第8話


 今日はチェルビース公爵家にお邪魔する日です!あの後すぐにお姉様は手紙を送り、おじい様方から会おう、という返事をいただけたことにひとまず安心した……。何せ、ここで会いたくないと言われてしまう可能性も十分にあったからだ。


「このドレスはどうかしら?」


「あら、こちらもよく似合っていらっしゃるわ」


 そして今、なぜか私は侍女に囲まれています。あれもいい、これもいいといろんなドレスを体に合わせては楽しそうにしている。それにしても……。


「いつの間にこんなにもドレスを用意したの?」


「ウェルカお嬢様がこちらにいらっしゃると聞いてすぐにご準備いたしました。

 ドレスが届くよりもお嬢様方が先に到着されてしまいましたが、今日に間に合って安心いたしました」


 私の疑問に答えてくれたのはいつの間にか部屋に入ってきていたガゼットだ。気配が全然しなかったからびっくりしたよ!


「ここにはアンティーナ様のドレスは多くございますが、ウェルカ様のものはありませんでしたので……」


 言いにくそうにガゼットはそう言う。でも、実家でもそんな感じだから私はたいして気にしていないんだけどね。


「準備をしてくれてありがとう」


「もったいないお言葉です。

 あなたたち、そろそろ公爵様のところへ行く時間ですよ。

 アゼリアお嬢様の方はもう準備を終えています」


 その言葉にドレスをあれこれ選んでいた人たちが一斉に慌て始める。そしてすぐに私にドレスを着せにかかった。そしてようやくすべての準備が終わるとお姉様が迎えに来てくれていた。


「さあ、行きましょうか。

 いい?

 あちらの家では気を抜かないようにね」


「はい」


 こちらに来てから始めて馬車に揺られて数分、チェルビース公爵家の屋敷には思っていてたよりも早く着いた。それにしても、大きい!


「お待ちしておりました、アゼリア様、ウェルカ様。

 こちらにて当主様がお待ちです」


 馬車が到着するとすぐに執事らしき人が来てそう案内してくださる。なんとなく、態度が硬い様子が気になるけれどこれが普通なのかもしれない。そしてその人の後に従って進んでいくと、とある部屋の前に行きついた。


 案内をしてくれた執事がノックをするとすぐに返事が返ってくる。一気に心臓の音がうるさくなるが、そんなことも知らずに扉がゆっくりと開いていった。

 中には親子と思われる男性二人がいた。


「よく来たな、アゼリア、ウェルカ。

 そちらへ座ってくれ」


「ありがとうございます」


 二人が座っている席の正面を示され、そこに座るとすぐにお茶が置かれた。片方の男性は緊張をしているのか表情が硬いが、もう片方の男性は柔らかな笑みを浮かべていた。


「久しいな、二人とも。

 息災なようで何よりだ」


「お久しぶりです、おじい様。

 お二人もお元気そうで嬉しい限りです」


 この人が、おじい様? ということはお母様のお父様だよね。なんというか、思っていたよりも若々しい方だ。


「ウェルカは覚えていないよな。

 私はマゼンロ・ゼリベ・チェルビース、チェルビース公爵家元当主だ。

 お前たちの祖父でもある」


「ポルーク・ゼリベ・チェルビースだ。

 伯父だな」


「ウェルカ・ティー・バーゼリクと申します」


 二人の様子に何と答えていいのかわからなかった私はその言葉だけしか出てこなかった。


「本日はお時間をとっていただき、ありがとうございます」


 私がそれ以上何も言えないでいると、お姉様が話し始めてくれる。正直助かったかも。


「いいや、むしろこちらに来させてしまいすまなかったな。

 改めて、婚約おめでとう」


「ありがとうございます。

 ……、実は頼みたいことがありまして、こうして伺ったのです」


 お姉様が今日の本題を切り出そうとそういう。すると、おじい様も伯父様も鋭い視線をお姉様に向けながらも先を促す。


「私とウェルカはバーゼリク家を出ようと思っていますの。

 そこで伯父様、私たちを養子にしてチェルビースの名をくださいませんか?

 すでに殿下の婚約者となった私では難しいのであればウェルカだけでも良いのです」


 お姉様の言葉におじい様方は黙りこんで何かを考えているようだ。やっぱり難しいのかもしれない……。でも、あの家に一人残りたくないな。


「ふむ、どうしてそのような考えになったのか聞いてもいいかい?」


 少ししてようやくそう返した伯父様にお姉様が今までのことを話し始めた。それを聞いているうちにおじい様も伯父様も険しい表情になっていく。これは怒っているのか……?

 なんだか怖くなって少し引いてしまう。


「ああ、怖がらせてすまなかったなウェルカ。

 君に怒っているわけではないんだ」


「い、いえ」


「話は分かった。

 このような事態になってしまったのはこちらの責任もあるな。

 いろいろと整えなければいけないこともある。

 時間はかかるだろうが、二人を我が家に受け入れよう」


「ありがとうございます!

 後、もう一つこれに関してお願いしたいことがございます。

 チェルビース公爵家に受け入れていただいた後も、彼女の将来の自由を認めていただきたいのです」


「お姉様……?」


「そのあたりはまた考えていこう。

 まずはウェルカには勉強をしてもらわないとな。

 明日にでも人をそちらによこそう。

 ウェルカは今どれくらい勉強ができるんだ?」


「その、何も教えていただいていないので何もできないと思います」


 突然ふられた話題に驚きながらもそう答えると、おじい様が憐れむような眼でこちらを見てくる。そんな目でみられても困るんだけどな。


「わかった。

 では、今日はここまでとしようか」


 おじい様の言葉でどうやらこの話し合いはおわったようだ。お姉様に合わせて立ち上がり、一度礼をすると馬車へと乗りバーゼリク家の屋敷へとようやく帰ってこれた。今日は慣れない場にいたせいかとても疲れてしまいました……。


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