11.冒険者たち

「俺らの出番のようだな、よろしくね、シエラちゃん」


 真っ先に声をかけてきたのは、若干軽薄そうな印象の金髪の男だ。

 シエラは差し出された手を握り返した。


「うむ、シエラじゃ。して、おぬしらは?」

「おっと、名乗り遅れた。俺たちは戦闘系冒険者パーティ《白の太刀》。ここらじゃ多少は有名なんだけど、知らない?」

「いや、すまんが聞き覚えはないな。この街は来たばかりでな」

「そっかそっか。じゃあ紹介するわ、まず俺がリーダーのゲラリオ。弓兵の作戦指揮担当ね。そんでこっちの陰気な男は治癒魔術師のアースリ」

「陰気とは、なんだ」


 陰気と呼ばれたアースリが反論する。

 ただシエラの見る限りだと、目にクマを作り、目つきの少し悪いその男性は確かに陰気と表現するのが適切なような気がする。

 人を見かけで判断するのは失礼だが、治癒魔術師というより、呪術師とか死靈術師とかのほうがイメージに沿うというものだ。

 

「そんで左から槍兵のアカリと、盾のアケミ。双子だからちょっと見分けつかねえかもしんないけど」


 その紹介を受けて笑顔でうなずいた二人は、確かに見分けがつかなかった。

 健康的に日焼けした肌に、赤く染めたらしい髪のよく似合う活発そうな双子姉妹である。

 服装の趣味は全く違うらしく、アカリが開放的なのに対してアケミはあまり肌の露出をしない服装だったのでこの場での判別に苦労はしなかっただが。


「よろしくお願いします、シエラさん」

「わあーかわいい、錬金術師なんだって、すごいよね、アカリお姉ちゃん」

「本当です。まだこんなにちっさいのに……」


 ちっさいと言われると複雑な気分だが、実際否定はできないので黙っていることにする。

 

「それそれ。アカリ、こいつを見てくれよ。たぶんきみが適任だろう」


 そう言って、ヘラルドがアカリにイヤリングを渡す。

 攻撃速度増加の効果が宿っているということで、近接職の人間に渡すのは確かに適任だとシエラも思った。

 そして同時に、なるほどその感覚のわからない一般人などは装備品を見てもその効果までは読み取れないのか、と新鮮な気分であった。シエラたちプレイヤーは自分の所持しているものであればその効果について簡単に確認できるので、それが当たり前だと思っていたのである。

 

「はーい、お借りしますね。へえーシエラさんがこれを? デザインも素敵で――って、これ……!」


 手に持って、しげしげと観察したアカリが驚きを顕にする。

 

「コレ見て、アケミ!」

「なになに? ……これ、すごい……! こんなの見たことない――」


 ……シエラは用心してかなり昔に作った物を見せたわけなのだが、何か自分の想定外の方向に話が進んでしまっているような雰囲気である。

 

「あー……何かおかしなものを見せてしまったかや?」


 若干冷や汗を感じながらシエラが聞くと、双子が揃って首を横にぶんぶんと振る。

 

「いやいやとんでもないです! 私、イヤリングにこんな強い力を込められるなんて知らなくて……!」

「うんうん、この街の錬金術師も指輪にちょっと付与を入れるのが精一杯だって言ってたのにねー」

「まああそこはポーション作りのほうが得意みたいですけどね。苦いけど実際安くてよく効くし」


 その錬金術師というのはおそらく今日聞いた人物と同一人物だろう。安くてよく効くがとても苦い、はすでに一種の売り文句として通っていると見える。

 

「いや、本当にたいしたことはないんじゃが……」


 なんと答えたものか、シエラは迷ってしまった。シエラはあまり下手に目立つのは避けたい性格の人間だったが、嘘を付くのが得意な人間でもなかった。

 

「これ……よかったら、私に売っていただけませんか!」


 考えるシエラを見てどう思ったのか、アカリがバッと頭を下げる。

 シエラの混乱度合いはさらに深まってしまった。

 

「いや、えっと、うーむ……わしは別に構わんのだが、わしはこの街に来たばかりでな。おそらくこの街で勝手に商売をするのはまずかろう?」


 助けを求めるような目でヘラルドを見ると、困っているのが伝わったのだろう、ヘラルドが苦笑して答える。

 

「あー、たしかにそうだね。この街――というかこの国で商売をする人はみんな何かしらの国営ギルドに所属してるんだけど、その分だとシエラちゃんは未所属みたいだね」

「……と、まあそういうわけじゃ。この話はまた今度に――」


 ヘラルドの援護射撃を得たシエラはまとめにかかったが、アカリはその程度で諦めるような人間ではなかった。


「じゃあ! 何か、金銭以外のもので、物々交換という形で、どうか……!」

「まあ、それならこの国の規約にも反しないね」


 ……ヘラルドは、特に味方というわけでもなかったようだ。

 

「……はあ、まあそういうことなら……、あ、そうじゃ」

「なんですか!? 私にできることならば、なんでも……!」

「い、いや、そういうことではないが……、よかったら、この街の周辺をちょっと案内してくれぬかの。錬金術の素材を集めるにも、一人では少々難儀しておってな」


 それを聞いたアカリは、目を輝かせて頷いた。

 

「そのくらいなら喜んで! みんな、いいですよね?」

「ああ、その程度お安い御用だ」


 アカリの問いかけにゲラリオが答え、


「もう、お姉ちゃんったら」


 アケミが仕方ないという顔で、

 

「アカリの武具好きは、治しようがないな」


 アースリが諦めを込めて頷く。

 

「いやべつに全員ついてきてくれなくともいいのじゃが――、まあよい、全員分何がしら作ってやるとしよう」


 まあ、この程度ならいいだろうと考えて了承する。

 この世界の人たちの戦闘や、チームプレイについて見ておきたいと思っていたのは事実なので、この世界の素材集めも同時にできてちょうどよかったとも言える。

 

 その後、シエラは《白の太刀》の夕食に巻き込まれ、半ば宴会のような混沌につきあわされることになったのであった。

 

 

「じゃあ、明日朝9時にロビー集合で、よろしくお願いします、シエラさん!」

「うむ、よろしく頼む」


 宴会の後、計画と準備を詰めるためもう少し残るという《白の太刀》よりも先に、シエラは部屋に戻った。

 偶然にも予定が空いていたというので、明日早速近隣の探索に出かけることになったのである。


 シエラは疲労からかなりの眠気を感じていたので、雑に服を脱いで、ぼすりとベッドに潜り込んだ。

 スク水一丁で布団に入るという妙な格好だが、別に誰が見ているわけでもないので問題ないだろう。

 

 そんなことを考えつつ、シエラの意識はすぐに落ちていった。

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