47.インターミッション

 数日間の馬車旅を経て、シエラと《黒鉄》の一行は交易都市ヤイグリに入っていた。

 

 王都アイゼルコミットで見たような建築様式の建物が並んでおり、そこを行き交う人々の活気も王都並みといった印象である。

 立ち並ぶ店の様子を見てみれば、話に聞いていたとおり確かに交易品を売る店が多いようで、異国情緒を感じる品々が並んでいる。

 (異国情緒といってもシエラはエリド・ソル王国の風土自体にもあまり詳しいわけでもないのだが、見覚えのない品が多い印象である)

 

 それらを興味深く眺めつつ、シエラは並び歩くガレンに話しかける。

 

「それで、これから向かうのは冒険者ギルドじゃったか」

「ああ。今回侵入するダンジョンの立ち入り許可証を貰わないといけないからな」

「ほうなるほど、そういった手続きも必要なんじゃのう」

「ん? シエラ殿であれば経験も――と、そうか、シエラ殿は冒険者証は持っていないのだったな」

「わしは錬金術師であって冒険者ではないからの」

「あれだけの業物を振るうものだからつい、な……」


 そう話しているうちに、二人はヤイグリ冒険者ギルドの前に到着していた。

 他の三人はというと、今夜泊まる宿を探して別行動中である。

 普段はこういった手続きの類はガレン一人で済ませてしまうらしいのだが、冒険者ギルドというものに入ったことがなかったシエラが興味からついてきたのであった。


 木製の扉を開け、中に入る。

 

「おお……すごい人の量じゃな」

「まあこのへんは隊商護衛をはじめとして仕事も多いからな。……とはいえ、夕方だというのにいつもより随分多いように思うが」


ガレンが眉をひそめる。


「ふむ、まあそのへんも含めて係員に聞いてみるのが早そうじゃな」

「そうだな。行くか」


 二人が歩みを始めると、ガレンの姿を目にした冒険者たちが自然と引いていき、海を割ったようなように通路が出来上がる。

 これはガレンの体格の大きさというよりも、《黒鉄》のネームバリューのおかげか、とシエラは一人納得する。

 周囲を見てみれば、ガレンに対して尊敬の眼差しを注いでいる冒険者も多く、《黒鉄》の人気がいかに高いかが窺えるというものである。

 《白の太刀》に次ぐ国内最有力パーティという話は誇張抜きだな、と思いつつ、ガレンのあとをついていく。

 その端正な容姿と流れる銀髪によってシエラ自身もかなり注目を集めていたが、当の本人は全く気付いていなかった。

 

「コイラ墳墓とヤイリア大渓谷の立ち入り許可を、頼む」

 

 ガレンが受付嬢に冒険者証(正式には冒険者業許可証というらしい)を見せながら言うと、受付嬢は笑顔で答え、金属製の板をニ枚差し出した。

 

「こちらになります。最近妙なことが多いので、《黒鉄》のみなさんも気をつけてくださいね。……ところで、そちらのお嬢さんは?」

「ん? ああ……協力者、のようなものだ。ところで、妙なこと……とは? 人が多いのと関係があるのか?」

「ええ、そうなんですよ。街道に出る魔物がすごく増えてるみたいで……特に、墳墓や大渓谷に向かうルートが顕著で」

「ダンジョン化している場所へのルートが、か……なるほど、感謝する」


 その話に、顔を見合わせるガレンとシエラであった。

 

 


 受付嬢から話を聞いた二人は残りの三人と合流し、宿屋の男子部屋に集まっていた。

 ちなみに普段は《黒鉄》は誰も気にしないので四人部屋を借りて寝るそうだが、今回はシエラが加わっていることで一応の配慮のもと男性部屋と女性部屋にわけてもらったらしい。

 

「……ダンジョンへの道中では以上のような異変が起きているらしい。もしかすると……我々の目的と状況が合致している可能性がある」

「うむ、わしもそう思う。まだ大きな被害が出ているわけでもないそうであるし、わしらで対処できるのであれば越したことはないな」

「ということで、《黒鉄》は明日から早速ダンジョンへと向かうこととする。行き先は距離の近いコイラ墳墓だ」




 その後準備や打ち合わせを終わらせて、シエラとイヴは二人部屋へと入っていた。

 《黒鉄》メンバーの配慮ということで断る理由はなかったのだが、シエラとしては若干の緊張がある。

 

「……やっと、まともな宿で休める」

「そうじゃな。ここ数日は野営ばかりであったし」


 答えつつ、シエラはベッドに腰を下ろした。

 一般的な現代人であったシエラとしては馬車旅というのは非常に楽しく感じるのだが、流石に疲労が溜まっていたらしい。

 伸びをすると背中がぽきぽきと音を立てる。

 そうしていると、向かいのベッドのほうでするりと衣擦れの音が聞こえてくる。

 何気なく視線を向けると、そこには諸々の装備を外し服を脱いだ、一糸まとわぬイヴの姿があった。

 色白の肌に、冒険者らしい引き締まった身体、薄く浮かぶ筋肉のライン、ほのかに膨らんだ双丘のライン、それらを追っていくと――その身体の持ち主と目があう。

 

「ぅお、っと、すまぬ」


 思わず顔を背けると、イヴが少し不思議そうな顔をして首をかしげる。

 

「……どうしたの?」

「ぃいや、なんでもない。おぬしは脱いで寝る派だったのじゃな……と」

「うん、そう。男たちと寝るときはそうもいかないし……こういうときくらい、はね」

「うむ……そう、じゃな。では明日も早いし、おやすみ」

「……おやすみ」


 シエラから見ても非常に美人なイヴのあられもない姿をみてしまったせいで多分に動揺してしまったが、蓄積していた疲労のためかさほど時間もかからずにシエラは夢の世界へ落ちていったのであった。

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