第14話


 それから数日後。今日はとうとう養子になるための手続きをすることになっている。どうやらそのためには養父になる伯父様、養子になる私とお姉様が王城へ行かないといけないらしく、その準備が朝から行われていた。この手続きが行われたら、もうここに戻ってくることはないと言われている。


領地にいたときよりもずっと短い間ではあったが、ここの方たちはとてもよくしてくれた。それでも離れなくてはいけないことはなんだか寂しかった。はっきりとこの話をしたわけではないが、使用人たちももう戻らないことは察しているようで少し哀しい顔をしながら準備を進めてくれた。


「準備ができました、ウェルカ様」


「ありがとう。

 行ってくるわね」


 今まで、とはつけられないけれど、精いっぱいの想いを込めてそういうとお気をつけて行ってらっしゃいませ、と頭をさげてくれる。


「行きましょう、ウェルカ。

 もう伯父様が迎えに来てくださっているわ」


「はい」


 いつもは見送りにいない使用人たちも玄関へときて、お見送りをしてくれる。


「行ってきます」


 お姉様とそれだけを言うと、私たちは伯父様の待つ馬車へと乗り込んだ。


「寂しいかい?」


 自分で思っていたよりも表情に出てしまったのか、そう伯父様が訊ねてきた。それに私はあいまいな表情で返してしまう。


「そう、ですね。

 皆さんにはよくしていただいましたから。

 それに、いろいろな思い出があるとはいえ、領地の家はお母様ともすごした思い出もある大切な場所ですしね。

 でも。

 でも、後悔はしません」


 そう言いきった私に伯父様はそうか、とうなずく。お姉様は膝に置いた手を握ってくれた。


「そういえば、お前たちは陛下にお会いするのは初めてか?

 寛容なお方だから、リラックスしてお会いするといい」


「え……?

 手続きの立会人を陛下がやられるんですか?」


「ああ。

 私も初めはベルク殿下に頼もうと思っていたんだが、陛下が二人に会いたがっていてな」


 どうやら全く話についていけないのは私だけで、お姉様と伯父様で話が進んでいく。どうしてこれに陛下や殿下が出てくるのでしょう?


「公爵位や大公位の家が新しい人間を迎え入れる時は王家の承諾が欲しいのよ」

 

 そうお姉様がそっと教えてくださった。なるほど……。

 そんな話をしていると馬車はついに王城へとついてしまった。特に止められることもなく門をくぐっていった。



王城についた後も伯父様はすたすたと進んでいく。さすが宰相というところなのかな。

 そしてたどり着いたのは重厚な扉の前だった。その両脇には帯剣をしている騎士が構えていた。この服はおそらく近衛騎士かな。本で学んだことが目の前に現れるとついつい楽しくなってしまう……。


「どうぞ、お入りください」


 いつのまにか側にいた侍従が声をかけつつ、扉を開いていく。その中に入っていく伯父様に続いて、お姉様と一緒に中に入っていく。


 奥の一段高くなったところにある豪華な椅子に男性が一人座っている。あの方が国王陛下……?


「だた今参上いたしました、陛下」


 伯父様が王族への礼を取るのを見つつ、私もお姉様も礼を取る。今回は学んだあとだったから焦らずにできた。


「顔を上げていいぞ。

 よく来たな」


 言われて顔を上げると、こちらを優しく見ている陛下の姿があった。これが賢王と言われて、多くの国民に慕われている陛下……。


「本当にアリストリアにそっくりだな」


 その言葉にどこかで納得した。ああ、この方は私たちを通してお母様を見ているのだと。私もお姉様も何も言えないでいると、伯父様がそうですね、と返してくれた。


「さて、手続きを済ませてしまおうか」


 こちらへ、という陛下の前まで階段を上っていく。すると、側に控えていたものがすっと紙を二枚差し出してきた。


「ここに書かれている文を読みそれぞれに養子となる二人の名前、養父母となる名前と性を書き込んでくれ」


 差し出された紙に自分の名だけを書き込むと伯父様が伯母様のぶんも名前を書きこんでくれる。そして陛下はそれを受け取り、全体を見ると陛下の名を書きはんこを押してくれた。


「よし、これで正式な親子となった。

 おめでとう」


「ありがとうございます」


手続きが終わると陛下はすぐに紙をもう一度控えているものに渡した。そして、硬い表情でこちらに向き直った。


「すまないな、アゼリア」


 ぽつりとつぶやいた陛下の言葉に、お姉様は一瞬驚いた顔をしたがすぐにいいえ、と顔を横に振った。


「私に謝る必要などありませんわ。 

 これは私が望んだことでもあるのですから」


 そうか、というと陛下はそれきりで話を切り上げられた。一体なんの話だったのだろうか?


「では、お手数をおかけいたしました」


「ああ、気にするな。

 ウェルカ、だったか?

 励めよ」

 

 私に話かけられるとは一切思っていなかったから思いっきり動揺してしまったが、なんとかはい、と返す。それに陛下はうむ、とうなずいてくれた。


「失礼いたします」


 そういって私たちはその場を後にした。


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