第24話

「ああ、困ったときはお互い様だから、できる範囲で協力するのはやぶさかではないよ」

 五嶋は淡々とした口調でいった。

「ゴトちゃんは余裕があるよね。俺なんか助けてあげたいと思うんだけど、正直いってそれだけの幅がないもの。万が一のときは俺にも救助の手を差し伸べてくれる?」

 鮫島は冗談とも本気ともとれる言い方をした。

「またぁ、ひとをからかうもんじゃないよ、鮫ちゃん」

「いやぁ、そんなつもりはまったくないよ。人間いつどこでどうなるかわかんないから、持つべきものは友達だっていうこと」

「確かにね……もし僕がそうなったときにも頼みますよ」

「OK、OK。どーんとまかしといて」

 気安く返事をした鮫島の言い方は、酔ったときにある受け流しのようだった。

 そんな取り留めもない話をしていたとき、ミエリが戻って来た。ミエリは何もいわずにふたりのグラスを手元に引きよせて水割りを造り出した。

 そんな彼女を見ながら五嶋は先ほどの鮫島のいったことを頭に思い浮かべた。目の前にしても、彼女がとてもヒューマノイドだということがいまだに信じられないままでいる。オフィスのヒューマノイドなどは足元にもおよばない。おそらくそうとうな使用料を納めているに違いないと思った。

 それを聞いてしまった五嶋は、自分には直接拘わりがないとはわかっているものの、ミエリにどうやって話しかけていいのか逡巡した。鮫島はそんな五嶋の気持がわかっているのかいないのか、薄ら笑いを浮かべてミエリの顔をまじまじと眺めていた。

「どうぞ」

「うん、ミエリも飲んだら?」

 鮫島はウィスキーグラスを翳すようにして勧めた。

「じゃあ、お言葉に甘えて、いただきます」

 ミエリは鮫島に甘美な視線を投げたあとグラスを取りに席を離れた。

 すぐと戻ったミエリは、手馴れた様子で自分の水割りを拵え、ふたりの前に差し出すようにすると、乾杯の仕草をして軽くグラスに口をつける。

「五嶋さん、これからもちょいちょい顔見せて下さいね」

 ミエリはそういいながらチャーミングな微笑を浮かべ、細い指に挟んだ名刺を渡した。

「もしよかったら、五嶋さんの名刺いただけます?」

 普段あまり飲み屋に行っても名刺など出したことのない五嶋だったが、ミエリがヒューマノイドだということに惹かれたのか、ジャケットの内ポッケットから名刺入れを取り出すと、一枚抜き出すようにしてためらうことなくミエリに手渡した。

「おいおい、ミエリ、俺からゴトちゃんに鞍替えか?」

「そんなんじゃないわよ……だって、五嶋さん格好いいからまた来て欲しいもん」

「いつからそんなにお世辞が上手くなったんだ」

「違うったら……鮫島さんのいじわる」

 ミエリはぷいと横を向くようにしてグラスを傾けた。かすかに氷が滑る音が響いた。

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