第5話
目を開けて入ってきたのは見慣れない天井だった。ここはどこだろう?
周りを見渡してもやっぱり覚えがない。一体どうして私はここにいるのだろうか。それにしても体も頭を重く、ここがどこなのか考えようとしても思考がうまくまとまらない。
「ウェルカ!
良かった、目が覚めたのね」
「おねえ、さま?」
近くで聞こえたお姉様の声にそちらを向くとひどく心配げなお姉様の顔があった。その瞬間、意識を失う直前のことが思いだされる。
そうだ、私たちは盗賊に襲われて、
「お、お姉様けがは⁉」
「落ち着いてウェルカ。
私はあなたのおかげでけが一つないわ」
そんなお姉様の言葉にようやくほっと一息つく。でも私のおかげでとはどういう意味なのだろうか。
うまくまとまらない思考のままボーっとお姉様を見ていると、お姉様は困惑気にこちらを見ていた。
「あの、どうかされましたか?」
「何も、覚えていないの?」
何もとはどういうことだろうか。馬車が盗賊に襲われたことは覚えている。
「ウェルカ、あなた光魔法を使ったのを覚えていないのね」
「ひかり、魔法?
私がですか?」
そんなのは知らない。だって光魔法なんて、今時使える人はとても少ないものだ。だいたい、使えると知っていたならばお母様に使わなかったわけがない。
「ええ。
ウェルカが使った魔法のおかげで私たちは助かったのよ」
ありがとう、そうお姉様は伝えてくるけれどまったく実感がわかない。
「でも、どうかもう使わないで」
続くお姉様の言葉に私はもう一度かたまることになった。その声音はとても真剣なものだった。
「ど、どうしてですか?」
「ごめんなさい、少し言葉が足りなかったわ。
家のことが落ち着くまでは決してほかの人にばれないようにしてほしいの。
私たち、今おじいさまのところにお世話になろうとしているでしょう?
ウェルカが光魔法を使えるとわかると、きっとお父様は全力で邪魔をしてくるわ。
それに、おじい様が受け入れてくださったとしても、周りからなんといわれるか……」
言葉を濁したお姉様に、なるほどとうなずく。確かに今の私はお父様にとって価値のない子どもだろう。だからこそ学園に入れないという選択をしてきたのだから。だが、魔法を、それも特に希少と言われている光魔法を使えるとわかったら何をしてくるかわからない。
お姉様の言葉に私はしっかりとうなずいた。
「ありがとう。
今日はここでゆっくりしていきしょう。
今は休んで」
私の頭を一つなでるとお姉様は部屋を出て行った。するとすぐに瞼が重くなり、私はもう一度眠りについた。
私たちが宿を出発することができたのはそれから3日後のことだった。強盗の件を聞いた殿下が護衛のための騎士を送ってくれたので、その方たちの到着を待っていたのだ。ちなみにもとからついていた護衛の人たちは重症を負っているらしい。
そこからの旅路はとても順調だった。こんなにお姉様と一緒というのも実は初めての経験で、途中で話す内容がなくなってしまったこともあったがそれでもずっと楽しかった。
「見て、ウェルカ!
あれが王都の門よ」
そう言われてさされた方を見ると、そこには視界いっぱいに広がる壁があった。なんだか圧迫感も感じるけれど、いったいこの壁の中にはどんな世界が広がっているのだろうかとわくわくもする!
門をくぐる際、馬車の列や人の列がそれぞれできていたのだが、私たちが乗っている馬車はまた違う門へと向かっていく。
「どこに行くのですか?」
「殿下から少し特別な門を使う許可証をいただいているので、そちらに向かっているのよ」
ふふっとお姉様は微笑みながら教えてくれた。特別な門の意味はよくわからないけど、あの列に並ばなくていいのは嬉しいかな。
そうしてすんなりと門をくぐった先には王都が広がっていた。きっと門をくぐると人がたくさんいて、お店がいっぱいあって、そんな華やかなものを想像していた私初めに見えた大きな通路、そしてその奥に広がる民家と思わしき多くの家に多少はがっかりとした。
「あら、どうしたの?」
「人とお店があふれていると思っていたのです……」
「この辺りは住宅街なのよ。
もう少し中心に近づけばにぎわってくるわよ」
その言葉に再び目を輝かす。王都はもちろん、私は他領にもほとんど行ったことがないのだ。まあ、期待してしまうよね!
その後もしばらく似た光景が続いていたが、再び大きな通路が現れたと思ったらその先には多くの店が見えた。そこには何人もの人が行きかっている。まさに私が想像した光景!
「ここが商業区ね。
たくさんのお店がこの区には集まっていて、ここを抜けると貴族の居住区があるわ。
王都は円形になっていて、これらの区も円形に広がっているの。
王宮はその中心にあるわ」
そういう作りになっているんだ。うん、いろいろと回ってみたら楽しそう。
「今日はひとまず屋敷に行きましょう。
長旅で疲れているでしょうからね」
「はい」
私は行ったことがなかったけど、どうやら王都にも我が家の屋敷はあるようで。それは上位貴族は全員持っているそうだ。ちなみに下位貴族は家による。わが両親(とその子供2人)は社交界シーズンになるとこちらに出てきているようだ。今はオフシーズンなので領地にいる。
しばらく速度を落として商業区を進んでいくと、再び家が多く立ちならんでいた。もちろんその大きさは先ほどとは比にならない。そして貴族の居住区になって少しするととある一軒の前で馬車は停止した。ここがバーセリク家のお屋敷かな?
馬車を降りてみてみると、さすがに領地の屋敷には負けるが、十分に大きな屋敷が広がっている。こんなものが王都にあるとは思ってもみなかったな……。
「お嬢様方、我々はこれで失礼いたします」
半ば茫然と屋敷を見上げていると、そう声がかかる。そちらを見ると殿下がよこしてくれた護衛の騎士たちがそういって頭を下げていた。
「ご苦労様でした」
一言お姉様が言うと、騎士たちは一礼して去っていった。
「さあ、私たちも行きましょうか」
お姉様にそう言われて私はようやく屋敷の中へと入っていった。
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