第25話 climax battle 3 ~少女テティス~

 少女が言えなかった本当の願いを掻き消すように、怪物は嵐の音に似た咆哮を荒夜たちに向けて放った。

 ミライオンの胸の装甲が開き、中から荒夜とルミが同時に飛び出した。

 ルミが手燭を取り出したと同時に、怪物たちが襲い掛かる。荒夜たちが着地したタイミングを見計らっていたのか、這うように突進してきた怪物の一体が荒夜の左腕に喰らいついた。

 荒夜の腕を食い千切ろうと怪物が大きく首を左右に振る。が、荒夜はその反動を利用し、怪物の頭を肘で思い切り床に叩きつけた。

 ルミもギリギリの所で一体の攻撃を躱す。だが、足元に忍び寄っていた怪物の一撃からは逃れられず、左足に食いつかれた。

 ルミが光の矢で怪物を撃ち抜き消滅させるが、二人とも食われた身体の一部が妙に重かった。

 酷い倦怠感に襲われながら、ルミは自分たちが倒した筈の怪物の残骸に視線を走らせる。

「生命力を吸収されたか……!」

 そこには瞬きもしない内に水たまりから復活した怪物たちの姿があった。

「キリがねェ! 何回も復活しやがる! 何とかなんねェのか、湊!」

 全く動かない左腕をだらりと垂らしながら荒夜が叫ぶ。

『了解した、荒夜! 輝生、準備は出来たな!』

「準備、ばっちりに決まってるッス! 兄ちゃん!」

 湊が叫ぶのを合図に、外に出た輝生が屋上の照明を一斉に点ける。暗闇を掻き消すような強い光に、怪物たちは眩しそうに動きを止めた。

「レネゲイド災害緊急対応班の人たちが、電気回線を修復してくれたお蔭ッス! ルミの兄ちゃん、ありがとう!」

 強化装甲を身に纏ったメガテリウムの輝生が、満足に動けないルミに大きく手を振る。

『これは本来、俺たちだけで使っていい代物じゃない。だけど、あの子を助ける為に……力を貸してくれ』


 本来ならば自分たちMM地区支部の許可のみでは使ってはいけない“最終決戦兵器”の起動に、輝生は緊張気味に唾を飲み込む。これを最後に使ったのは十数年前――そう、湊の父親の代の時に一度きりだった。


「本当に、いいんスね! “コレ”を使っても!」

 輝生の最後の問いに湊は大きく頷いた。

『やってくれ……いや、やるんだ! 俺たちで!』

「分かったッス、兄ちゃん! 俺たちの力で!」

 湊はコックピットのモニター手前の赤いボタンを、カバーガラスごと勢いよく叩き割る。直後、荒夜たちがいるランドマークタワーが謎の震動を始めた。

「え……え⁉」

 ゴゴゴゴという謎の震動に、荒夜とルミは辺りを見渡す。

『これが俺たちMM地区支部に残された……最後の秘密兵器だ!』

 中空に浮かぶ怪物たちもキョロキョロと落ち着かない様子を見せる中、ランドマークタワーが音を立てて崩れ始めた。

 否、違う。ランドマークタワーそのものが変形トランスフォームしているのだ。

 ギュイィィィンとエンジンの駆動音を響かせながらタワー四隅の一部が徐々に開いていき、ランドマークタワーが機械の手足へと変形していく。

 ランドマークタワーを屋上に君臨した巨大なロボットに荒夜たちが唖然としていると、飛翔したミナトミライオンが胸の装甲に吸い込まれていった。


『これが俺たちの……“タワードミナトミライオン”だ‼』

 まさに横浜の最終決戦兵器――それに相応しい姿が、屋上の照明によってライトアップされた。


「あれが、タワードミナトミライオン!」

「すげェ……やっちまえ! 支部長!」

「今こそ、タワードミナトミライオンの使い時だ!」

 その神々しい姿は地上からも確認できた。地上で怪物たちと戦闘していた支部員たちが、初めて見るタワードミナトミライオンの姿に歓声を上げる。

『輝生! “ベイブリッジキャノン”起動!』

「了解ッス! “ベイブリッジキャノン”起動!」

 湊の合図と共に、輝生は腕に装着されている赤いボタンを押した。

「べ、ベイブリッジキャノン⁉」

 荒夜が慌てて真っ暗な海の方を振り返ると、横浜を代表する橋――ベイブリッジがブィィイインという音と共に、巨大な粒子砲へと変形していった。

『ベイブリッジキャノン“レインボービーム”、起動!』

 その号令と同時に、粒子砲へと姿を変えたベイブリッジに極彩色の光が集束していく。

 モニターに映る数値が臨界点に達した瞬間、ミライオンのランプがオールグリーンに変わった。

『“レインボービーム”発射だ!』

「“レインボービーム”発射ー!」

 輝生と湊がほぼ同時に手元のボタンを押す。

 一瞬の静寂の後、極彩色の光が一直線にミライオンに駆けて来る。虹色の光がタワードミナトミライオンの胸の装甲に直撃すると、光は鏡に反射したように幾筋にも拡散し、夜空へと放たれた。

 荒夜たちがその光の行く先を眺めていると、拡散した光一つ一つが追尾ミサイルのように方向を転換し、まるで隕石のように“エレウシスの怪物”たちへと降り注いだ。

「うおおぉぉ⁉」

 虹色の隕石が怪物たちに直撃し、怪物たちは次々と水の塊となり消滅していく。

「相変わらず凄まじい力だな……!」

 荒夜の隣で光の盾を広げてくれたルミが圧倒的な火力に驚嘆しながら辺りを見渡すが、隣の荒夜は悟ったような笑みを浮かべていた。

――親愛なるアリー、驚かないで聞いてくれ。俺は今、MM地区支部で戦っているんだが、この前一緒にドライブで渡ったベイブリッジが、何と巨大な粒子砲に変身して化け物たちを消滅させたんだ。……何を言っているのか、自分でもよく分からねェ。

『これが俺たち、タワードミナトミライオンの力だ!』

 屋上を埋め尽くしていた怪物たちは跡形もなくなり、残るは少女を飲み込んだ巨大な怪物“エレウシスの秘儀”のみだった。

 そのチャンスを荒夜は見逃さなかった。左手の筋力が回復した荒夜は光の盾から飛び出し、錠剤を一粒取り出す。

 それはテンペストから渡された支給品の一つ――“超巨大化”の効果を持つ薬だった。

 攻撃力が劇的に上昇するが、ジャーム化する危険も一気に跳ね上がる。だが、今使わずしていつ使うのか。荒夜は口に含んだ錠剤を一思いに奥歯で噛み潰した。

 “エレウシスの秘儀”の前に躍り出た荒夜は狼の姿に変身すると、グググと一瞬だけ身体を縮ませる。だが次の瞬間、“エレウシスの秘儀”よりも一回り大きな影が立ちふさがった。

 月夜に浮かぶ巨大な影。それは、北欧神話の巨大な狼フェンリルと見紛うばかりの巨大な狼だった。

 地を駆けた黒い狼が“エレウシスの秘儀”の右腕に喰らいつく。右半身を食い千切られた怪物は、苦悶の咆哮を上げながらバランスを崩した。

 残された左半身がぐらりと揺れる。巨大な狼の牙から逃れるように“エレウシスの秘儀”が身を捩るが、その視界は既に白い光で覆われていた。

「逃がすものか」

 ルミの持つ手燭から無数の光が溢れる。マスターレギオンに止めを刺した死の光が“エレウシスの秘儀”を蝕んでいく。静かに身体を焼かれながら、怪物は光から逃げるように再び身体を捩った。


 誰もが勝利を確信した、その時だった。


 ぎょろりと見開いた左右の目が荒夜とルミを睨みつける。その深海にも似た昏い視線に射抜かれ、荒夜たちは一瞬だが委縮してしまう。

 直後、怪物の周りに無数の気泡が立ち、見る見るうちに“エレウシスの秘儀”の傷を癒していった。

『馬鹿な! 奴は不死身か⁉』

 自己再生を遂げた“エレウシスの秘儀”が怒りに満ちた咆哮を上げながら巨大な尾を振り回す。荒夜たちはギリギリのところで避けるが、四隅に設置されていた照明器具は、丸太よりも太い尾で木っ端微塵に破壊されてしまった。

「照明が……!」

 ランドマークタワーの屋上が再び闇に包まれる。


 朝陽はまだ昇らない。

 どこに“エレウシスの秘儀”がいるかも分からない状況は、湊たちにとっては非常に危険だった。


 だが怪物の復活は完全ではなかった。ボコッと背中から大きな気泡が弾け、中から少女の上半身だけが姿を現す。

「どうして……⁉」

 悲痛に満ちた少女の声が薄暗闇に響き渡る。

 その腕は既に黒く染まっていた。

「どうしてボロボロになってまで、こんなにしてくれるのっ⁉」

その目は異形の怪物と同じ色をしていた。

「私は……皆んなの大切なものを傷つけるだけの、バケモノなのに……っ⁉」

 だがその目は、涙で滲んでいた。

 少女が小さな手で涙を拭う。指の先まで黒くなった自身の手に気が付き、少女は目を見開く。

“エレウシスの秘儀”に呑み込まれ、自分の意思が消える瞬間がすぐそこまで近づいているのだ。


――怖い。


それを悟った瞬間、恐怖が少女の心を支配していった。


――生きたい。


 暗闇の海に沈んでいくような恐怖が、少女の心を蝕んでいく。


――やりたい事も出来ないまま、消えたくない……!


 だが、その恐怖で震える手を掴む者がいた。

「――荒夜!」

 人の姿に戻り、“エレウシスの秘儀”の背中を這い上ってきた荒夜だった。

「どうして……っ! 私は居ちゃいけないのに!」

「そんな事ねェよ!」

 少女は涙を流しながら手を振り解こうとするが、その大きな手は絶対に彼女を放そうとしなかった。

「でもこのままじゃ私、皆んなの大切な人を傷つけちゃう! だから……!」

 銀に光る涙が零れ落ちた瞬間、かつて自分の犯した過ちが荒夜の脳裏を過った。


――守れなかった。


 荒れ狂う海。親友の名を叫ぶ荒夜。


――守りたかった。


 だが荒夜の声に振り返ることなく、彼女は海へと還り二度と現世には戻ってこなかった。


――もう、失いたくないんだ。


「何とかなるッ!」

 思わず口から飛び出た言葉はそれだった。

「生きていれば何とかなる! どうしてもダメだった時は、一緒に考えればいい! 皆んながいるだろっ!」

 そう叫ぶと、荒夜は少女の手を握ったまま後ろを振り返る。

「目ェかっ開いて周りよく見てみろ!」

「目を、開いて……?」

 少女は言われるままに暗闇を見渡す。その視界の隅に、少女はきらりと瞬くものを見つけた。

 それは嵐の海でも行く先を見失わない様、遠くを明るく照らす灯。

 朝焼けの眩しさとは違う光の在処を探すと、それは怪物の直ぐ足元にあった。

――それは、ルミの手燭の灯だった。

 否、手燭だけではない。ルミによって生み出された蛍の燐光が、少女の周りとランドマークタワーの屋上を淡く照らしていた。

「皆んな……皆んな……!」

 無数の燐光に照らされ、輝生やアイシェ、周りにいたMM地区支部員の顔が、やっと少女の視界に飛び込んでくる。

「私は、居るだけで皆んなに迷惑をかけちゃう……! それでも、それでも居ていいの……?」

「今まで周りの大人に何吹き込まれたか知らねェが、そんな迷惑なワケないだろ! MM地区支部の皆んながお前の事悪く言ってたか⁉」

 荒夜の問いに少女はふるふると首を振った。

「そうだろ⁉ 誰も言っちゃいない! だから安心しろ! 安心して、俺達を信じろ!」

「皆んなを……信じる……⁉」

 少女が瞬きをする度に、涙がぽろぽろと頬を伝う。

「確かに、君はバケモノかもしれない」

 手燭を持ったルミが怪物の足元まで歩み寄る。

「でも……それでも君は生きたいんじゃないのか、本当は。君のやりたい事を、やる為に」

 さっきまでの葛藤を見透かされたようなルミの言葉に、少女は目を見開く。

「その為に、生きていたいんじゃないのか」

「ルミ……!」

 淡い光に照らされた綺麗な顔が涙で滲むと、少女の頭上から湊の声が降り注いだ。

『君は子供なんだ! 自分のやりたい事を、やりたいと言っていいんだ!』

「湊……! 私の、私のやりたい事……!」

 ミライオンを見上げた少女は、不安げな表情で荒夜たちに尋ねる。

「居ても、居てもいいのかな……? 私、ここに……!」

 その問いに荒夜たちは即答した。

「当たり前だろ!」

『いいんだ! 君は、それを願うべきなんだ!』

「嗚呼そうだ。命は一つしかない。人生は二度とないんだ。多少の迷惑をかけたって失敗したって、やりたい事をやりたいと言えばいい!」 

 暖かみのある三人の声に、少女は掴んだ手に力を込める。

「私……私は……! もし許されるなら、もっと――皆んなと一緒に居たいっ!」


 涙を零した少女の目が、鈍い銀から透き通った青へと戻っていく。

 この手の暖かさを知ってしまった。人の暖かさを知ってしまった。

 もっと知りたいと、もっと一緒に居たいと、少女は心の底から願った。


「だって、この世界はすごく楽しくて、皆んなは優しくて……なのに、これで終わりだなんて……イヤっ!」 

 初めて大声で口にした少女の願いが、徐々に白んでいく空に響き渡る。

「許されたいなんて、誰に許しを乞うんだよ。生きたいなら、もっと大声で叫べ。お前の生きたいように、生きりゃいいんだよ」

「私……生きたいッ‼」

 出会ってから初めて耳にした少女の力強い“本音”に、荒夜はいつものようににっかりと笑ってみせた。

 直後、荒夜の足元が大きく揺れ動く。“エレウシスの秘儀”が呻き声を上げながら身悶え、少女を再び吸収しようとしているのだ。

「嫌だ! 私、消えたくないッ!」

 荒夜も少女の手を掴み直すが、荒夜の足元もまるで沼のように段々と沈んでいった。

「ルミの兄ちゃん! 荒夜の姉ちゃんが言ってた“隠し玉”って、何かあるんでしょ⁉ あの子を助けられる方法が!」

 少女を助けたい一心で輝生が必死に叫ぶと、ルミは腰に差していた刀を鞘ごと抜いた。

「あぁ、あるとも! ここに! 僕はその為に来たんだ!」

 そう言ってルミが取り出したのは、古びた長得物――一本の刀だった。

「カ、カタナ⁉」

 少女を掴みながら荒夜がぎょっとする中、”エレウシスの秘儀”を迎撃していたアイシェが叫ぶ。

「その古太刀は、マルコ班がマルコ班である証! レネゲイド遺産“鬼切の古太刀”! レネゲイド災害の力を鎮め、斬り祓うものです! 隊長、今なら“エレウシスの秘儀”の力が弱まっています! “エレウシスの秘儀”に、終わりの一刀を!」

「あぁ! これで“エレウシスの秘儀”を倒せば、その力を完全に消滅させる事が出来る! 彼女と“エレウシスの秘儀”を切り離す事が出来るんだ!」

 だが、ルミとアイシェの表情はどこか晴れなかった。

「ですが……! いえ、そんな事を気にしている場合ではない!」

「そうだな、アイシェ」

 自らに迫る危機を察したのだろうか。刀を持つルミを踏み潰そうと、怪物の前脚が大きくルミの前で持ち上がる。

「させません!」

 だがその右前脚をアイシェがショットガンで撃ち抜き、巨大な前脚に大穴を開けた。

「させないッスよ!」

 間髪入れずして、その左前脚を輝生の鋭い爪が切り裂く。

 地響きを立てながら前脚を失った怪物は前のめりに崩れ落ちるが、それでも怪物は地を這うようにルミに迫る。

「――荒夜!」

 ルミは怪物の突進を避けながら、“エレウシスの秘儀”の頭上にいる荒夜に向かって思い切り刀を投げる。

「え! パス⁉」

 突然の思い切った行動に虚を突かれた荒夜だったが、それに対しルミは「君もパスしたじゃないか」と涼しい顔で肩を竦めた。

 荒夜が回転しながら飛んできた古太刀を片手で受け取る。すると今度は背中にいる荒夜を振り下ろそうと、“エレウシスの秘儀”はその場で勢いよく直立した。

「うわぁああぁぁ!」

 背中にいる荒夜が絶叫する中、“エレウシスの秘儀”の重さに耐えきれずみしりみしりと床に罅が入る。今が好機と見たタワードミナトミライオンは、背中からブレード型装甲を取り出す。

『“キングスブレード”ォ!』

 超合金の刃が異形の怪物の腹を真一文字に切り裂く。水を切るような奇妙な感触だったが、確かに手ごたえはあった。

 真っ二つにされた”エレウシスの秘儀”の上半身が宙を舞う。それでも尚、殺意を失わない”エレウシスの秘儀”は、目の前のミライオンに食らいつこうと大きく口を開けた。

 その執念深さ、その巨大さに湊は一瞬怯むが、目の前の敵を睨み据えると再び刃を構えた。

 怪物の背中に辛うじて捕まっていた荒夜は少女から手を離し、ルミから受け取った刀の鞘を抜く。

 刀の柄は古びた物であるにも関わらず、その刀身はまるで今鍛え上げたかのように煌めいていた。

 昇りゆく朝日を反射させた破魔の刀を、荒夜は真下に思い切り突き刺した。


 刀を突きされた怪物の身体がどくん、と不気味に波打つ。直後、怪物は遠くまで響くような断末魔の咆哮を上げた。

 徐々に昇っていく朝陽に身を照らされ、その昏い蒼銀の眼に白い光が映り込んだ。瞬間、刀を中心に背中が波のように騒めいたかと思うと、怪物の巨体が勢いよく弾け散った。

 荒夜と少女を巻き込みながら飛散した“エレウシスの秘儀”の残骸が空に舞い上がり、白い塵となって消えていく。

 MM地区を覆っていた“海”のワーディングは次々と弾けていき、大小様々な“海”の欠片がまるでマリンスノーのようにMM地区に降り注ぐ。地面に辿り着いたマリンスノーは、植物に触れると色取り取りの花を咲かせていった。

 朝焼けが横浜の街を白く染めていく中、“エレウシスの秘儀”と共に空に放り出された荒夜は、少女に思い切り手を伸ばす。


「――“テティス”!」


 荒夜が口にしたその名に、少女は嬉しそうに息を呑んだ。

「“テティス”……! それが、それが私の名前?」

「あぁ、そうさ! それがお前の名だ!」

 目を輝かせる少女に、荒夜はにっかりと笑ってみせる。

「嬉しい……! 荒夜!」

 荒夜に応えるように、少女も小さな手を伸ばす。

「ありがとう、荒夜! 私はテティス! 私は荒夜と……皆んなと、またあの公園でクレープを食べたい!」

 目から溢れる涙は嬉し泣きだろうか。少女の涙は朝陽の海に反射して金色に輝いて見えた。

「あぁ、帰ろう!」

 荒夜は少女――テティスの手を取り抱き寄せると、テティスもそれに応えるようにその腰に抱き着いた。

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