第18話 2
午後から現場監理に出た五嶋は、夕方近くにオフィスに戻ると、デスクの上を整理して、七時からの「日本近未来建築士協会」の定例会に出席すべく赤坂のホテルにタクシーで向かった。いつものことで定例会のあとは懇親会と称して食事と酒が用意される。当然会費になかにそれらは含まれていた。
五嶋はその会に出席することをあまり快く思っていなかった。定例会は同業の設計事務所がより集まって新しい技術の研究会や説明会、あるいはそれらを導入した事例を発表することが主なる目的である。そのほかに、成功例の報告や失敗例の報告によって轍を踏まないように適切なアドバイスを受けたりする。そのことに関しては頭が下がるほどありがたいと思うのだが、懇親会に移ると、それまで真摯な顔付だった会員も、とたんに眼鏡の奥で盗み見るようにして、
協会のメンバーなかでも歳が近いということもあったが、設計に関する方向性に共通点を持つ
懇親会の会場は隣室で、さっきまでの何の装飾もない欠伸の出るような部屋とは違い、床はライトバイオレットの絨毯が敷き詰められ、天井の照明はシャンデリアと間接照明が上手くあしらわれていて、和ませる雰囲気を充分に醸し出していた。
部屋の中ほどには立食用のテーブルが八卓配され、隅には料理のトレーが載った細長いテーブルが三つL字の形で置かれてあった。
「お久しぶり」
五嶋は真っ先に鮫島のもとに足を向けた。ほかの会員なんて正直どうでもよかった。
「本当に。どう、元気してる?」
鮫島は神経質そうな細い躰から出る低く透る声で訊いた。
「お蔭さんで。そっちは?」
「相変わらずだよ。そっちこそ忙しそうだね……だって、遅れてきたんじゃないの? 会長の挨拶のときいなかったでしょ」
「そう、出掛けにちょっとごたごたしたもんだから」
鮫島は言い訳をしながらちょっと俯き加減になった。
「あまり大きな声ではいえないけど、この集まりもパッとしないと思わない? だって幅を利かせてるのは歳よりばっかじゃないか。やはり中堅どころの鮫ちゃんあたりが音頭をとって、新風を吹き込まないとこの協会は衰退しちゃうんじゃないの」
五嶋はビールグラスを片手に、鮫島の耳元で囁くようにいった。
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