第27話 Ending1 ~高島湊と天下五剣~

「皆んな、助かって良かったッスね! 兄ちゃん」

 横浜の港をタワーから見下ろしながら、輝生が湊に声をかける。

 天気は晴天。雲一つない青空だった。

「“赤い靴バス”もあの夜以降、異常もなく動いてるっぽいし……かれん様も元気そうで良かったッス!」

「あぁ。本当に今回の件、輝生がいなかったらどうなっていた事か」

 その労いの言葉に、輝生の顔が僅かに赤くなる。

「えぇ~? そうッスか~?」

 嬉しいが照れ臭くもある湊の賛辞に、輝生はへへへ、と頭を掻く。

「いや、皆んなのお蔭っス!」

「勿論それはそうだ。だがお前がいなければ、タワードミナトミライオンは動かない」

「へへっ。俺の協力で動くモンなら、安いモンッスよ!」

「それにお前がいなかったら、あの子はきっとマスターレギオンに攫われていただろうな」

 それを言われた直後、輝生の顔が一気に赤くなった。

「お前がいたから、MM地区はこれまで頑張ってこれたんだ。お前が真っ先に飛び込んで行って、そういう姿を見せてくれたからだよ」

 MM地区支部の記録には残っていないだろうが、テティスを守る時に切った啖呵を思い出した輝生の顔は、火が付いたように赤かった。

「そう……なんスか?」

「お前はこの、MM地区の屋台骨だよ」

 湊の心からの賞賛に、輝生はますます照れ臭くなり頭をワシワシと掻く。

「そんな事思ってたんスか? 照れるっス!」

「中々言う機会もなかったからな」

 湊は腰掛けていたデスクから降りると、輝生の隣に立って一緒に海を眺める。昔からずっと一緒に居た輝生の背は、もう少しで湊の肩に届きそうなくらいに成長していた。

「しかし、あの子が居なくなって寂しくなったな」

「そうっスね~。まだまだ案内したい所、沢山あったのに」

 遊園地にも、映画にも、マリンタワーにも、中華街にも行っていない。輝生は少女と行きたかった場所を指折り数えながらがっくりと肩を落としていたが、元気を失った肩を湊がポンと軽く叩いた。

「また遊びに来てもらった時に案内すりゃいいさ。あの子の居場所は、ここにもあるんだからな」

「……あの子が帰って来れる、素敵な街を守っていきたいッス。兄ちゃん」

 その爛々としながら話しかける輝生に、湊は目を細める。輝生がいるなら、このMM地区支部は安泰だと改めて安心した。


 デスクのパソコンから通信が入る。通信相手の名は“霧谷雄吾”。湊がパソコンのキーボードを押すと、画面が切り替わった。

『高島さん、今回はお疲れ様でした』

「こちらこそ済みませんでした。勝手な真似をしてしまって……」

 湊の謝罪に、霧谷は穏やかな顔で首を振った。

『あの件は、私にとっても早計でした。それを思い知らされましたよ』

「そんな事はないです。あなたは、より多くの人々を守る為に決断をした。それが間違っていたワケじゃない。誰もが……誰もが正しい事をしていたんだと、俺はそう思っています」

 その真っすぐな意見に、霧谷は心の底から感嘆した。

 流石はMM地区を守護するミライオンと荒絹かれんが認めただけの人物ではあった。

『あなたはいつも真っ直ぐで、眩しいですね』

「そういう風な背中を見せてくれる、頼もしい後輩がいるんでね」

『……そうですか』

 肩を竦める湊に、霧谷はふっと微笑んだ。

「そうだ、霧谷さん。少し相談があるんだ」

『おや、何でしょうか』

 相談とは、と霧谷は何だろうと首を傾げる。

「実は、高島一族で持っている一つの武器をUGNの方に寄付したいと思っています」

『それはまた……! 一体、どのような品でしょうか』

 霧谷に尋ねられた湊は得意げに微笑んだ。

「それほど珍しい武器じゃない。この世界に幾つもある破魔の武器の一つ――それを、もし失くして困っている部署があったら、そこに回してやってほしいんです」

 それとなく“あの部署”を指し示しているのは霧谷でも分かった。それを察した霧谷はにっこりと笑ってみせた。

『成程……。手配しましょう。こちらの日本支部に送ってくだされば、中枢評議会へ送っておきます』

「ありがとうございます」


 湊は一礼すると、デスクの下に隠されていたボタンを押す。すると、背後の本棚に光の亀裂が走り、電子音を立てながらゆっくりと壁が左右に割れていった。

 突如として現れた隠し部屋に、湊は悠然と入っていく。薄暗いその部屋には“童子切安綱”、“鬼丸国綱”、“大典太光世”、“数珠丸恒次”、そして“三日月宗近”の五振りが陳列されていた。

「さて……“天下五剣”のうち、ルミが気に入るのはどいつかな」

 その壮麗たる五振りを眺めながら、MM地区支部長高島湊は微笑んだ。

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