第28話
特に誰かに話しかけることも、誰かに話しかけられることもないまま私はボーっと殿下方が挨拶をこなしていくのをお茶やお菓子をいただきながら見ているだけでどんどん時間は過ぎていく。アーサベルス殿下の様子を見ていると、どの人にもにこやかに対応しているようだけれど特に令嬢の前でだと冷たい笑みになっているきがする。よほど肝が据わったご令嬢でなければ殿下とは必要最低限の会話だけしかできないだろう。ランフェル殿下に至ってはほぼしゃべっていないし。
殿下方の様子を見学しているだけで交流会の目的は果たしていないけど、まあいいかな。平和はいいことだしね。
なんて考えていたのは先ほどまでのことでした。はい。
どうしてこの方たちは5人で私の前をふさぐように立っているのかしら?
影が降ってくるのはいいのだけれど、なんだか厄介な気がしかしない。
「あなた、公爵家の養子になったからって調子に乗っているのではなくて?
殿下方にもあんなになれなれしく接して……」
ああ、やっぱり面倒だ。中心にいる女子がすいっと一歩踏み出すといきなりそんなことを言ってくる。
「あの、どちら様でしょうか?
それに私調子に乗ってなどいません」
「まあ、私の名前をご存じないのですか⁉
マンクット侯爵が娘、クーゼア・ティー・マンクットですわ」
いや、本当に誰ですか?わかるわけがない。
「現騎士団長様のご息女ですのよ!
まさかご存知ないなんて」
ひそひそとわざとらしく言われても知らないものは知らないのである。というか侯爵家の娘が爵位が上の令嬢に突っかかっていいと思っているのだろうか。
「な、何か反応したらどうですの?」
「あの、私がチェルビース公爵家の養子に入ったのはご存知なのですよね?
爵位の順位というものをご存知ないのですか?
クーゼア様は侯爵家のご令嬢とおっしゃっていましたけれど、それくらいの知識も身につけていらっしゃらないのですね」
淡々と、ただ事実と嫌味を並べていくと言い返されるとは思っていなかったのか、固まってしまった。
「な、な、なにを!」
「何をしていらっしゃるのですか?」
さっと上がったクーゼア様の手に思わず目をつぶると、上から先ほど聞いた声が聞こえてきた。確か、アーサベルス殿下の声?
「あ、アーサベルス殿下!
いえ、なんでもありませんわ」
さすがに分が悪いとわかっているのかほほっと、といって令嬢たちは去っていく。これは助かった、のかな。
「大丈夫だったか、ウェルカ嬢。
けがは?」
「大丈夫です。
助けていただき、ありがとうございました」
そんなことはいい、とほっとする顔はなんとなくベルク殿下に似ている気がする。そういえば、あんなに大勢との挨拶は終わったのか。
「アゼリア姉上に話を聞いてずっと話してみたいと思っていたんだ。
君は、社交が苦手そうだね」
苦笑をしながら言われてしまうとは思わなかったけど、どうやら苦手らしい。まあ。それはなんとなく察してはいたんです。そういうアーサベルス殿下も随分とご令嬢方が苦手そうではないですか、なんて言えるはずもない。
はい、とも言いたくなくて手に持つお茶をこくこくと飲んでいると、ランフェル殿下にも笑われてしまった。
どうせ私は社交が苦手ですよ。
「まあ、そうすねないで。
これから慣れていけばいいさ」
「そう、ですよ。
まずは私たちとからどうですか?」
「今度は3人、5人でもいいな、とにかく兄弟でお茶会をしようよ」
「で、ですが殿下方はお忙しいでしょう?」
「それくらい大丈夫さ。
それに僕たちがウェルカ嬢ともっと話しをしてみたいんだ」
ね! というアーサベル殿下の隣でランフェル殿下もそうですよ、と言ってくれる。少し戸惑いもあるけれど、このお2人とベルク殿下、お姉様でのお茶会だと確かに楽しそう。
「では、よろしくお願いします」
「約束だぞ!」
嬉しそうにそう言うと殿下方は時間だと去っていってしまった。するとすぐに今まで控えめだった好奇心や嫉妬といったような視線が強くなる。居心地が悪い……。
「ウェルカ!」
「お母様?」
「そろそろお茶会はお開きよ。
帰りましょう?」
「はい!」
その視線から助け出すかのように声をかけてきてくれたお母様に連れられて私は無事にお茶会を後にすることができた。
結局本来の目的は果たせていないけれど、殿下方と仲良くなれたからいいとしようかな。
そんなことを考えながら私たちは王宮を去っていった。
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