第3話

 入ってすぐ右手にローパーティションで区切られた打合せテーブルが三つほどあり、左手にはインターホンの載った少し背の高いカウンターが置いてある。オフィスへの来客は外部のインターホンで来訪の旨を伝えるようになっているので、応接する受付というものが必要なかった。

 カウンターの向こうにあるドアを押して設計室の中に足を踏み入れた。自分のオフィスだから様子がわかっているというものの、その光景にはいつになっても慣れることができないでいる。オーナーの自分でさえも心臓が停まりそうになるのだから、他人が足を踏み入れたらおそらく腰を抜かすに違いない。

 設計室は日常ほとんどブラインドが閉ざされた状態になっている。CAD(Computer Aided Design)で図面を画くので直射日光は作業の妨げとなるからだ。

 照明も消されたそんな薄暗いスペースに五基のデスクが三列に並べられ、そのひとつひとつに人が坐っているのだ。

 黝いシルエットはまるで全員が無心に作業をしているように見える。

 男性体が五体、女性体が残り十体。すべて人工頭脳を搭載したヒューマノイド(人造人間)だ。その内男性体の一体だけがデーター管理専用で、あとの十四体は建築知識を持ち合わせたオペレーターである。そのほかに五嶋らふたりを除いて六人の設計スタッフと事務の女性がひとりいた。これだけのスタッフで年商三億近く稼ぐのだから経営的にはずいぶんと余裕があった。

 彼らは、一見すると画面に向かって作業をしているように見えるのだが、きょうはオフィス全体が休みなので、彼らは電源を切られてまるで蝋人形のように固まったままになっている。

 彼らのスケジュール調整は、高野という所員にすべてまかせてあった。G&Tの勤務時間は、朝の九時から夕方の五時四十五分までだったが、建築設計という仕事は作業量が多いために、なかなか定時で帰るというわけにはいかない。それを上手くヒューマノイドに分担して効率よく仕事をこなすのが高野の役目だ。そのお蔭でスタッフはいくら忙しいといってもよほどのことがない限り夜遅くまで仕事をしなくてもすんだ。

 五嶋の事務所は、このヒューマノイド十五体すべてを公的機関から借り入れている。

 政府がこうした人材派遣まがいの政策に目を向けはじめたのは、いまから半世紀ほど前から危惧されていた少子化および高齢化社会に対する対策の一環であった。

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