第27話


 今日はとうとうお茶会の日です! 入学前の顔合わせの意味もあるらしいんだけど、正直私には関係なかったりする。だって、ほとんどの子が基礎教育部に行くから同級生にはならない。


「ウェルカ様、とても良い天気ですね」


「そうね。

 こんな日のお茶会はとても心地よさそうね」


「はい! 

 今日は準備を手伝いに、本邸の方からも人が来ているのですよ」


 イルナの言葉に部屋の入り口にいた2人の侍女が入ってきたのを確認すると、よろしくね、と挨拶をする。すると揃った声でお願い致します、と返ってきました。双子、ではないよね?


 軽く朝食を取った後、すぐにドレスを着て髪を整えて、とお茶会へ行く準備が進められていく。正直私に手伝えることはないので、おとなしく鏡台の前に座ってその様子をただ眺めることとなってしまった。


「まあ、ウェルカ様!

 とてもお可愛らしいですわ」


 やり切った笑顔を浮かべて嬉しそうに言う侍女に鏡の中の自分をまじまじと見てしまう。そんなに濃いメイクではないから、劇的に変わったわけではない。だけど、顔のそれぞれをよりきれいに可愛く見せるメイクがされていて、いつもの自分とは全く違う。


「すごいわ!

 ありがとう」


 思わず笑顔になってイルナたちの方を見ると、なんとなく頬が染まっているような?


「さあ、ウェルカ様。

 そろそろ参りませんと」


「ええ、行ってくるわね」


 正直憂鬱でしかないが、こんなに頑張ってくれたなら楽しまなくちゃね。




「どうして、ここに伯母様が?」


 いや、そんなに嬉しそうに笑われても意味が分からないのですが……。どうしてお茶会に行く馬車に乗ってらっしゃるの?


「ふふっ、驚いてもらえたようで良かったわ。

 今日のお茶会は母親もついていくものなのよ」


「そう、なのですか。

 全く知りませんでした」


「驚かせたくて黙っていたの。

 だから、今日は良かったらお母様、って呼んでもらえないかしら……?」


 おかあさま、小さく声に出して言ってみるけど、やっぱり伯母様をそう呼ぶのは少し抵抗がある。伯母様が悪いのではなく、私の気持ちの問題なのだ。

 でも、今日は。今日はそう呼んでみたい、かもしれない。


「……お母様?」


「っ!

 ウェルカ、とっても可愛いわ!」


 髪やドレスが崩れないように、それでもぎゅっと抱きしめてくれる。それがとても暖かかった。


「ありがとう、そう呼んでくれて」


 耳元で頼りなく聞こえた声に、自分も心がぎゅっとなる。どう言葉にしたらいいのかわからない、そんな気持ちだ。

 伯母様がどうしてこんなに私にお母様と呼ばれたかったのかは分からない。それでも、私はやっと無くしていたお母様という言葉を手に入れた気がした。



「いい? 

 今日の茶会には王族の方々もいらっしゃるけど、挨拶は身分の高いものからよ。

 ウェルカは公爵令嬢ですからね、最初に挨拶して大丈夫よ」


「わかりました」


 緊張はまだしているけど、それでもなんだか楽しみになってきたかもしれない。


「奥様、お嬢様、到着いたしました」


「ありがとう」


 エスコートをされながらも馬車を降りていくとすぐに少し向こうにいる大勢の人が見えた。皆色とりどりのドレスを着ているからとても目立つな。


「緊張するかもしれないけれど、頑張ってね」


「はい」


 そして、一度深呼吸して会場に入ると、一斉にみんながこちらを見た。いや、怖いから。これはどこにいた方がいいとかはないかな。


 見られながらも開いているところに行くと、急に会場のざわめきが大きくなる。皆あちらを見ている? 


「皆様! 

 本日はお集りいただきありがとうございます。

 どうぞ、心行くまでお楽しみください」


 にこりと取ってつけた笑みを浮かべているのは、確か第2王子? と横にいるのは第1王女だったはず。

 このお茶会には10歳から2歳前後の王族も参加するみたいだから、このお二人が参加するのだろう。


 っと、お母様に言われたように最初に挨拶に行ってしまわないと。


「ごきげんよう、アーサベルス殿下、ランフェル殿下。

 ウェルカ・ゼリベ・チェルビースと申します」


「ごきげんよう、ウェルカ嬢。

 君はもしかしてアゼリア義姉上の?」


「妹ですわ」


「ああ、やはり。

 よろしくな、ウェルカ嬢」


「よろしくお願いいたします」


 先ほどとは違い、この笑みはとても柔らかいものだ。こちらを牽制するような意味を持たないそれに、私も自然と微笑むことができた。


「あの、よろしくお願いします、ウェルカ様……」


 おずおずとこちらを見ていたランフェル殿下はそう言うとすぐにアーサベルス殿下の後ろに隠れてしまう。か、可愛い……。守ってあげたくなる可愛さだ。


「よろしくお願いします、ランフェル殿下!」


「ずっと会ってみたいと思っていたんだ。

 良ければ、あとでゆっくり話そう」


 はい、とだけ返すとお2人の前を後にした。なんだか視線が痛かったのは、時間がかかりすぎということなのか?

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