第23話

「えッ! そうなの? 全然気がつかなかった」

「そうなの。僕は生憎そっちの趣味はないから、彼女とは何でもない。ゴトちゃん、耳の後ろのマーク見なかった?」

 鮫島がいうように、ほとんどのヒューマノイドは外見がまったく人間と同じ造りになっているので、人間と区別するためには、両耳の後ろ側に直径五ミリの赤いマークの入れ墨を見るか、指先の指紋の有無を確かめるよりない。ところが、耳のマークは髪を長くしていたら見つけにくいし、指先なんかをまじまじと見ることはまずないといっていい。ましてや、政府が派遣した正規のならともかく、逃亡したヒューマノイドはどこかの専門組織に頼み、高価な費用を支払って特殊な道具でマークを処理してもらっていることもあるので、おいそれとは区別できない。

「いや、見なかった。」

 五嶋は、自分が意表を突かれて取り乱した言い方をしているのに気がついてなかった。

「まあそうかもしれないけど、ゴトちゃんの事務所にも大勢いるじゃない」

「あっ、そういえばそうだ。耳の後ろに赤いマークがついていた気がする。でも彼女がそうだとは思わなかった」

 まったく気なしだった五嶋はいわれてやっと気がついた。

「でもあの娘(こ)はこの店にけっこう長いこと働いているよ。いい性格にインプットされているのに加えて学習能力が優れている。そういえば最近やっと公にされた逃亡ヒューマノイドのことだけど、よく政府も何年も秘密にしていたもんだよな」

 国が多額の費用をつぎ込んで開発したヒューマノイドだが、最近巧妙な手口で彼らを横領する闇組織のことが明るみに出た。政府は事の重大さを思慮して秘密裏にしていたのだが、徐々にエスカレートしていったため、ついには隠しとおせなくなってしまったのだ。

「いつもの政府のやり方じゃないか。だけど逃亡をしてからどうしてるのかね」

「決まってるじゃないか、普通の人間に入り混じって生活している。ところが、ほかの系統のヒューマノイドはまだしも、あのP系(危険処理)のヒューマノイドだけは気をつけないといけない。それは政府もよく知っていてP系だけには何重にもセーフティロックがかけてあるので安全といえば安全なのだが、そのなかでも何パーセントは逃げ出しているらしいんだよね」

「なるほど」

 五嶋は眉間に皺をよせながら何度もうなずいた。

「話変わるけど、さっきの笠間さん、思いのほか困ってるみたいだったけど、何とかゴトちゃん力になれそう?」

 鮫島も昔そういった経験が何度もあったために他人事とは思えない節があった。

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