第5話
その昔、日本の警察は世界の警察といわれるほどの検挙率を誇ったものだったが、正偽を問わず外国人が数多日本に入国するようになってくると、犯罪においても国際化の傾向が見えはじめ、その数も年々増加していった。
一方、国内だけを見ても、情報提供の自由化が引き鉄になってか犯罪者年齢はもちろんのこと、被害者年齢も若年化を辿るようになった。それまで日本の治安は世界に名だたるものがあったが、悪化の道を歩みはじめると、坂道を転がるようにして加速すると同時に、凶暴性を含んだ犯罪があとを絶たなかった。
そこで登場したのがP系のヒューマノイドである。人命尊重が第一義であるため、彼らの存在は底知れぬ至便性があった。もともとその目的で拵えられたものであるために、破壊されようが潰されようがどうってことはなかった。
毛色の変わったA系は、アニマロイドといった分野に収まるところで、従来人間というわがままな生物は自分の気持を癒す目的でペットという形で身近に小動物を置こうとしていたのだが、いっても相手は生身の動物である。彼らは彼らの本能とか資質というものがあるにもかかわらず人間のエゴイズムでそれらのすべてを抑圧してきた。そこで、それを機械的なものにして自分たちに都合のいい道具を拵えることにした。
マンションに住むペット好きな人間などは、せっかく手元に置いても無声では味気ないということで、咆哮のボリュームを絞った犬やネコの機体を注文する。都合がいいのは、彼らは食餌もしなければ排泄もしない。人間にとってこれほど楽な飼いものはなかった。その利便性が功を奏したのか、思いのほか需要が多く、政府にとっては嬉しい誤算となった。
ヒューマノイドはすべて労動管理省(厚生労働省)が管理をすることになっていて、利用者は三ヶ月に一度、使用状況報告書を提出しなければならない。それとは別に毎月使用料が自動引落しにかけられる。
五嶋の事務所で使用しているヒューマノイドはE系だが、着座作業なのとワイヤード(電源コードつき)なので普通よりは使用料が廉価だったが、もし使用料が延滞もしくは未払いとなると即刻彼らを引き上げてしまう。まったく猶予というものがなかった。これも役所然とした運営の仕方だ。しかしそれも表向きの話で、大企業にはそこそこの融通を利かせているというのが世間周知の事実だった。
すべてが上手く行っているように見えたのだが、すでにその時点で政府はすでに国民に報せることのできない危惧を抱えていた。――
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