毛皮

ちゅけ

第1話

うちにはずいぶん長いこと、猫の幽霊が出入りしている。


昼とも夜ともなくうちの猫の残したカリカリをガリガリ食べる音がする。


猫と察しがついたのは鈴の音で、チリンチリンと軽やかに、そして低い位置で鳴る。


同居人に話したら、実家で飼っていた茶トラが遊びに来てるのかも!と喜んだ。


なるほど20年も生きたそうだし、家族である同居人恋しさにうちに居着いたとしたら泣ける話である。


うちの猫が嫌がらないのもあって、夜中同居人が寝たあとにチリンチリン音がすると「トラちゃんカリカリあるよ」などと話しかけたりしていた。


昨夜。


いつものようにぼんやり独りの時間を堪能していると、視界の右端に大きな白いものがみえた。


それは、立派な白猫で、瞳は青く、毛に埋もれながらもベージュの首輪がみえた。


首輪についた小さな小さな鈴が鳴る。


「トラちゃん?」


白猫はこれまた長くて立派なしっぽをフリフリッとして、そしてゆっくりと透け、最後には消えてしまった。


いま現在まで、鈴の音もカリカリをガリガリする音も、一切しない。


成仏とやらだろう。


私がトラちゃんトラちゃん云うから訂正したくて姿をみせたのか。さよならのかわりか。


「私はねぇトラちゃん、ずっとうちにいてくれたらいいなって思ってたんだよ」


ぽとりと涙が落ちた。温かい涙だった。

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毛皮 ちゅけ @chuke

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