第22話
「お嬢様、本日はどのようなお召し物になさいますか?」
目覚めると、すぐにイルナがやってくる。そんな生活にも慣れたこのごろですが、今日はとうとう学園の試験の日です。朝から緊張していつもよりも早めに目が覚めてしまったことを察して心が休まるというお茶を入れてくれました。
「そうね。
今日は軽いドレスがいいわね」
かしこまりました、と言うとすぐに適当なものを見繕ってくれる。イルナはこちらに来てから、本当に変わった。前は私の侍女とは名ばかりで屋敷の手伝いばかりしていたけど、今は違う。
イルナが持ってきてくれたドレスは膝下丈のふわりとしたスカートと細かな刺繍が特徴の水色のドレス。うん、これならよさそうだ。
「ありがとう、イルナ」
さっそくドレスに着替えると、すぐに髪も整えてくれる。今日は降ろしていると邪魔だろうし、上げていると頭が重くなってしまうからとシンプルにまとめてくれた。
食堂へ向かうと既にお姉様は席に着いていた。待たせてしまったようで申し訳ないな。
「ウェルカ、大丈夫?
少し顔色が悪いわよ」
「大丈夫です、お姉様。
初めての試験なので、少し緊張してしまって」
私も入学試験はとても緊張したわね、と言いながら朝食に手を付け始める。今日もとてもおいしい朝食だ。
「でもあなたなら絶対に大丈夫よ。
頑張ってね。
帰っていたら、少し話したいこともあるのよ」
最後は少し小さい声だったけど、お姉様の優しい声に心がほっこりとする。うん、確かに頑張れる気がする。
「いってらっしゃい」
お姉様方に見送られつつ、本邸の方に向かうとすでにセイットが正装で待っていた。セイットも同じようにテストを受けるということで、一緒に学園に向かうことになっているのだ。
「試験を落としたら大変だと勉強をしたのだけれど、なんというか簡単ですね」
馬車に乗り込むとさっそくセイットが話しかけてくる。正直緊張をしているから、話しかけないでもらえると嬉しいかも。
そう、ですね、と答えるとそのあとは何も話しかけなくなった。
「到着いたしましたよ」
学園は近かったようで、すぐに馬車は止まってくれる。爵位によって馬車を止める場所が決まっているのだが、さすが公爵。馬車を降りると校門の真ん前だった。
「お帰りのころにまたこちらに馬車を寄せておきます」
「ありがとうございます」
必要なものはすべて持った。あとは試験を頑張るだけだよね。
「試験の受付はこちらです!」
教師と思われる人が声を張り上げている。
行ってらっしゃいませ、と頭を下げる御者さんに見送られて、そちらの方へと歩き出した。
「ウェルカ・ゼリベ・チェルビース様ですね。
こちらの試験会場へどうぞ」
あれ? ほとんどの人が違う方向へ向かっていくけれど、私はこっちでいいの?
不安になりながらも案内をしてくれるという女生徒の後をついていった。
セイットもこっちなのね。
「時間になりましたらこちらに監督者が参りますので、お待ちください」
入った教室には誰もいない。というか、机がまず2つしかない。それも向かい合った形で少し距離を置いておかれている。試験をここで受けるのってもしかして私1人?
「お待たせいたしました。
ウェルカ・ゼリベ・チェルビース嬢で間違えありませんか?」
「はい」
教室に入ってきたのは紙をたくさん抱えた若い男性教師だけ。つまり、この先生が試験監督をするということかな。
その前に! あの紙の量は何でしょうか?
まさか全部解かなくてはいけない?
「では上から順に問題を解いていってください。
わかる問題をすべて解き終わりましたら声をかけてください」
「あの、時間の制限はないのですか?」
「気にしなくて大丈夫です」
あれ? 今までは時間で区切りながら試験の練習をしていたんだけど……。
「どうぞ、初めてください」
慌ててペンを手に取り、私は試験問題を解き始めた。
う、うーん?
あれから昼休憩をはさみつつ、数教科の問題を解いていったわけですが……。
妙に問題数が多いのは疲れたけれど、問題の難易度としては解けないほどのものはなかった。緊張して臨んだ分、なんというか拍子抜けです。
でも、こんなにも多くの問題を解いたのは初めてだったし、めちゃくちゃ疲れました。
さくさくと解いていった私を珍しそうに先生に見られたのは恥ずかしかった……。
「お疲れさまでした。
こちらの結果は後日、各家にお渡しいたしますのでお待ちください
では、校門の方までお送りいたします」
私が解いた紙をすべて袋に入れると、そういってくれる。正直全く道がわからないので助かりました。すぐに片づけを済ませてしまわないと。
すでに迎えに来ていた馬車に乗り込んでセイットと共に屋敷へ帰宅すると、今日は珍しくすでにお姉様が帰宅していた。
「ただいま帰りました。
今日は早かったのですね」
「おかえりなさい、ウェルカ。
ええ、今日は早くに切り上げてきたのよ」
疲れたでしょう? と言われて席に着くと確かにどっと疲れを感じてしまった。ずっと集中していたからか目も痛いような気がする。
「お疲れさまでした、ウェルカ様。
こちらをどうぞ」
「ありがとう」
うん、疲れているときはやっぱり甘いものだよね!いつもよりもなんだか甘めな気もするけど、それがとてもおいしい。
「ウェルカ、疲れているところ申し訳ないんだけれど、少しいいかしら?」
菓子を食べ、お茶を飲み、一息ついたのを確認するとお姉様がおずおずと声をかけてくる。そういえば、今日行く前に何か話したいことがあると言っていたな。
「はい、大丈夫です」
「あのね、ウェルカが学園に入ったら正式に王宮に入ることになったの。
側妃だし、隣国への義理もあるので本来なら式を挙げない予定だったのだけれどね、陛下方のご厚意で近い親戚のみの小さな式を挙げてもらえるの。
来てもらえないかしら?」
「そうなのですね!
もちろん行きます!」
お姉様の花嫁姿が見れるなんて! 絶対にきれいに決まっている!
それにお姉様は殿下の話をされるとき、とても優しい顔になるのだ。それだけでいかに殿下のことを思っているかがわかる。そして殿下がお姉様を見る目も愛おしそうだった。そんな2人の結婚式、きっと素敵なものになるはずだ。
疲れも吹き飛ぶような報告に疲れも吹き飛びました!
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