第7話
緊張しながら待つこと数分、馬車の音は思っていたよりもすぐに聞こえてきた。そして、玄関の前で止まったかと思ったら、中から一人の青年が出てきた。金の髪に王族の特徴である澄んだ空のような蒼の瞳、そして長くしなやかな手足やバランスの取れた顔のパーツ、どれをとってもすべてを計算して作られた人形のような人だと、そう思った。三人が殿下に対して最上級の礼をするのを見て、慌てて私も見様見真似で真似てみる。
「お出迎えありがとう。
でも今日は突然来てしまったからね、そういったことは気にしなくて大丈夫だよ」
「ご配慮、ありがたく受け取らせていただきます殿下」
周りが頭を上げたのを感じて私も頭を上げる。そしてそっと殿下を見ると、少し困ったように笑ってらした。そこには、血の通った人間の顔をあって私はなんだか安心してしまった。
「サロンの方においしいと噂の菓子を用意させましたので、ぜひ」
「それは楽しみだな」
私が少しぼーとしているうちにいつの間にか二人は屋敷の中に入っていこうとしていた。いけない、いけない。ちゃんとついていかないと、本当にどうしたらいいのかわからなくなってしまうのだ。改めて気合を入れ直して私は二人の後をついていった。
さて、今私の前には机を挟んで殿下がいらっしゃいます。まあ、殿下は私の隣に座っている姉の向かいの席にいるのだから正確には向かいではないのだけれど……。
そんな風に現実逃避してみても現状は変わらなかった。お姉様と殿下との話なのならば私はここにいなくていいのでは? と思っていたのですがだめでした。なぜか少し重い空気の中、侍女がお茶とお菓子を用意してくれる。準備が終わるタイミングでようやくお姉様が口を開いた。
「三人だけで話がしたいので、皆さん下がっていてくれるかしら」
我が家の使用人はその言葉に素直に部屋を出て行ったが、殿下の御付きの方々はどうしたらと殿下の方を見ている。殿下が一つうなずくと、しぶしぶといった様子で皆出て行った。
「さて、殿下。
この子を私付きの侍女として城に上がるのを許可したというのは本当ですか?」
さっそく話を始めたお姉様に殿下は困惑したような様子でこちらを見てきた。
「この子というのは……?
その子はアゼリア嬢の妹ではないのか?」
確かめるようにそう言われて、ようやくまだ挨拶もできていないことを思い出した。正しい礼の仕方なんて実はきちんと教えてもらったことはないから不格好かもしれないけれどやらないわけにはいかなかった。
「ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません。
バーセリク侯爵の次女、ウェルカ・ティー・バーゼリクと申します」
「ああ、私はベルク・アンセット・タリベアンだ」
私が一礼すると、殿下も名乗ってくれる。
「やはり、妹だよな。
今いくつだ?」
「九つになります」
そういうと、まさか、とつぶやく。何か心当たりがあったようだ。
「確かにアゼリア嬢を側妃に、と望んだ時にその条件の一つとして10歳に満たないものを侍女としてつけたいと言っていた。
まさか、それがウェルカ嬢だとは思ってもいなかったが……」
「つまり、殿下は私の妹だとわかっていて侍女に着けることを許可したわけではないのですね」
ああ、と殿下はしっかりとうなずく。そこでようやくお姉様はほっと表情をやわらげた。そこでようやくお茶に手を出す。私もそれに従ってお茶を口にした。
「そもそも上位貴族の子息子女は10歳には学園に入らなくてはいけないだろう」
「おそらくですが、お父様はそこの学費を払うのを渋ったのではないかと」
お姉様の言葉に、殿下はついに頭を抱えることとなってしまった。何だか申し訳ないです。
「さて、この話をするためだけに人払いをしたわけではないのだろう?」
「はい。
このことを確認したうえで話を進めたかったのです。
実はこのままバーゼリク家に籍を置いたまま殿下のもとに嫁ぐのも不安ですし、ウェルカのことが心配ですので、チェルビース公爵家に身を寄せたいと考えているのです。
まだこのことはウェルカにしか話しておりませんので、決まった話ではないのですが……」
殿下は一瞬驚いた顔をするも、それもいいかもしれないと納得した顔をしていた。そして私の方を見る。
「ウェルカ嬢はそれでいいのかい?」
「私は、お姉様についていきます」
いいも何も、私には決められない。そんな気持ちでそう答えると、なぜか苦笑いされてしまった。
「私もその方がよいと思う。
支援ならするから、ぜひ公爵殿にも話をしてみてくれ」
「ありがとうございます」
何とか話はまとまってくれたようだった。
そのあとはお姉様と殿下はにこやかに会話をされていた。もともと学園時代の先輩後輩だと言っていたので仲がいいのだろう。懐かしい話に花を咲かせていて、お互いに楽しそうだ。果たして私はここにいる意味はあったのでしょうか……。
「ウェルカ、私がアゼリアと婚姻したら君は義妹になる。
兄として頼ってくれて構わないから、よろしくな」
「ありがとうございます」
最後、殿下はそう言うとまた来ると言って屋敷を後にした。
「さて、殿下の許可も取れたことですしさっそくおじい様方に連絡を取りましょうか。
お屋敷に伺う日が決まったら教えるわね」
はい、と返事をするとようやく私は自分の部屋に戻ることができた。
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