第22話

 笠間は煙草を消すと、ちょっと失礼、と断わって洗面所に発った。そのとき、タイミングを見計らったようにひとりの女性が近づいて来た。この店の人気ホステスのミエリだった。カールをした栗色の髪にアーモンドの形の瞳をして、異常に見えるくらいスラリと長い脚が美しかった。

「鮫島さん、お久しぶりね。最近ちっとも顔見せてくれないんだもん。メールを送っても返事をくれないし」

 ふたりの向かいに置かれた黒いスツールに腰掛けながらいった。奥が見えそうなくらい丈の短いスカートを気にする様子はない。

「いや、ここんとこ何かと用があって……来たいとは思っていたんだけど、どうしても足を向けられなかったんだ」

 鮫島は言い訳をするのが面倒な様子でいった。

「本当に? またどっかで浮気でもしてたんじゃないの?」

 ミエリにホステスの常套句のような言葉を聞かされて、ふたりはうんざりした顔をした。

「鮫島さん、こちらお友達? 紹介してくださらない?」

「ああ、こちらは有名な設計事務所の所長で、五嶋さんっていうの。まだ独身だけど、だめだよ、綺麗な恋人がいるんだから」

「はじめまして、ミエリです。五嶋さん独身なんですか……でもいいひとがいるんだっただめだわ。でもアタックしてみようかな」

 ミエリは五嶋に粘り気のある艶やかな視線を送った。

 三人が盛り上がっているとき、笠間が洗面所から戻って来た。

「ごめん、わるいけど、ちょっと用ができてしまって、これから事務所に戻らないといけない。先に失礼するけどいい?」

 笠間は立ったままでいった。

「ああ、構わないよ。ここは気にしなくていいから」

「すまない。ああ、五嶋さんさっきの話よろしく」

「わかりました。また連絡しますから」

 笠間は五嶋に一礼をすると、振り向くこともなく急ぐようにして出口に向かった。

 同時にミエリも椅子から離れると、笠間のあとを追うようにして出口まで見送りをしに行った。そのついでに他所よその客のところに顔を出したのか、しばらく鮫島たちの席にはよりつかなかった。

「鮫島さん、あのなかなか綺麗だね……ひょっとしてすでにものにしたんじゃないの?」

 酔いが廻ってきたのか、五嶋は少し砕けた話題を持ち出した。

「冗談は止めてよ、そんなんじゃないんだから。それにあのはあれなんだよ、ヒューマノイドなんだよ」

 鮫島は嗤笑しながらいった。

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