第21話


「うーん、ここにもなさそう……」


 私は今本邸の図書室にいます。魔法を使えるものを多く輩出しているというチェルビース公爵家の図書室なら魔法に関する本があると思ったんだけどな。

ここまでないってことはやっぱり隠されているのかな。まあ、王都一の図書館にない時点でなんとなく察してはいたけれど。


 図書館には禁書庫もあるみたいだし、そこにはあるのかな。でも、マリーベ様の話によると私は初等専門科から始めそうだから、もう少しで魔法をきちんと学ぶことができるはずだ。それを待つのが一番早いか……。



「何を探しているのですか?」


「!」


 なぜここにセイットが……?全く気配がしなかったのですが。


「ああ、すみません。

 驚かしてしまいましたね」


 にこやかな笑みを浮かべているけど、やっぱり怖いって。でも、さすがに無視するわけにはいかないよね。


「魔法に関する本を、探していたんです」


「魔法ですか? 

 何か知りたいことがあるなら僕が教えてあげますよ?」


「いえ、結構です」


 なんとなく、この方に借りを作るのは遠慮したいんです。つい即答で断ってしまいました。


「そっか、残念です。

 では一緒にお茶しませんか」


 それくらいはいいですよね? という顔をしていますね。絶対残念だと思っていなそう。

 断られる気もしないのでしぶしぶとうなずくと、ぱっと嬉しそうな顔をされた。


「ではすぐに用意させますね!

 少し待っていてください」


 言うだけ言ってあっという間にいなくなってしまった……。というか、セイットはこの屋敷に来たばかりなのに誰に頼むつもりかな? 前に部屋に行った時も侍従や侍女がいなかった気もする。

 

 さすがにただ待つのも嫌だし、ここには本がたくさんある。読んだものも多いが、読んでいないものもたくさんあるのだ。さっそく近くにある一冊を手に取る。これは歴史の本かな。

 

本を読んでいること数分、セイットは息を切らしながら戻ってきた。本が面白かったから、そんなに急がなくても良かったけどな。正直もう少し読んでいたかったし。


「お待たせしました!

 中庭の方に用意しましたので行きましょう」


 すっと手を差し出してくれたってことはエスコートしてくれるってことかな?無視するのも失礼なので、ありがたく手を取らせてもらいました。


 たどり着いた先は季節の花が色とりどりに咲いている中庭だった。こちらにはあまり来ないから、こんなにも綺麗だとは知らなかった。


「とてもきれいでしょう?

 私も昨日知って、ぜひウェルカとお茶をしたいと思ったのです」


「綺麗、ですね」


 さあ、どうぞ、と席までエスコートしてもらうとそこにはすでにお菓子もお茶も用意されてた。


「ウェルカとゆっくり話したかったので嬉しいです」


 私と話せることが嬉しいとでもいうようにしているけれど、私には話すこと特にない。これはどうしたらいいんだろうか?


「そう、ウェルカはどうして魔法を知りたいのですか?」


「なぜって……。

 理由はありませんわ」


「そう。

 そう言えば、僕はまだウェルカの魔法属性を聞いていませんでしたね」


 これは言えと?

 しかも聞いておいて、興味なさげに返されてしまった。

 どうして自分の魔法属性を知っていると思っているのだろう。おおよその魔力量しかわからないんだけどな……。でもこの様子だと何かしらは教えないとあきらめてくれなさそうなんだよね。


「私たちは従兄弟、でしょう?」


「属性はまだわからないのです。

 神殿で調べていただけたのは魔力量のみですので」


「そうなのですね。

 何というか、効率が悪い気もしますが」


「神国では違うのですか?」


「あちらでは言葉をはなせるようになると、全員魔力量と属性確認を同時に行いますから。

 それでは魔力量はどれほどなのですか?」


「計りきれない、と言われました」


「それはすごいですね。

 それでしたら、神子になることもできるはずですが」


 神子? そういえば神官がそんなことを言っていたような気もする。あの時は固まったお姉様方に気を取られていたし、すっかり忘れていた。


「神子が何かを知りませんし、興味がないですね。

 ちなみにセイットの属性は?」


「私ですか?

 私はまあ主に光ですね」


「主に?」


 はい、と言うがそれ以上詳しいことは言う気がないようで、お茶を口にする。でも、当主が宰相で、お姉様がもうすぐ側妃になって、光属性がおそらく2人ってこの家色々と影響力強すぎる?


「そういえば、セイットは何歳でしょうか?」


「何歳だったかな。

 15歳?」


「わからないのですか?」


「前にいた国では誕生日を祝う習慣があまりないですからね。

 職も学習も本人の能力に沿って行うものなので、年齢は関係ないのです」


 勉強でほかの国のことも学習はしたけど、ウィリット神国は閉鎖的な国だったから何も知らない。面白い仕組みもあるんだな。


「なので、本当は学園に行く意味はないんですけどね。

 義務だと言われてしまいましたので」


 少し不満そうな顔をしながらセイットはそう言う。確かに、急にこちらに来たと思ったら学園へ通え、というのは少々きついかもしれない。


「まだまだこの国のことは知らないことが多いので、よろしくお願いしますね」

 

 一転、きれいな微笑みを浮かべて言ってくる。周りの侍女たちがぼーっと眺めているんですが……。


「私にできることなどわずかだとは思いますが」


 そう言って用意された菓子に手を付けると、クスクスといった笑い声が聞こえてくる。その笑みが今までのものとは違って、つい見とれてしまう。


「なるほど、君は少し変わっているんですね」


 っは! 危ない、危ない。

 いまだに楽しそうに笑っているのはどうしてでしょうか。しかも、なるほどって何⁉


 いろいろと納得がいかないことがありながらもセイットとのお茶会は終了してしまった。

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