第20話

 当然のこと張りつきのタクシーはすべて出払ってしまっていたために、三人はしかたなく通りまで歩いて流しているタクシーを拾った。

 当然のような顔をしてジョージ笠間は五嶋たちについて来ている。鮫島も別に嫌な顔を見せなかった。仮にそんな顔を見せたとしても笠間は動じなかったに違いない。

 この時季、陽が落ちると急激に気温が下がる。さすがにこの時間になると頬を撫でる風が心を刺した。闇を切り裂くヘッドライトが途切れることなくいつまでもつづく。

 やっとの思いで車を停めると、運転手に気をつかいながら行き先を告げ、六本木の交差点を乃木坂のほうに100メートルほど行ったところでタクシーを降りた。

 鮫島にまかせたふたりは、いわれるままに足を搬び、ビルの地下にある洒落たバーの扉を押した。店の造りは、全体的に暗く落ち着いた雰囲気を基調としていて、入ってすぐ左に黒いカウンターがのび、右手にはカウンターの客を邪魔しないように気配りされたテーブル席、さらに店の奥にはボックスが三つほどあった。客は十人ほどが静かに飲んでいた。どこからか軽いジャズが邪魔しない程度の音で流れてくる。

 ウエートレスに案内されると、鮫島が先になってボックスに向かった。

 テーブルの上に鮫島がキープしてあるウィスキーのボトルとグラスのセットが用意され、ウエートレスの拵えた水割りで形ばかりの乾杯を交わした。

 水割りを一気に半分ほど飲んだ笠間は、

「……マッカランの18年か、さすがいいもの飲んでるね」

 ボトルを手にしたあと鮫島の顔を見た。

「そんな……」

 確かに高級ウィスキーで知られているだけに否定することはできなかった。それだけに鮫島は優越感をくすぐられた気がした。

 笠間は胸のポケットから煙草を取り出すと口にくわえた。

「ここのインテリアは鮫島さんとこのデザイン?」

 笠間の吐き出した烟が天井のあたりで澱んでいる。

「まあ、そんなとこ」

「あ、そうなの。さすが鮫島さんだね、この洗練されたデザインはなかなか真似のできるもんじゃない」

 それまで話を聞いていただけの五嶋が横から口を挟んだ。

「またァ、そんなに持ち上げたって何も出てきやしないからね」

 鮫島は照れ隠しに水割りのグラスを干した。

「ねえねえ、おふたりに訊きたいんだけど、ぶっちゃけた話、仕事のほうはどう? 忙しいんじゃないの」

 笠間は煙草を灰皿に圧しつけながらふたりの顔を見た。

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