140字蟹62 にこっ

「にこっ」

「にこ?」

「笑うとつらさが吹っ飛ぶと言うよな」

「まあ言うね」

「あれは嘘だと思う」

「またまた」

「笑っても空虚な気分になるだけで吹っ飛ぶどころかもっとつらくなるからな」

「ヒェ…疲れてるよ…」

「俺は普通だ」

「普通か」

「俺にとっては普通だからな」

「まあ、そうだねえ」

「つらいのが日常だからそれをどうにかするとか抜け出すとかそういうのはナンセンスなんだ」

「うん」

「いくら頑張っても無理だったんだから、無理なんだよ…」

「うん…」

「……」

「…大丈夫。きっとよくなるよ。僕が傍にいるんだから」

「…そうだと、いいな」

 蟹のいる午後は暮れてゆく。

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