが出来栄えをチェックしてくれたのでおそらく問題ないはずだ。
エディンバラとしては新武器のお披露目ということでいつもよりさらにテンションが高いように見える。
「じゃあ、ぼくたちも行こうか」
「うむ」
「……うん」
そして後ろにはギリアイル、シエラ、イヴと続く。
ギリアイルはいつもの回復魔法用の杖、シエラは白銀の大剣《ソード・オブ・アイオライト》、イヴは
「おや、今日も弓ではなくそいつを使ってくれるのかや」
「……私に、合ってるような気がするから。もしかしたら、主武器にしていくかもしれないし」
「それは作った甲斐があるというものじゃ。まあ魔力切れには注意じゃが……」
「弓兵は、わりと魔力あるから。たぶん、大丈夫」
なるほどそういうものか、とシエラは納得する。
確かに、弓兵は物理攻撃職としては比較的多く魔法を併用する職業である。
矢に魔力を込めて貫通力を上げる魔法や、つがえた矢をコピーして同時に複数の矢を射る魔法、矢を用いずに魔力で出来た矢を射る魔法など補助魔法が数多く存在する。
騎士や武士といった基本的に魔力を持たず特殊技能を気力やスタミナを吐いて使用する戦闘職とは全く方向性の異なる職業と言える。
(ただし、先に上げた近接職の者たちの中にも、先天的に魔力の素質を持ち魔法を併用して戦う者たちも皆無というわけではない)
そういったことを考えれば、確かに一流の弓兵たるイヴの保有魔力であれば、初級魔法《
そういった会話をしつつ、一行は注意して墳墓内を進んでいく。
塀の外からはわからなかったのだが、中は鬱蒼と緑が生い茂っており、陽の光が届く場所がまばらになっている。
墓石や棺も乱雑に広がり、自分が森に来たのか墳墓に来たのかわからなくなってくるほどである。
「右、百メートル、
魔物が木々の間から駆け寄ってくる気配を察知し、ガレンが声を張る。
その声と同時に素早く隊列を組み替えた《黒鉄》が、魔物の群れを迎撃に入る。
右の魔化狼二体はイヴが。
姿勢を低くし銃身を安定させ、雷の魔法を素早く四連射。
――一射目、稲妻が魔化狼の口から尻を真一文字に貫く。
――二射目、味方が絶命した理由を鋭い野生の感覚で感じ取ったのか、着弾寸前で横に飛び回避。
――しかし、回避した先に三射目が既に走っており着地した前足を焼き、四射目が頭部を貫く。
左の魔物四体にはガレンが前に出て盾を構え――それを軽々と飛び越したエディンバラが太刀を抜き、一閃。
塊になって走っていた低級アンデッドの胴を一太刀で両断する!
漏れた一匹の魔化狼を後ろのガレンが盾で弾き飛ばす。
それに反応したエディンバラがふわりと舞い上がり、狼の身体を一瞬で三枚に下ろす。
これらが数秒間のうちに、流れるように実行される。
中央に備えるギリアイルとともに突っ立っていたシエラとしては、一瞬で組み上がるパズルを見ているような感覚であった。
「なるほど……やはり見事なものじゃな。これがおぬしらが一流と呼ばれている所以じゃよなあ」
「そう褒めるな。エディンバラが調子に乗る」
盾を下ろしたガレンはそういいつつも、まんざらではない様子である。
「いや、《白の太刀》を見たときにも思ったが、やはりおぬしらのような冒険者には、無駄を極限まで省いた戦術というか、そういったものが備わっておるんじゃなと思ってな」
「それができないと、死ぬからな」
確かに、とシエラは頷くほかなかった。
死なないために、実用的な技術を磨いた結果到達したチームワークである。
これは、シエラの率いていた最高峰ギルドシェル《アルカンシェル》にも真似の出来ないことだ。
それは彼らが基本的に自分勝手で、個人芸とやりこみに秀でた人種ばかりだったというのもあるが、あの世界――《エレビオニア・オンライン》がゲームにすぎなかったためである。
生きるための技術というのはやはり違うものなのだな、と強く感じるシエラであった。
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