第16話

 チェックの意味を含めてそれぞれのディスプレイに映し出された図面データーを見ていると、現在進行している設計物件の内容がスライドフィルムを見るかのようにつぎつぎと脳裡に浮かび上がった。

 ヒューマノイドといえども、話すこともできるし人間がいうことも理解ができる。しかし、もしその場で気がつくことがあっても五嶋は決して直接作業者には指示をしない。必ず担当者を介すようにしている。そうじゃないと担当者が知らないうちに大小を問わず内容が変わってしまうからだ。それと、そういう注意を聞かせることによって事務所としてのコンセプトを植えつける意味にもつながった。

 身じろぎもせず視線を一点に集中させ、手首だけを小まめに動かしつづける十四体のヒューマノイドの姿は壮観だった。普通の会社なら所長が見廻っているということで緊張することもあるかもしれないが、ここのオフィスに関してはいっさいそれはない。

 ヒューマノイドの統括責任者である高野という所員のそばに近づくと、

「高野くん、作業効率はどうだ?」

 声を落として低く訊いた。

「はい、いまのところは大丈夫です。何のトラブルもありません」

「そうか、スケジュールが詰まっているところにきて、また仕事が舞い込んできたらしいから、スムースにいくように頼むぞ」

 それだけ話すと、五嶋は自分のデスクに戻って山のように詰まれた書類に目をとおしはじめた。


 五嶋は書類を見ながら別のことを考えていた。

 老人収容施設のことだった。設計をするについては何の不安も問題もないのだが、プライベートの部分で施設そのものに隠せない疑問を抱いていた。

 政府はヒューマノイドの普及によって様々な分野にその技術が影響し、当然のことながら医学界にも波及していった。そうなると精巧で丈夫な臓器が開発されるようになり、急激に人間の寿命がのびはじめたのだ。

 政府にしてみたら、正直なところ生産性のない老人に長生きをされるのは、ただでさえ困窮している財政がさらに悪化するのでありがたくなかった。そうなることはいまになってのことではなく、ヒューマノイド開発の段階で気がついていた。事態に対応するべく処置として、同時期から平行して全国の主要都市を中心に、老人収容施設の建設が内々裡に計画されていたのだ。

 政府はその老人収容施設を、国民の各家庭の老人に対する生活負担を軽減させるためといい、そのほかにも、もっともらしい様々な口実を附して、満年齢七五歳になると男女を問わず無料で収容する法案を国会で通過させ、さらにその昔に法的に認められた尊厳死と合わせて優遇措置をとるという方針を打ち立てた。

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