第25話 episode 3 オリザ 1

 週が明けての月曜日――。

 五嶋が現場監理から戻ると、書類を手にした田所が深刻な顔をして近づいて来た。

「所長、今度は地域住宅局から電話で、首都二十区(練馬)の共同住宅の設計委託が落札したと連絡がありました」

「えっ、まさか? あの金額がそのままとおってしまったのか」

 公共の共同住宅というものは、民間のマンションと違って四角い箱の積み重ねなのと、マニュアルから逸脱することは不可能なので、正直あまり面白みのある設計ではなかった。

「本当です。間違いありません」

 田所は自分が疑われているように感じたのか、少しむきになっていた。

「おかしいなァ……正直、あまり乗り気じゃなかったから、設計入札を高めで出したんだが、よそはうちよりもっと高く提示したのかもしれんな」

 五嶋は渋い顔で提出した書類の控えに目を落としながら呟くようにいった。

「でも所長、断わるわけにはいきませんよね。それと、電話の様子ではどうも急いでいる感じでした」

 田所は苛立っているのか、ボールペンをつづけざまに何度もノックした。

「あっそうだ、田所、思い出したよ。ジョージ笠間という男を君も会ったことがあるだろう? この間協会の会合のときに頼まれてたんだ、何か適当な仕事があったら廻して欲しいと……よし、彼に頼もう。役所との窓口は山置でも井上でも誰でもいいから君がチョイスしてくれ」

「わかりました」

「あ、それから、この間の老人収容施設のほうはどうなってる?」

「あれですか、いまのところは平面プラン調整の段階ですから、これからというところです」

「そうか、あの物件も手が廻らないようだったら笠間さんにお願いしようか」

 五嶋は田所のキャパシティがいっぱいであることを感じていたので、少し負担を軽減してやろうという計らいだった。

「そうですね、まあ、できる限り内部で処理するようにしますが、もしどうしてもというときにはお願いします」

 田所はそういわれて気が楽になったのか言葉に余裕が見えた。

「それと所長、ファシリティーズプランナーから請求書がきてますが処理しといていいですか?」

「ああ、いつものように君が査定して経理に廻してくれたらいいよ」

 五嶋はデスクの書類に目を向けたままでいった。

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