第20話


「ねえ、君ウェルカ、でしたよね。

 少し僕と話をしませんか?」


 別宅に戻ろうか、とお姉様と歩いていると急にセイットに声をかけられた。何の用かとそちらを見ると、来て、と腕をひかれた。


 そしてついた先はとある一室だった。中の様子からここは誰かの部屋のようだ。


「ここは私の部屋なんです。

 ここでしたらゆっくりと話せると思いまして」


 そういって無邪気に笑うセイットに思わず後ずさりしてしまう。一体何の用だというのだろうか。


「ねえ、ウェルカ!  

 私と結婚してください」


 笑顔はそのまま、そう言い放ったセイットに私は目の前が暗くなっていった。


***


「あっ、大丈夫ですか?」


 ふと、目を開けるとすぐそばにはセイットの顔。しかも頭の下にはなにか、硬めのものがある。え……?


「うわぁぁぁぁ!」


「えっ、ちょっと!?」


 驚いて思い切り体を起こすとセイットの頭と激突してしまった。痛くてうずくまっていると近くから明るい光が見えた。


「びっくりしました。

 大丈夫ですか?」


 そういうと、セイットは私にもその光を当ててくれる。するとすぐに頭の痛みが無くなった。


「これは、光魔法?」


「はい、そうです。

 あなたも使えますか?」


 そう聞かれて返答に困る。今ちゃんとわかっているのは魔力量だけなのだ。

 そうして無言の時間が流れるとすぐにノックの音が響いた。


「セイット⁉

 入るぞ」


 叔父様の声がしたかと思うと、すぐに扉が荒々しく開かれる。


「悲鳴がきこ、ウェルカ……?

 どうしてここに」


 どうやら私の声が聞こえてやってきたらしい叔父様はセイットの部屋に私を見つけると固まってしまった。


「私が連れてきたんです。

 ウェルカに求婚したくて」


 あっさりというセイットに私も叔父様もあんぐりとしてしまう。だからどうして出会ったばかりの人にそんなことが言えるのだろうか。

 叔父様が確かめるようにこちらを見てくるので、つい思い切り頭を横に振る。すると、ますます訳が分からないといったように頭を抱えてしまった。


「セイット様?

 私たち今日会ったばかりですよね?」


「セイット、と呼んでください。

 そうですね、一目惚れというやつです」


 にこり、といい笑顔で言われてしまう。なんででしょう、笑っているのに否とは言えない迫力が……。


「私の両親もそうらしいですよ」


 私の様子から一目ぼれを信じていないと思ったのか、そういってね? と叔父様の方を見る。すると、叔父様は言いづらそうにまあ、と答える。


「ウェルカは嫌なのか?」


「嫌、というかよくわからないです」


 正直な気持ちを話すと、そうか、と叔父様は考え込んでしまった。婚約は好きな人とするもの、といった夢を持っているわけではないから否定する理由はないかもしれないが、ここで受け入れる理由も私にはない。


「では、こうしたらどうだ?

 ウェルカは学園に入って好きな人ができたら、その人と婚約するといい。

 でも、セイットにもその候補の一人としてしっかり向き合ってくれないか」


「ですが、私はもう少ししたらこの屋敷を出ていきますよ?

 学園の寮に入りますから」


 どうやってセイットと向き合ったらいいのかわからない、そういう意味でそういうとセイットはおや、という顔をする。


「どこの学園なんですか?」


「タリベアン王立中央第一学園です」


「それならちょうどいいですね!

 私も新学期からそこに、寮から通うんです」


  うきうきとした様子でそう返されてしまった。つまり、接点はいくらでもあると。どうやら逃げられないらしい。

 私もこの人が本当に私を好きだったのなら、セイットの気持ちを受け入れていいと思ったかもしれない。でも。でも、セイットの冷めきった瞳を見ると、どうしてもそうは思えないのだ。なぜかはわからないが、何か目的があってこういう態度を取っている気がする。

 だから私はすぐには頷けなかった。


「じゃあ、それでいいね? 

 ただセイットもウェルカの気持ちを尊重して暴走しないように」


 叔父様が最後にくぎを刺すと、セイットはわかりましたとうなずく。私は何も返していなかったが、これで話はついたようで、セイットに手を振られつつ私は叔父様と部屋を後にした。


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