16.現状報告
「天空城《アルカンシェル》眷属のうち、序列第一から第五位、参上いたしました。――シエラ様、なんなりとご命令を」
ここに片膝をついているのは5人だけだが、正直シエラは圧倒されてしまっていた。
ゲーム時代のNPCといえば、座るか立つか歩いているか、メニューを呼び出したときに応答するモーションを取るだけであった。
性格などはおろか、そもそも声すら実装されていなかったのだから、自分の眷属たちがこのような反応をするというのはかなり予想外だったのである。
どう接すればいいのだろうか。忠誠心はありそうな様子だが、命令をしてもいいのだろうか。
「う、うむ……そうじゃな、では各眷属よ、まずは現在のそれぞれの管理状況を報告するのじゃ」
「かしこまりました。それではまず、私、地下工房管理担当エルムから報告させていただきます。地下工房は全てメンテナンス済、錬金、鍛冶設備も無論即時使用可能となっております。……そういえば、昨日の早い時間に、リサエラ様がいらっしゃいましたね」
最後の言葉に、シエラは驚く。
行方のわからなかった4人目のオンラインギルドシェルメンバーであるメイド長のリサエラも、やはり早々にリコールの存在には気付いていたようだ。
「そうか、やはり奴もここに来ておったか……今はこの城にはおらぬのか?」
「その点については資材管理担当のエストから報告させていただきます。リサエラ様は、資材倉庫にも顔を出されたのち、『やらなければならないことがあってしばらく城を空けるので、シエラ様がいらっしゃった際にはよろしく』と私に伝言を残されていきました」
まあ、やはりか……とシエラはがっくりと項垂れた。
リサエラはシエラのことをとても好いてくれていたようなのだが、それでもやはり《アルカンシェル》のメンバー。
何か、興味を惹かれるものに現地で出会ったのだろう。
「まったく、あやつらは……。まあ無事が確認できておるならそれでよい」
それを聞いて、笑顔を浮かべるエスト。
「はい。リサエラ様を確認できたのみならず、こうしてシエラ様のお姿も拝見できたことで私たちも大変安心いたしました。……それでは資材管理担当としての残りの報告になりますが、倉庫に特に変わりはなく、一度訪れたハナビ様とチクワ様が備蓄の治癒ポーションを30本前後ずつ持ち出して行かれましたが、その程度かと思われます」
資材倉庫には、シエラがギルドシェルメンバー用に精製し続けていた各種ポーションがかなりの数備蓄されている。
100本や200本減った程度ではびくともしない在庫数を誇ってはいるが、また適当なタイミングで補充しておいたほうがよさそうである。
……というか、もう既に何かと戦いになっているのだろうか、彼らは。好戦的すぎる。
「ふむ、ご苦労。次は――防衛部かの?」
「ハッ。防衛部門については私ゼンと、エビテンよりご報告させていただきます」
スーツの仮面紳士は立ち上がり一歩歩み出ると、優雅に一礼する。芝居がかっている動作だが、見た目も相まって非常に似合っている。
その後、鎧姿のエビテンも続き、がっしりと頭を下げる。
「天空城を覆う認識阻害結界、雲生成術式は問題なく稼働し続けております。バリア発生装置、魔術大砲砲座、魔術ガトリング砲座についてもメンテナンスを完了済、いつでも稼働できます。今のところ、レーダーには何も反応しておりません。ただ……」
「ただ?」
「ハッ、ただ、レーダーに映る周辺の地形が昨日(さくじつ)より、以前と全く異なる地形なのです。まるで今までと全く違う場所に天空城が位置しているような……」
それは、天空城が異世界に転移してしまった影響だろう。
ただ、NPCたる眷属は世界が変わってしまったことを把握できていない――というよりもゲーム時代からの世界と感覚が地続きだと思っているようなので、シエラは返答に困る。
「……ふむ、なるほど。まあ平和なうちは特に対応する必要もあるまい。異変が起きないかどうか、警戒しておいてくれ」
「かしこまりました」
「それでは、次は私、エビテンよりご報告を」
鎧姿のスキンヘッドというだけでかなりの迫力なのだが、よく響く重低音の声がさらに迫力を増している。
頼もしいといえば頼もしいのだが、シエラは多少ビビってしまう。
「敵性反応は現在存在しないため、防衛部隊は現在鍛錬に当たっております。全員状態に問題なく、いつでも防衛にあたれます」
「よし、それならばよい。……そうじゃな、時間があるなら地下迷宮の調査を頼めるか。どうなっているのか長らく把握しておらぬのでな」
「了解いたしました。精鋭でパーティを編成し、調査を担当させます」
実はこの天空城の地下深くは、広大なダンジョンになっている。
浮遊核《世界の心臓》は膨大な魔力を有する代わりにモンスターも生み出してしまうらしく、地殻を浮かべる力をもたらすと同時に地下に巨大な迷宮を生成してしまったのだ。
別に地上までモンスターが湧き出てくるわけでもないし、高位のモンスターが多いので素材取りにもレベリングにも使えるので、ゲーム時代はデメリットよりもメリットのほうがかなり大きなダンジョンであった。
現実と化した今、もしかすると地下に封じられていたモンスターが地上に出てこられるようになっているかもしれないし、何かの原因でさらに凶暴化しているかもしれない。脅威度を調べておくのは必要な処置であった。
「うむ、くれぐれも無理はするでないぞ」
「はい、徹底させます。シエラ様のご配慮、無駄にはいたしません!」
「おう、うむ……」
なんというか熱血な雰囲気のエビテンとの温度差を感じるシエラであった。
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