第28話 Ending2 ~ルミの居場所~

 UGN本部に帰還したレネゲイド災害緊急対応班マルコ班のルミ隊長は、上司のテレーズ・ブルムに今回の件を報告していた。

「ご苦労様でした、ルミ」

「テレーズ。ともかくは、ありがとう」

「いえ、あなたのお蔭で大規模なレネゲイド災害を最小限の被害で抑える事が出来たわ」

 ルミはテレーズに微笑んでみせるが、その表情はどこか浮かなかった。

「それは良かった。けれど、古太刀については……申し訳ないと言う他ない」

 気まずそうにルミは頭を下げるが、テレーズはやんわりと微笑んだ。

「アイシェさんからは、古太刀の行き先について班内でも審議中と、そう報告を受けているわ」

 その答えにルミは少々目を瞬かせた。

「あぁ……そうなんだ。テティスに古太刀を所持させる――そこは動かせないんだ」

 あの古太刀が彼女の力を抑える楔となっているのだ。そう易々と他人が持っていいものではなくなってしまったのだ。たとえそれが、ルミであっても。

「それで、どうだろう。君には反対されるかもしれないんだけど……」

 言い淀むルミに、テレーズは小首を傾げる。

「彼女を……マルコ班に、所属させる事はできないだろうか」

 滅多にないルミ自らの嘆願に、テレーズは微笑みながら数十枚の書類を取り出した。

「奇遇ね、ルミ。ちょうど昨日、私の元に署名が届いたの」

「署名?」

 首を傾げるルミの前で、テレーズは取り出した書類を読み上げる。

「マルコ班のシンボルである“鬼切の古太刀”を所持するテティスさん……非戦闘員に近い彼女のマルコ班入隊を、きっとあなたが提案するだろうから、それを許してやってほしい、と。アイシェさんと災害緊急対応班の皆さんから、私の元へ」

 テレーズがどこか嬉しそうに笑いながら、その書類をルミに手渡す。

「これはもう署名と言うより、ほとんど嘆願書のような文面ね」

 ルミは少し目を丸くしたが、苦笑しながらそれに目を通した。

「愛されているのね、ルミ」

「そうだね。僕には過ぎた部下たちだ」

 文面を見る限り、テレーズの言う通りもはや嘆願書だった。

「確かに、危険である事に間違いはないでしょう。だけど、世界で誰よりあなた達がレネゲイド災害を守る力を持っている事も事実。どうかその力で、テティスさんを守ってあげて。私から承認しておくわ」

 言うと、テレーズはデスクに置いてあった一枚の書類にサインした。

「ありがとう、テレーズ。マルコ班の誇りにかけて、必ず守ってみせるよ」

 テティスの写真が添付された書類を受け取ったルミは、改めて頭を下げる。

「あぁ、そうそう。彼女に古太刀を持ってもらうという事は、あなた方が使える破魔の武器は、もう無いという事でしょう?」

 痛い所を突かれた、とルミは肩を竦める。

「そうだね。レネゲイド災害に対する重要な切り札を、一つ封じてしまったワケだからね」

「それについてだけど、UGN日本支部からマルコ班へ、別の破魔の武器の提供があったそうよ。提供主は匿名だとか」

「匿名?」

 ルミが首を傾げながらテレーズから武器のリストを受け取る。

「さる噂では、日本有数の大企業からと聞いているけど」

 そこには、日本人ではないルミでも聞いた事のある刀剣の銘がずらりと記されていた。

 こんな国宝級の刀剣を所持している大層な富豪など、ルミは一人しか思い当たらない。

「嗚呼、また借りを作ってしまったな」

 脳裏に浮かぶその顔を思い出し、ルミはテレーズにつられて笑顔を浮かべてしまう。

「そうやって廻っているのよ、この世界は」

「そうなんだろうね」

「そして、そうやって居場所が出来ていくのよ。皆」

 その言葉にルミは僅かに目を見開き、目を伏せた。

「居場所か。未熟な僕にはまだ分からない事ばかりだけど、人の縁はそうやって廻っていくんだね……きっと」

 かつて“竜血樹”によって生み出された彼女と共に生きるのも、きっと何かの縁なのだろう。ルミの口元には穏やかな笑みが広がっていた。

「えぇ……きっと」

 かつての暗さが取り払われたようなルミの穏やかな笑みに、テレーズはにこりと微笑んだ。

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