Chp.2: V for VENDETTA

 レベル2住居棟には、屋内に最低限必要になるであろう施設だけは設けられている。病院もその一つだ。特に私は良く世話になる施設なので有り難いのだが、いかんせん人が押し寄せる。私の記憶にある幼少期の頃の病院のそれと比にならない程だ。

 平均寿命と定年退職の年齢が当時よりも引き下げられている事も手伝い、どの職も人手が不足している。だが、高齢者の多くを対象としている介護福祉系の施設は度を越している様に思えた。貧困から脱しようとしている努力家の若者は、役人か医者になるのが最もメジャーなパターンに思えるのだが、それでも敷居は高いらしい。五千人以上を収容しているこの住居棟に対しクリニックや病院は合計して十に満たないし、大きな病院施設でも医師は十人居れば多い方だと言われているらしい。

 そんなものだから、病院に用事がある時は大抵半日か、丸一日時間を浪費しなければならない事も珍しくない。瑞希の世代から下は既に医療補助が受けられない為、余程の大怪我や大病でなければ家で市販薬を買って安静にする以外に治療法が無いのが実情だった。

 必然的に、病院は老人が多くなる。それでも、私程の高齢者は居ない。

 待ち時間の異様な長さに腹を立てる程私は短気ではないが、それでも定期検診として隔週で一日の時間を奪われるのは気が重い。付き添いの瑞希に余りにも申し訳無かったのでもう一人で通院する、と少し強引に突っぱねてしまったのは、いつの話だったろうか。ただ無為に時間を浪費していると、つい昔の事を繰り返し思い出してしまう。

 と、病院の広い応接室の向こう、救急患者搬入出入り口から、医師が大慌てで若者を乗せたストレッチャーを押し運んできた。失礼ではあると思いながらも、眼鏡を指で押し上げて搬入された患者の様子を盗み見る。閉じた両目から血の涙を流し、鼻や口からも血を流している。かなりの出血だった。既に大学生らしいその青年はピクリとも体を動かさずに、ぐったりと横たわっている。

 ああまたか、と私は眼鏡を外して顔を手で拭う。

 また一人、若者が将来に絶望して自殺を試みたのだ。全身からの出血は、大気を吸引した際の症状だ。ガスマスクをせずに外気を肺へ吸入した場合、吸入から約十秒で呼吸器系に異常が出始める。そこから更に十秒もすれば喀血し、痛みと出血量が加速。最終ステージでは目や耳、鼻、排泄器からも出血を始めそれぞれが激痛を伴う。大抵は、失血死するよりも先にショックで苦しみ、死ぬ。

 急速に、しかし恐らくは本人からすればとてもゆっくりと苦しみながら死ぬその方法を自殺手段として選ぶ理由は、私には分からない。だが若年層が空調チェンバー外でガスマスクを外すこの自殺は、彼らに好まれているのだ。無論、自殺が取り分け若年層に多いというわけではなく、自殺者の比率を考えた場合、という但し書きは付くが。

 青年は、救急治療室へ続く扉の向こうへと運ばれていく。だが、待合室に居る大人の誰もが、彼はもう助からない事を確信していた。

 全身出血のステージまで症状の進んだ患者の生存者は、過去一年間を振り返っても、片手で数える程しかない。



 先生、と私は採血を終えた専属医に声を掛けた。三十半ばらしい男は、「はい、なんでしょう?」と物腰柔らかく訊く。

「さっき運ばれてきた少年、どうなりました」

「守秘義務ですので」

 即答だった。尤もだ。私は、すっかり細くなった自分の枯れ木の様な両脚の右片方を、両手を使って持ち上げベッドに横たえる。左脚も同様に運び、そして医師に背中を支えられながらゆっくりと仰向けに寝た。これら一連の動作は、つい去年まで全て自力で行えていた。それどころか、車椅子から降りる所から問題無く可能だった。半年近く前から、たったの一工程だけとは言え他人に頼らざるをえなくなったのがショックだった事を良く覚えている。

「最近、調子は如何です?」

 医師は気さくに尋ねてきた。私は半ば上の空で、いつも通りの代わり映えしない答えを口にする。体力が徐々に衰えている事と喀血が月一の頻度に早くなった事を伝える。それ以外は、何の変化も無い。

 だが、医師は執拗に質問を繰り返している……様な気がする。今まで聞かれた事の無い質問。随分長い間訊いていなかった質問、定期診断に必要あるのかと素人ながら疑念を抱いてしまう内容の質問など。

 通院する毎に徐々に長くなる一連の質問が全て終わり、世間話をしながら、ウェアラブル端末を付けた医者はブルートゥースで同期させた手袋型の端末を使いながら空中に、ペンを握っているかの様に指を滑らせる。どれだけ患者が目を凝らしても、彼が装着している眼鏡型端末を使わなければその内容を見る事は出来ない。個人情報管理の為だと医師は言うが、彼の鍵が掛かったデスクチェストや保管庫には、まだ電子データ化されていないカルテや、今も尚使われ続ける紙媒体のカルテがある事を、私は知っている。

「先生。政府に、何を言われてるんです」

「あはは。変な事言わないで下さい、生きる伝説である早乙女さんの健康を管理するのに必要な事をしているだけですよ」

 彼の言葉に、大きな嘘は無いだろう。口調はとても穏やかで朗らかだが、その横顔は少しだけ苦しそうな表情をしている。医者として、患者である私の健康を案じ、そして長く生きていて欲しいと願っているのは分かる。それが、彼の医者としての責務なのだろう。

 そうでなければ、家族が入院費を渋って払わない意識不明の少女を、三ヶ月も泊めておく理由が無い。この件は流石にちょっとした騒ぎとニュースになったので、それを世間話の種として話す事もある。ふとその少女の事が気になって尋ねると医師は、まだ眠ったままです、と簡素に返事をした。

 意識も思考もはっきりとした六十を超えたくたばりぞこないのこの老人よりも、少女の方がずっと、未来も夢も可能性も広がっている筈なのに、私自信を犠牲にして私が少女を救う事は出来ない。

 生きる意味とは、何だろうか。

 私はその答えを見付けられず、今日もただじっと白い天井を眺める。



 俺が『渚』に所属したその二年前から、『渚』は徐々に過激派としての姿勢を強くしていた。その切っ掛けを作ったのが、誰であろう雨宮だった。

 元々『渚』の活動は、何処にでもある左翼団体の一つに過ぎなかった。リベラルを謳い、旧来の制度や国民的意識を世界水準へと移行させ、意識と行動を改革させようと働きかける団体が、大規模に組織化されたものだ。

 だが、やる事は組織化以前の同系列団体と変わらない。『大災厄』以降に発足したこうした組織の常として、発足当時は自分達が少数派であり、それを感情論で勝手に「虐げられている存在」と強く主張し、そんな自分達による自分達の居場所を作る為、より大きな相手に食ってかかる。金持ち、そして政府。自分達とは対極に位置する存在達に。

 理由なんて何でも良かった。貧困に苦しみ、金持ちとそうでない者の間に生活環境の大きな違いが生まれるこの世の中に対する不満を、具体的な形にしてぶつけたいだけだ。そんな単純な行動原理に対してそれっぽい理屈を付けようとするから、傍目に見ても発言と行動と思想がバラバラになり、一貫性が無い。

 しかし、社会的なムーブメントが『渚』を結果として後押しする事となる。

 リベラリズムの台頭は、やはり海外から始まった。特にEUやアメリカ大陸で、少数派や社会的弱者が声を上げ、徒党を組み、自分達を抑圧していた存在に対して訴訟や抗議を起こして世論を始めとする外堀を固めて、そして「巨悪」を打ち倒す。

 そんなヒロイックな流れが日本人に、そして『渚』に「ウケた」のだ。

 だが、西欧・北米諸国で自由主義的な民衆の行動が功を奏したのは、その下地にある目的と理念、イデオロギーが明確で確固たるものだったからだ。決して、ヒロイックなストーリーを実現させる為に自分達で舞台役者を演じている訳ではない。

 しかし『渚』やリベラルな思想を持つ日本人は、とにかく形だけを真似た。その下地にあるのが、格差社会の真の是正ではなくただの憂さ晴らしでしかないのに、『渚』は自分が正義の代弁者であるかの様な振る舞いを続けていたのだ。

 それでも、まだ精々デモを起こしたり一部野党を味方に付けて演説会を行ったりする程度の、可愛い団体だった。

 ガラリと変わったのは五年前、雨宮が入団したとされる頃からだ。

 戦後の移民政策により流入してきた難民の母親と、日本でガスマスクを製作している企業の幹部である父親が両親だ、と以前に話していた事を思い出す。じゃあ勝ち組じゃないですか。俺は素直に感想を言った。ありがとう、と屈託の無い笑顔で彼は答えた。

「でも、良い事ばかりじゃなかった」

 何故? と問うた。レベル3で何も問題の無い生活を送る事が出来る家庭環境だった筈だ。寧ろ、俺達が敵と見なしている存在に近い。だが、彼はこうして『渚』に居る。その時は具体的な話をせず、雨宮はただ笑って誤魔化していた。

 今、彼は俺を自室に呼び出し、安酒を飲み合いながら、遂にその理由を話し始めた。

「僕はね、父親の仕事が嫌になったのさ」

 俺よりも一回り近く年下の彼がそう静かに話す様子は、俺よりもずっと大人びて見えていた。「世間からは尊敬されていたみたいだけど」

 地下駐車場の最下層にある、警備員が常駐していたであろう元管理オフィスに、雨宮は自分の居城を構えていた。『渚』のリーダーとなった今、当然彼には精神的にも肉体的にも大きな負担が掛かる故、相応の休息場所が求められる。が、格差を無くす事を『渚』の理念の一つとして掲げている彼だから、部屋の内装は比較的質素に整理整頓されているに留まっていた。やろうと思えばそこそこ良い日本酒やら洋酒を置いておける筈なのに、それをしない。

 この若者の思想の根底は、しっかりと根を張った確固たるものなのだ。

「ガスマスクを作る仕事なんて、世間的には賞賛されるべきものだと思うが」

 単純な感想を口にする。勿論、そんな「常識的感覚」を持っている人間が『渚』の門を叩く筈がないと知っているので、俺もぼんやりとした口調で尋ねたに過ぎない。しかし雨宮は渋い顔をして、顔の前で「いやいや」と手を振り、真面目に否定する。

「生活を脅かす存在から身を守る為の商品を売る、っていうのは、消費者に常に身の危険を感じさせていないと駄目なんだ。この場合は、大気だね。皆が無くなれば良いと思っている、酸素、窒素、二酸化炭素を始めとする『地球を覆う』空気……この危険性と有毒性について、父はいつからか声を上げるようになった。警鐘を鳴らす、良い役目だと思う? 違うんだなぁ」

 言って、雨宮は猪口をぐい、と引っ掛けて続けた。「『大災厄』から最初の数年間は、皆が皆、目に見えない自分の周囲に常にある毒を警戒し、恐怖し、絶望していた。だからこそ防毒マスクや空調チェンバー技術が発達したんだ。日本はご存知の通りもう新規技術を開発する土台や人材が残っていなかったから、輸入に頼らざるを得なくなったけどね。でも技術を援助する資源や材料は揃っていたから、少しでもそれらを国外に売り込む事で外交的にも心理的にも他国からイニシアチブを取ろうとしたようだけど……そんな苦しい技術開発の氷河期時代を経験した父だから、言葉自体に重みはあった。だから、ぽっと出の若い技術者が声を上げても、その声に賛同する人間が徐々に増え、圧倒的少数派が世論を動かす迄に至った」

 百数十年前の、第二次世界大戦後の敗戦国としては唯一、異様な速度で経済成長を遂げたこの国の功績は、昼も夜も、寝る間を惜しんで労働した先人の恩恵によるところが大きかったと聞く。コンピューターも職場に導入されず、マンパワーで押し切る事しか出来ない時代の話だ。

 だがその労働スタイルでなまじ成功を収めたものだから、IT技術が発達して日常に浸透するようになってからも、根性論や精神論で職場を動かそうとする無能な経営陣が多く残った異様な時代があったらしい。そんな時代を経て、グローバルな視点で労働スタイルを見直す動きが強まり、始めは小さかったその声が加速度的に増え、比較的正常な労働スタイルに基準が推移していった。日本史でやった内容は、確かそんなところだ。

 雨宮の父親が作った社会的なムーブメントは、その流れに近い。寧ろ、そうした自由主義や意識改革のパラダイムを経験して以降の行動だから、より世間は動きやすかっただろう。雨宮は続ける。

「そこまでは、美談だよ。でもこの、『それまで力の無かった存在が大きな相手を打ち負かす』という、ヒロイックな流れがいけなかった。前に皆にも話したけれど、物事の経緯や詳細を理解せずに形だけを追ってしまうと、信念や思想に伴う行動が出来なくなる。僕の父親は、自分でこの成功譚に酔いしれてしまった。目的の本質を見失ってしまうんだ。父の場合、大気に対する危機意識を常に持ち続けるようにと声を上げるその手段として、人々に必要以上の恐怖を植え付ける事を目的とし始めた。大気に対する恐怖に立ち向かい安心を得る為のガスマスク産業の人間としては、本末転倒じゃないか」

 一番酷かったのは父と役員が家に来て会議をしていた時さ、と苦笑しながら彼は言う。まだ小学生だった雨宮ではあったが、上層階級の特権として英才的教育をされて来た彼は、父達の会議の内容の殆どを理解出来たらしい。

 そんな彼が理解したのは、当時環境保護団体として各方面に無作為に非難行動を取って来た『渚』への資金援助と、その見返りとして「ちょっとした」社会への嫌がらせするよう持ちかける、という内容だった。

「もうその時理解したよ。眉目秀麗に見えるもの、若しくは嘗てそうだったものは、企業という大組織になった途端に終わりへと向かう。特に、金の為に動かない、と格好付けて言い切る人間達も、組織としての利用価値を見出されて権力を持つ人間に経営理念を説かれてしまえば大方が態度と手のひらを変えてしまうものだ、ってね。だから、そんな気持ちの悪い全てを無くしてやろうと思った」

「それが、『渚』に入団した理由?」

 言って俺は、雨宮の座るデスク後ろの壁、二メートル程の高さの場所を指差した。白いペンキで、簡素にデフォルメされた潜水艦のシルエットが描かれている。そのシルエットの周囲を円形上に集中線を描き、その存在を強調させていた。そうだね、と雨宮は自虐的に微笑む。

「父も家族も、人の善意も見限ってしまった僕にとっては、こうあれかし、と信じたいものが無くなってしまった。この世は、こんな窮屈なマスクを着けて生活しなきゃならなくなった世界になってしまったとしても、それでも戦う価値のある素晴らしいものだって証明したくなったんだ。……綺麗事に聞こえる?」

「まさか」

 それを疑ってしまったら、何の為に目の前の男は二年間、リーダーの座に就いて以来大きな組織変革の努力をして来たというのだろうか。

 今雨宮の話を聞いて、俺はようやく少し得心する事が出来た。金持ちの為の教育でも貧民の為の教育でもない、純粋に質の高い教育を受けた彼だからこそ理想を高く抱いている。だから、人の上に立つ人間になろうとしたのだ。

 だがそれでも、どうして組織を牛耳る対象として、嫌っている父親の支出した『渚』を選んだのか。訊くと、

「一番大きくて人数が多い。にも関わらず食料や酸素の供給が十分。格差や貧困そのものではなく、それを原因とした生活環境や政治体制に対して不満を持っている。……この条件を完璧に満たしているのは、この系統の団体では『渚』だけだった」

「じゃあ、イデオロギーについては?」

 行動理念の絶対遵守は、あらゆる活動組織にとって絶対的に揺るがないものとされている。当然だ。目的の為に手段を履き違えて来た『渚』がその姿勢のまま活動を続けていても、社会に影響を与える事は今でも出来なかった事だろう。その為には、組織内部の人間への徹底した思想の「教育」が必要となる。俺の様に、そうした手段や目的をちゃんと理解し、尚且つ雨宮の理想に共感したものだけが幹部や側近となれるのだ。

 故に大半の構成員の扱いは『駒』に近い。雨宮こそ彼らを兵士と呼び多いに尊敬の念を払っている様だが、しかし使われる彼らは盲目的に雨宮と『渚』の理念を信奉するだけで、自分の意思で動こうとしない連中ばかりだ。俺達は皆対等な存在であるにも関わらず、一つの対象をむやみに神格化させるその姿勢がある限り、彼らは真の意味で『渚』を知る事は無い。

「尤も、それくらい強烈な『信仰心』が無ければ『渚』の活動はままならない。それどころか意味を無くしてしまう」

 雨宮は言う。それは例えば、天誅だとか天罰だとか馬鹿らしい題目を唱え、作り上げたハリボテの大義名分を盾にする連中が富裕層から酸素生成装置や金品を略奪する事、個人的に都合の悪い相手を暴論により殺害する事。そういった、正に「理念と行動が伴わない」行いの無意味さと危険性を言っているのだ。

 良い様に使える兵士は、良い兵士でなければならない。それはつまり、自分で考える事を放棄し、ただ言われた事だけを忠実に実行する様な。

 そして、自己犠牲により武勲を立てる事を最高の名誉だと信奉する様な。

「だから僕は組織の基本スタイルを『自然主義』として、この毒の大気で覆われた地球の存在こそ僕ら人類が死を迎える為の啓示だって、懇切丁寧に説いた訳」

 これなら大義名分としての殺人が許容されるし、『渚』の皆が心の底で抱いている高所得者層への不満も解消出来るからね。

 いつもの様に微笑んで言って、雨宮は酒を飲み干した。俺は問う。

「で、次の目標は?」



 何度問いただしても同じだ。私、池戸豊は三回目か四回目の質問を終え、心身共に疲弊して席を立った。ようやく厄介払いが出来た、という態度を崩そうともせず、フジカズコーポの広報担当者は先程とは打って変わった明るい表情で私を見送る。その清々しいまでの態度の豹変ぶりに私は担当官の男を殴りたくなったが、勿論そんな事はせず、ただ礼もせずにその場を立ち去るだけに止める。今では栽培も難しくなった天然の茶葉で淹れられた緑茶だけは有り難く飲み干してやったが。

 まあ、この時期にテロ対策本部の人間がやってくれば企業は、特に火中の人物であるフジカズにとっては煩わしい事この上無いだろう。そんな扱いだった。

 先日フジカズが公表した、環境ではなく人間の生物機構そのものを遺伝子操作により変更する、大気汚染危機に対する一つの答え。それは国内外の各所に衝撃をもって迎えられた。半分は将来への希望や展望に希望が見えたという事への衝撃。もう一つは、自らの肉体を人間の手で変質させ環境に適応する為の体になるという研究成果の目的の一つに対する衝撃。問題なのがどうちらの勢力か、言うまでもない。

 最も懸念される存在が『渚』である事に疑いの余地は無い。連中は自然懐古的な団体であり、二年前より方針の根本的な変換をした。地球環境の変化は自然と地球が人類に課した罰であるとし、その自然の意思に逆らう事は人類にとって最大の罪である、と宣言したのだ。まあ、何を言ってやがる、という話だ。

 死を座して待つ事を美德としているのなら、抗って生き抜こうとしている私達の事など放っておけばいい。寧ろ、本当に自然に身を任せる事を教え説いている坊主どもはその生き方を説法する事はしても、強制する事などしない。ましてや、暴力を用いて従わせようとするなど。

 無論、テロリズムと戦う立場に居る私が『渚』を擁護するなど有り得ないが、しかし今まで話していた目の前に座る男、フジカズの役員に対して彼らの意見を全面的に支持する事も出来ない。それは何も、操作に非協力的な態度をあの男が示したからだけではない。彼らが公表した、世代交代無しでの遺伝子組み替え技術の発表に際して、連中が余りにも科学者然とした態度を取った事が、癇に障るのだ。私は足音も荒くエレベーターホールまで進み、そこで私をのんびりと待っていたキリオと合流する。「よう、どうだった」

 ヘラヘラと尋ねる。勿論、どんな話し合いに終わったか理解した上で。私は首を振る。

「話にならない。あんな発表をした後で、『渚』が黙っている筈がない」

「人権団体と宗教団体もだな。新しい科学技術が人の生活環境を大きく変える時、必ず連中、反目する」

「どの国でも同じさ。戦争の前後でも、ずっと同じ事ばかり叫んでたじゃないか。自分達は動きもせずに」

「みんながみんなそうじゃねぇんだってのは理解してるんだがなぁ」

「ああ。余りにも声が大き過ぎて、ままならん」

 やってきた空のエレベーターに乗り込んで、私達は二〇八階から下へ向かった。コスト削減をモットーに必要施設を旧東京のこの本社に一極集中して建設したフジカズコープ本社は、敷地面積もその階層も段違いの巨大さを誇る。横浜でも、このフジカズコープ以上に高い建造物は存在しない筈だ。高速で滑り上がる外界の、コンクリートと荒地、そして遠くに広がるジャングルの様な原生林が広がる森を眺めながら、私は何とは無しに世間話をする。

「今日、どうする。実際に『渚』の事件が進行形で起きてる訳じゃなし、直帰して飲みにでも行くか」

「いいねぇ。でも、今日はパスだ。見舞いに行かなきゃならん」

「具合はどうだ?」

 何気無く尋ねた質問ではあったが、キリオはいつもの緩い表情ではない、神妙な面持ちで答える。

「一昨日、毒が足の末端にまで回った。少なくともこれ以上回復する見込みは無いってさ」

 言われて、どう言葉を続けていいか分からず、私は黙ってしまう。大気の毒に侵されて臓器不全や体調不良に陥るケースは珍しくないが、それが体の末端まで行き渡る段階にまでなると神経系に深刻なダメージが出始める。

 キリオの妹がそうだった。『大災厄』以降成人病を上回る深刻な症例だが、医療制度が崩壊しつつある現代で治療費の負担は大きい。だから、業務上と外勤との危険手当でかなりの収入がある職に就いているにも関わらず、キリオはレベル2での居住を余儀無くされている。

 そんな彼だったが、やはりヘラヘラとした掴み所の無い態度で私に話し掛けて来る為、こちらとしても少し対応に戸惑ってしまう。なるべく、いつも通りに接する事が最適解だろう。

「それに、いちいち飲みになんて出掛けてたら帰るの大変だろ、お前」

「そうか? ウチのは事前に連絡すれば特に何も言ってこないが」

「そうじゃなくて、下手に外に出てそのままレベル3に帰ろうとしたら道中で狩られるだろって話さ」

 ああ、とまた私は生返事を返し、肩を落とす。公人や医者など一部の富裕層しか暮らせない、しかし上手く行けばレベル3居住棟から一歩も外へ出ず生活出来る環境が整っているとあって、迂闊に外へ出てレベル3の人間だと気付かれると、金を奪いに襲ってくる低所得者層も多い。そこには単純な嫉妬や短絡的な金策の意識が介在している事は明白だが、元レベル1の住人であった私からしたら自分の今の生活環境は、自分で努力して勝ち取った結果と現在に対する正当な評価だとしか思えなかった。他人からとやかく言われる生き方などしていない。

「まだ、自分と家族を守るだけの力はあるさ」

 三十五歳はもう若くない。下手をすれば、五年後に成人式を迎える娘を見届ける事さえ出来ないかも知れない。それでも、そんな家族の為にがむしゃらに抵抗し、生き抜いて行く為の努力はするし、今もしているつもりだった。

 エレベーターがチン、と小気味のいい音を立てて、三十階のロビーで止まる。私達は箱から出て、中空モノレール乗り場へと向かった。レベル3住人と公人限定で使用出来る、レベル3建造物と公共施設を結ぶシャトル乗り場で、利用者が限られる贅沢品だ。だが、便利である事も確かだ。特に、頻繁に病院へ向かう必要のあるキリオの様な人間には。

 じゃあな、とキリオは改札を通っていく。私は「おう」と答えて手を振り、そのまま地上階まで降りて地下モールの適当な呑み屋を探そうか、と考えたのだが、そんな私をキリオが大きめの声で引き止めた。

「幹部さん、何て言いやがったんだ? 治験するって言ってたよな?」

 先程の、フジカズの幹部の事だろう。私は振り返って端的に答えた。

「もう、立候補してきた酔狂が居たってよ」

 テロの巻き添えになるかも知れないのに、本当に酔狂な事だと思う。そんな私の答えに、やはりキリオも眉をしかめた。

「誰よ?」

「教えてくれなかった」


 今でこそようやくクラスのヒロインとしての地位を確立した美里ちゃんだけど、三ヶ月前に本格的にメディアでデビューする以前はモデルの類の仕事、若しくは映像企画があったとしても端役くらいしか仕事が無かった。美里ちゃんは自分のSNSに仕事情報を載せるも、それに注目しているのは学年の限られた限定的なファンか、下心丸出しで近付いてくる気持ちの悪い勘違いストーカーばかりだった。

 彼女は同じクラスの、或る同級生と常に比べられ、そして劣っているとレッテルを貼られ続けていた為、そのイメージが学校の中で蔓延してしまい、実力や努力の酌量がされないまま理不尽に貶められていた側面がある。

 学問か、一芸で身を立てて出世する以外に幸せになる道は無い。誰もがそう考えている世の中だから、役者や俳優の道を目指す子供は珍しくない。それでも、他の目標とする職業と比べれば確率は低い。ましてや、成功を収めているなど。

 相原沙織は、そんな極めて低い確率の成功を確かに収めた、稀有な実例だった。まるで私が憧れる映画の、シンデレラストーリーの主人公が如く。

 沙織ちゃんは、元子役だった。その頃から既に演技力は高く、およそ子供らしくない振る舞いと大人びた態度・自身の売り出し方に、一部の大人から反感を買っていた程。でも、子供にとってそんな大人の評価など気にする価値も無くて、ただテレビにいつも出ているというだけで学校一の有名人だった。

 でも彼女は、中学でその仕事から引退すると表明。曰く、「私は勉強がしたい」と。

 順調に進めれば完全に将来を約束されていたにも関わらず、彼女は勉学の道を選んだのだ。より普遍的で、平凡な生活。その選択は、彼女を知らない者から見れば余程頭のおかしな選択をしたと思う事だろう。

 でも沙織ちゃんは、役者としての才能に価値を見出さなかった。自分がやりたいと思う事を選び、望む行動をした。それだけの事なのだ。

 周囲の野次や誹謗中傷など何処吹く風で、自分の意見を彼女はしっかりと貫き通したのである。その姿勢に、彼女と歳の近い多くの学生が共感した。

 美里ちゃんは、違ったみたいだけれど。

 だから今、彼女はあんな選択をしたのかも知れない。

「フジカズの治験に立候補したの」

「で、でも年齢制限が……満十八歳じゃ?」

「中学で仕事に力入れ過ぎちゃって、実は一浪してるんだ。だから法律的に問題無いの」

 本当は内緒だよ、と小声で美里ちゃんは、私に耳打ちをした。言われた私はと言えば、その言葉にショックを受けて言葉を続けられなかった。

 通常の治験であれば、ただ「大丈夫?」と心配するに留めた事だろう。でも今回フジカズが募集している治験目的は、病気の治療ではなく、遺伝子操作により大気の毒性に対抗しうる肉体への改造なのだ。治験とは名ばかりの、生体実験に近い。

 止めなよ、と言おうとして、でもそれを口に出来なかった。美里ちゃんの目は、覚悟を決めたとかそんな次元はとっくに超えていて、そうする事が責務なのだ、とでも言いたげなくらい落ち着いて澄み切った目をしていた。

 するかしないか、という次元にはもう居ない気がしたのだ。何となく、だけれど。そのまま私はまた自分の意見を言えず、気まずくなったまま私達はそれぞれの家へ帰った。

 それから、数日が経過している。今日は美里ちゃんも学校に来ているが、教室で私達が表立って会話をする事は無いので、クラスの女子に囲まれて談笑している様子は、いつも通りの光景だった。でもクラスで私だけが、彼女の顔の裏にある意思に対して疑問を抱え続けている。だから普段しない、教室の離れた自分の席から美里ちゃんを見つめる、という事をして昼休みを潰していた。

「長谷川。現国の教科書貸して」

 言いながら、飯島君が私の前の席に腰掛け話してくる。「忘れちゃった」

 突然の来訪者に目を白黒させつつ、私は答えた。

「わ、私も使うから……」

 本当は、同じクラスの人間に頼む馬鹿が居るか、くらいの事は言い返してやりたかったが、如何せんストレートに逆らったり反対する意見を言わない習慣が身に沁みてしまっているので、この類のやり取りも何度目になるか分からないが、そう答えてしまう。分かってるよ、とニヒルに笑って、彼は私が見ていた視線の先を見て、そして自分もそのままじーっと美里ちゃんを見続けた。

「相変わらず人気者だよなー、大川さん」

 私はその言葉が本心ではなく、「可愛いし付き合いたいな」が本音である事を知っている。でも私は「そうだね」としか答えない。

「どんな生活してるんだろ。やっぱ売れっ子って、レベル2は最低ラインとか思っちゃうのかな」

「どうだろね」

「この前、新作マスクのモデルに抜擢されて試供品貰ったって聞いたんだけど、今日着けてきてるか見た?」

「着けてた。オーダーメイドだから、注文したら?」

「無理無理! だってシャネルブランドの一級品よ? レベル1には無理無理」

 美里ちゃんもレベル1に住んでるよ、などと個人情報を漏らす事はしなかったが、彼の言う事も尤もではあった。ブランド会社は大衆向け・大量生産の商品を作る事も出来るが、それとは別ルートで太い顧客向けの高級品の品質もとても重視する。美里ちゃんが着けているのはまさにそれだ。特に男の子は、お洒落に興味があったとしてもマスクは格好良さを重視する。お兄ちゃんもそうだった。会社のブランドネームには特にこだわりも無いのだろう。

 と、美里ちゃんとは直接関係の無いそんなどうでもいい話をしていると、美里ちゃん達の女子グループに男子数人が近付き、話し掛ける。だがそのグループに話し掛けているというより、明らかに美里ちゃんだけに視線を合わせて一方的に話をしてきている。目的は明らかだ。

 空気を壊さない、というのはいつの間にやら私達子供の間で出来たルール。日常を表面上円満に進める為に必要な対応。だから美里ちゃん達は、露骨で下心丸見えなそんな男子達に、表面上は普通に接する。だけど遠目に見ても、女子の私からは男子に対して険悪な空気を流しているのが見えた。一方男子達は、自分達が突っ込んでいっても彼女達は嫌な顔をしない、そんな単純な自己過大評価を増幅させる。

 でも程度が違うだけで、飯島君も似たようなものだった。気安く話し掛ける男子グループに、羨望ではなく嫉妬の目を向けている。なるべく表情に出さないようにしている様だが、とても分かり易い。

 が、その嫉妬で少し不機嫌になった表情が、「あ」と動く。ハッとして視線の先、美里ちゃん達の方を見ると、浮かれて身振り手振りが大きくなった男子グループの一人が、或る生徒の机に置いてあった花瓶を手ではたいてしまう。

「あ」

 皆の声が重なる。花瓶は大きく揺れ、男子が手を伸ばしてキャッチするよりも先に、花瓶は床に落ち、軽い音を立てて割れた。

 騒がしかった教室が一気に静まり返る。男子も女子も、皆が顔を青くした。私も自分の顔から血の気が引いていくのを感じる。ただ一人、美里ちゃんを除いて。

 たった二秒の間に起きたその悲劇を見て、美里ちゃんは表情を動かさなかった。何の感情も見せず、ただじっと割れた花瓶を無表情に眺め続ける。

 誰も声を掛けられなかったが、慌てふためいた男子達はろくにまともな言葉も話せず、割れた花瓶を素手で集めて一目散にその場を去っていった。

 誰も、一言も発せなかった。ただ動揺しながら、皆が遠巻きに美里ちゃんを見るだけだ。私も飯島君も、席に座ったまま動けない。

 美里ちゃんは無表情のまま、おもむろに席を立つ。そのままゆっくりと掃除ロッカーに進むと、彼女の進行方向の人垣が割れた。そうして彼女は箒とちり取りを出し、「片付けようか」と一言だけ呟いた。

 その言葉を合図に、クラスメイトが次々に動き出す。誰も、一言も口を利かなかった。勿論、クラスの皆が動く程の花瓶の欠片が散っている訳でもなく、多くの者はただ右往左往するだけだったけれど。皆、沙織ちゃんの机に置く代わりの花瓶を探す為に、と一人一人口に出して、教室から姿を消していった。

 そんな時だった。

 ……ズン

 くぐもった低い音が、小さく聞こえた。小さい音だったが、それと同時に、教室と明かり取りの強化ガラス窓が僅かに揺れる。経験した事の無い振動に驚き、私達は皆、再び動きを止め、天井を見上げて視線を彷徨わせるだけしか出来なかった。

「何、今の……地震?」

 口に出してみるが現実感も、それらしい感覚も無かった。と言うか、と飯島君が呟く。

「爆発?」



 瑞希、と娘に声を掛ける。仕事から帰って夕飯を作り、二人で食べた後の休憩時間だった。机の上で何か書き物をしていた彼女は、首を傾げて私を見た。

「何?」

「お前、仕事は大丈夫か」

 何を言ってるんだか、という顔をして、瑞希は苦笑する。「屋外作業手当が出るような仕事はしてないよ。約束したじゃない」

「うん。いや、それもそうだが……」

 と、言い澱みながら私はテレビに向き直る。背後で、瑞希もテレビに目を向ける気配がした。キャスターが記事を読み上げている。

『千葉県船橋市で起きた、フジカズ・マスクの製造工場の爆発から五時間が経過し、ほぼ鎮火した現場での確認作業が続いておりますが、爆発の規模が大きく、難航しているとの事です。そして一時間前、各メディアに、今回の爆発について反社会組織「渚」からの犯行声明がありました』

 昼間に起きた、ガスマスク製造工場での爆発。フジカズの系列組織の工場という事で敷地面積や工場自体もそこそこの大きさがあったが、今回起きた爆発は、製造ラインの中心部。壁が崩壊し、大量の外気が屋内に流れ込んだという事だった。

 屋外労働に従事していない社員や派遣社員が多く働いていた事、また通常であれば大量の外気が流入する自体など想定していない現場である事から、作業員の殆どはガスマスクが側に無かったらしい。

 ……つまり、そういう事だ。

『大災厄』から数年間は、過失や無知から外気を肺に取り込んだ犠牲者を何十人となく目にしてきた。だからこそ、今回の事件がどれ程の事態のものであるか、私には容易に想像出来る。だが、空調チェンバーとマスクが確実なものとして流通していた時代に生まれた瑞希達は、恐らく根本的な毒の恐怖を理解していない様にも思えてしまう。お節介かとは思いつつ、私は娘の身を案じずにはいられないのだ。

「お前の仕事も、ガスマスク関連の事業だろ」

「そうだけど、輸出入管理の仕事よ。パソコン業務しかないわ。オフィスなら、非常マスクもデスク下に常備してあるし」

「でも『渚』のターゲットには……」

「今の時代、一つの事にいちいち気を払ってたら何も出来ないわ」

 ひらひらと手を振って、瑞希はサバサバと答える。楽観視しているとも、肝っ玉が据わっているとも取れる言葉だ。私としてもそう言われては何も言い返せず、ただ吐き出したい言葉を必死に飲み込むしか出来ない。

 だが瑞希の言葉は裏を返せば、『こんな時代じゃいつ死んだってしょうがない』と達観してしまっている様にも聞こえてしまう。

 ……無理も無いのかも知れない。

 世界の平均寿命はどんどん下っている。そしてかつてこの国の一大産業であった筈の先進技術は、先進国基準でほぼ最下位にまで落ちている。旧東京が三年前、ようやく技術開発や創作活動に対する支援対策を本格的に打ち出して資金面での援助を始めたが、余りにも対応は遅過ぎた。既に大手以外は技術と人材を育てる地盤が大きく崩れ、技術に対する正当な対価を支払う海外へ人は流れていく。そしてそんな、将来的な生活が苦しくなるこの国で、自分の子供にその苦難を味わわせたいと思う親が少なくなるのも確かな事だ。

 七十年以上叫ばれた少子高齢社会はますます格差を広げ、国民の多くが諦観している。

 我々は、緩やかに滅んでいるのだ。

 だから死に対しても鈍感になり始めている。それは同時に、生に対しても鈍感である事を意味した。大気遮断対策設備のインフラが安定したこの時代に、我々が生きる為に絶対必要な技術が、「有って当然のもの」という認識になっているのだ。

 絶滅の縁にあって、我々は必死に抗うでもなく、ただ静かに人類としての余生を迎えようとしている。ここ近年、瑞希の言葉と態度から、そんな気配を強く感じる。

 お茶飲む? と訊く瑞希に、私はうん、と答える。机から立ち上がり、瑞希は急須と湯呑みをキッチンで準備した。私はと言えば、ふと彼女の書いていたものが気になっていた。いつも瑞希は、亡くなった旦那の趣味の影響でジグソーパズルをするのが日課だったのだ。何度か私も付き合った事はあるが、ピースが小さく絵柄も見辛い為、長続きしなかったのだけれど。

 そんな彼女が珍しく、今日はペンを握っていた。私は車椅子に座ったまま頑張って背筋を伸ばし、眼鏡を押し上げ、少し離れたテーブルの上にあるノートを見る。

 家計簿だった。三色ボールペンの黒と赤を使って、一週間の記録が付けてある。見開きのページに六週間前までの記録が付けられているが、その全てがマイナスだった。桁も、月々の貯蓄にかなりの影響が出る金額だ。

 項目には食費や光熱費など、他の家庭でも良く目にする単語が並ぶ。だがその中で、私の家でしか発生しない項目が書かれている。

 特別待遇医療費(保険対象外)

 抗毒免疫検査費(保険対象外)

 その他医療費(保険対象)

 たったの、三項目。

 その三項目で、月の出費の六割を占めていた。

 収入の項目に『政府特別健康補助』の文字はあったが、正直、支出の赤字を支えている金額とはとても言えない。

 私は愕然とし、何とか動揺を隠そうとテレビに意識を集中させようとする。だが、キャスターの話は何も頭に入ってこない。

「美味しいの入ったよー」

 明るく、ちょっとおちゃらけて話し掛ける瑞希。私は、漏れ出しそうになる嗚咽と涙を堪えながら、差し出される湯呑みを受け取る。

 ……ちゃんと受け取り、握った筈だった。受け取って、ちょっと自分に向かって確かに湯呑みを引き寄せた。だが、湯呑みはスルリと私の手から滑り落ち、ごとん、と重い音を立てて床に落ちてラグマットに染みを作ってしまう。

 え、と瑞希が目を丸くして、自分の湯呑みを持ったままその場で固まった。私は、混乱する頭を必死に整理し、自分の右手をじっと眺める。数年振りに、冷や汗を掻く。

 手に、痺れが来ていた。



「惨いな」

 現場を見たキリオの第一声は、現場の惨状をまさに的確に表していた。装着したガスマスクの面体の上からでも、憎々しげに顔の歪む様が見て取れる。かく言う私の顔も、同様に歪んでいた事だろう。ゴホゴホ、とキリオが咳き込む。

「くそ、マスクをしてても火事の煙は駄目か」

「吸収缶のフィルターは、それぞれのガスや有毒物質に応じて変えなきゃならん。地球の大気に合わせた吸収缶では、一酸化炭素から身を守れんよ」

 フジカズ・コーポの爆破テロ現場は、日が落ちてしばらくした頃にようやく鎮火した。だがまだ消火水により発生する煙と一酸化炭素の残滓はある。工場の奥まで足を踏み入れるのは、消防士以外は無理だ。それでも、屋内に入り込まずとも、現場の惨状を把握するには十二分に過ぎた。

 爆発は、工場の外壁に突っ込んだ十トントラックが原因だった。一体どれだけの量を積んでいたのか、荷台に積まれていたTNT火薬が爆発したのである。また、荷台には火薬の他にレベル1の地下酸素供給ボンベ貯蔵室から直近二ヶ月の間に盗まれたと報告のあったボンベと見られるそれも積まれていたらしい。爆発威力を増幅させる為だろう。

「非常防空シャッターは? 作動しなかったのか」

 鑑識に訊くと代わりに、立会いをしていた社員が青い顔をして答える。

「製造ラインのエリアは、明かり取りの窓も無い完全な密閉空間でした。勿論外壁舗装も防空構造自体には何ら問題は無いので、非常用シャッターの類は、何も……」

 確かに、過去火薬を満載した爆弾トラックが特攻で突撃してくるテロリズムなど、この国では無かった。組織化されたテロ行動がここまで本格的に実害を及ぼした例は、これが初めてだろう。

 果たして、これは偶然だろうか?

 目撃証言によれば、トラックは身分証明をせず正面ゲートを突っ走り、そのまま正面玄関ではなくわざわざ工場の裏手へ大きく回り込み、ピンポイントでこの壁にぶつかった事になる。この、生産ラインエリアが一番大きく、シャッターも無かった唯一の場所に。

 結果、私の目の前には数十人からなる死体が横たわっている。

 人が数人まとめて通れる程の大穴が空いた場所から遠ざかるようにして、作業員が倒れている。それは屋内へ通じる非常出入口に向かってほぼ真っ直ぐに続いていた。出入口に近付くにつれ、死体は増えていた。

 皆、身体中から血を流している。口、耳、鼻、目。吐き出した血の量によっては、素顔が判別出来ない程に、自らの赤黒い血に顔が染まった者も居る。皆、苦悶の表情を浮かべて事切れていた。その表情を見てしまうと、火災でその身を焼かれて事切れた人間の方が幾分楽な死に方だったのでは、と考えてしまう程だ。

 死体の山は、出入り口付近に大量に築き上げられていた。二重三重に人が折り重なり、血の海の中に倒れ込んでいる。エリア内監視用の強化ガラスを素手で叩き割ろうとした人の痕跡もあった。

「誰が、彼らを締め出した?」

 キリオが声を震わせて言った。ウチの社員です、と社員は答えた。

「ですが、彼らを責めんといてやって下さい。火が迫っていたなら、その脅威も目に見えて、最後の一人が逃げ出すまでドアは開けていた事でしょうが、今回は空気が脅威だったんです。目に見えないものが襲って来て、下手にドアを閉められない程沢山人が流れてきて手遅れになったら……。職員はドアの前でギリギリまで待機して、なるべく救おうとしとりました。でも、すぐ目前に血を吐き始めた者がおったら……分かるでしょう」

 理解出来る。出来ない筈がない。我々も、常に大気という脅威に晒されながら仕事をしているのだ。万が一、吸収缶の替えが無くなってしまったら。マスクに整備不良があったら。

 対策として取るべき手段が他人を犠牲にする道であれば、潔く死を受け入れて自分が死ぬ道を選ぶなどとは、断言出来ない。

 吐き気が酷くなる。だが、目を逸らす訳には行かない。私には確認せねばならない事があった。

「内通者が居た可能性が高い。ピンポイントで狙いすました様にトラックをあそこに走らせたのは、警備から逃げ惑った結果とは思えん。壁を壊してさえしまえば深刻な被害を与えられると知っていたから攻撃出来たんだ」

 私が言うと、キリオは鑑識に声を掛ける。「運転手は?」

「死亡しています。検視はまだですが、恐らく即死かと。身元は、ポケットに入っていた運転免許証から捜査しています」

 説明が終わると同時に、私を含む捜査員の業務用端末がピーッ、と音を立てる。皆顔を見合わせ、ワイヤレスマイクロホンを耳に嵌めた。「どうぞ」すると、無機質な女性が情報を読み上げる声がイヤホン越しに聞こえた。

『運転手の身元が判明。大西陽介、三十一歳。免許では旧都内在住となっていますが、この建物は現在取り壊されています。廃棄区画の出身かと思われますが、詳細不明。直近一年での逮捕歴は二回、窃盗と傷害罪。いずれも保釈金を払って釈放』

「何処が出した?」

『ガスマスク製造会社関連企業からと思われます。過去に何度か、目的不明の支出があり、地検にマークされていました。実際の支払いは「渚」のフロント企業と思われる会社からの名義です』

「こいつは『渚』のメンバーか?」

『先程現場の検察から、助手席にかろうじて残っていた全面体マスクに白い潜水艦のシルエットが描かれていた痕跡が見受けられると伺いましたので、断定しても良いかと。また、大西は免許証の住所を使って派遣会社に所属してます。頻度は高くないですが、ガスマスク製造工場を中心に複数社、これまで派遣された記録が残っています』

 私はサッとイヤホンを外し、まだ顔色の悪い職員に向かって「おい」と声を荒げた。

「大西陽介という派遣社員は、ここで勤務していたか」

「大西……。ええ。特徴のある顔だったので、覚えています。勤勉な方だったので良くスポットに……? え、え?」

 言葉の流れから、彼は目を白黒させて運転席の焼死体と私達の顔を見比べる。チッ、とキリオが舌打ちしてオペレーターに話す。

「大西の行動をトラッキングして、監視カメラを辿りながら現時点での住所を突きとめろ。地元警察が得意だろ」

『正直に申し上げると、難しいかと。ご存知の通り、郊外区域は危険地域に該当しているので監視カメラが殆ど無くて……』

 その通りなのだ。そもそも屋外を出歩く機会も減った現代に、まともな人間であれば遊び半分でも絶対に足を踏み入れないであろう場所、それが郊外区画だ。廃棄区画とも呼ばれる。レベル1でも生活に大きな支障をきたすレベルの者が流入してくる場所で、その数は年々増えていると言われる。そしてその多くは、家に行き場を無くした子供達だ。

 そしてそんな非生産的な人間の集まる場所など、監視するに値しない、というのが政府の非公式な見解だろう。勿論表立ってそんな事を口にはしないが、新たに廃墟と化した居住棟を改装し、空調チェンバーを何十基以上も揃え、低所得者層の生活環境を確保したところで、彼らが高い生産性を誇る労働力になるとは言い難い。しかもそんな場所に集まる人間に限って『渚』の活動への関心が高い世帯が多い。となれば、そんな地域を庇護する為の施設やインフラなど整う筈も無い。

 通勤に使われるバスや鉄道は市街地へと繋がっている事が殆どで、郊外区画の住民は出勤の足を使う為に車を使うか、一度街に出なければならない。そうなると大西も、市内までは公共移動施設を使ったとして、そこから詳細な住所の追跡は難しいだろう。精々、家の方角が市街地からどの方向かを知る程度にしか役立たない。

 ふう、と嘆息し、私達は頭を抱える。「さっき、大西は複数の工場に派遣されていたと言っていたな? 内部構造自体は一度派遣されてしまえば大体把握出来てしまうだろうが……他の工場や倉庫が次の標的になるのでは?」

『勿論、各マスク製造会社に緊急通達と非常警戒をするよう、呼び掛けてはいます。ただこれは個人的な意見ですが……他企業への影響はあまり無いかと思います』

「何故?」

『今回爆破されたのはフジカズの系列会社の工場です。先日、自然主義を謳う「渚」が最も嫌うであろう、遺伝子操作による人体の遺伝子組織組み替えの実験について演説をした事と無関係ではないかと思います』

 つまり、「神の領域」に踏み込もうとしている企業に対する報復テロだという事か。筋は通っている様に見える。だが、やはり油断は禁物だ。

「それでも、各企業へ厳重警戒をするよう伝達しろ。以上」

『了解しました』

 現場で動ける警官の人口も減っているここ最近では、これ以上民間を保護する事は不可能だ。一応、やる事はやった。マイクロホンを外し、私は呟いた。

「あとは、天命に任せるしかなかろう」

「やめろよ、そんな事言うのは」

 少し怒気を孕んだ声で、キリオが言い返してきた。その態度が少し珍しく思えたので、私は首を傾げた。「どうした?」

 だが、キリオは答えない。ただ私を不機嫌そうに睨みつけるだけだ。

 ややあって、場の沈黙に耐えかねて一人また一人とその場を離れていき、ようやく彼は口を開いた。

「天命だなんて、言うなよ」

 ああ、と私は得心して自虐的に笑ってみせる。

「悪いな。連中と同じ思想になってしまった。やっている事は真逆なのだから、縁起は悪かったな」

「違う」

 と、キリオは即答した。え? と思わず声を漏らすと、キリオは言う。

「殺人も、病気も、天命なんて一言で済ませるなよ」

 ハッとした。工場を背に立つ彼の後ろには、数十人の遺体が見るも無残な姿で転がっている。そして思い知る。彼は、単にこの惨劇を天命だと言われた事に怒っているのではない。今も尚、大気の毒に苦しむ妹に訪れるかも知れない未来と遺体の山を重ねて見てしまったのだ。

「……済まない」

 生きる事を放棄しているのは、自然主義を謳う連中ではなく、そんな彼らに迂遠に感化されてしまった私の方かも知れない。

『渚』の行いは間違い無く間違っていると断言出来るものの、彼らがその思想に至った過程と心中には、少なからず共感出来てしまうから。



「大西で良かったのか?」

 俺は雨宮に訊いた。「あいつはいい奴だったが」

 この場合の「いい奴」は、とりもなおさず「いい駒だった」の意味だ。勿論、と雨宮はアッケラカンと答える。

「情操教育が完璧に近い状態で『渚』に所属していた彼だからこそ、正確に、確実に予定通りの目標を達する事が出来た。これが、例えばまだ利用価値の低い若い連中を使っての行動を起こした場合、不確定要素が大き過ぎる。『人はいつか死ぬものなのだから自然に身を任せた一番安らかな道を自らが選択するべきだ』という僕らの理念を完璧に理解出来ていなければ、死を恐れて全て失敗に終わっていたかもしれない。そんな心の弱い奴が生き延びて警察に捕まったりしたら、情報を暴露される恐れもある」

 まるで今日作った夕飯についてのこだわりを語っているかの様な、少し熱を帯びた口調と、生き生きとした表情。全く、雨宮らしいと言えば雨宮らしい。

「でも君を始めとした幹部は、勿論別だよ。世間的な常識的感覚を持ち合わせていながらも、『渚』の目的を達成しようという野心に燃えてくれているんだから」

 ふう、と息をついて、俺は端末でニュース記事を開いて読む。既に爆破事件についての実行犯が大西であると割れている。それでも警察が彼の自宅を特定するのはもう少し先の話になるだろう。だが、当然の事ながら大西の自宅、つまり『渚』メンバーのアジトの一つが見付からないなどと楽観的な見込みを立てるつもりも無かった。

「大西の家は、いつ片付ける?」

 俺は尋ねる。酒を一口煽り、落ち着いた笑顔で雨宮は言った。

「今夜にでも。それと、都市部の空調チェンバーに細工をしてくれたメンバーとその所属グループは、明日からここの空き部屋で暮らしてもらう。伝達して欲しい」

 ここ、と言いながら雨宮はデスクを指差す。

「この駐車場に?」

「幸い、防空に問題の無い空き部屋はまだ幾つもある。突然警察に踏み込まれて規定通り劇毒カプセルを噛んでくれるメンバーが百パーセントだとは思ってないから、そういう意味でも安全策とその提供を、ね」

「分かった」

 言って、俺は一休みをする為に自室へと向かう。その間考えるのは、雨宮の事だ。

 雨宮のミステリアスな顔立ち、人の視線や意識を自然と集中させるカリスマ。そして何より低所得者層の中でも最下層に位置する俺達の欲求不満を代弁し、抗議行動に昇華させたその行動力。それが俺達を救っている。

 生きる目的のハッキリしなかった俺達底辺の末路、惨めな死を荘厳な死と扱ってくれると約束した彼の発する言葉に、誰もが救われたのだ。その巨大組織を画一的にまとめ上げ、統率した手腕には俺も舌を巻く。

 ……高所得者層や利権を貪る連中に対して、貧困層は余りにも無力だった。幾度と無く格差を埋めるよう政府に陳情したところで、それは連中にとって努力を放棄した人間が言い訳をして甘えてきている様にしか見えない事だろう。公人も、自分達が必死に勉強し、努力し、やっと掴んだ安定した安全な生活を送っているのだ。それを、ただ他力本願で不満をいうだけの連中に脅かされるというのは何とも面白くないし、何よりそれこそ不条理な筈だ。

 無論、その認識は間違いではない。『渚』の中にも、現状の生活には或る程度満足してしまっているが文句を吐き出したいだけ、という、忠誠心の低い輩が居る事だろう。

 だが公人に本当に理解して欲しいのは、努力しても尚、経済的な問題や、レベル分けされて生活するそのレッテルに縛られ社会的に格差を受けている者の存在だ。

 どうせレベル1の奴だから。

 俺達は、何度その言葉を聞かされ続けてきただろう。子供にはこんなテロリストの様な活動家の生活を送って欲しくはない。だがその為に、人道的手段で俺達に何が出来る?

 そんなやり場の無い怒りは、本当にやり場を無くしたまま増幅し、今の『渚』を生む苗床となった。自暴自棄になり、長年の努力が報われない現実をまざまざと突き付けられた俺達は、浅ましくも他人を巻き添えに地獄へ引きずり落とす道を選択したのだ。

 だが、俺はそんな『渚』の選択を責める事は出来ない。そして組織的な犯罪に積極的に加担し、その活動意義を肯定する。その責務と罪の重さを自覚しているからこそ、もしもの時は劇薬入りのカプセルを躊躇無く噛み砕く覚悟が出来ているし、その覚悟を雨宮に信じてもらえたからこそ、皮肉にもメンバーの中で古参として未だに生きながらえている。

 後悔はしていない。だが、家族に『渚』の思想を押し付けて彼らも殺す事になった時、俺は自分達の行いを後悔し、苦しむ事だろう。

 その時こそ、俺がカプセルを口にする瞬間だ。

 俺は自室で一人、たった一枚残った家族の写真を眺めながらそんな事を考えていた。


 日曜日、私は再三に渡るお母さんの「気を付けてね」を聞いてから、マスクのロックをしっかりチェックし、チェンバーを出た。レベル1の建物には他の公共施設棟や歓楽街施設棟を結ぶ直通パイプなど伸びていないので、何処へ出掛けるにしてもマスクをして外を歩かなければならない。何とか徒歩圏内にある学校までの道のりは、正直言って今も不安だった。

 それでも、今日私は電車を使い、少し離れた歓楽街棟まで出掛ける。受験勉強の息抜きに、美里ちゃんと映画を観に行くのだ。大昔の映画のリバイバルだが、最近私の映画趣味に引き込み始めた美里ちゃんには是非見て欲しい一本だ。

 だが、地下鉄を使って目的地に向かうまで少し時間を要してしまう。道を歩いては全面体のマスクを付けた警察官に声を掛けられ、質問をされるのだ。「さっきも訊かれました」と答えても、規則だから、と一点張りで融通が効かない。

 原因は分かっている。先日のテロの影響だ。元自衛官の肩書を持つ警察官も今の時代珍しくなく、そんな人達は体格や身のこなしを見れば素人目にも分かった。

 警官達がピリピリした様子なのは一目で分かる。私は彼らの質問に全ていいえで答え、使う単語も平易で最低限のものに止める。悲しいかな、波風を立てない事を第一に考えて行動してきたせいか、そうして相手の裏の意図を見抜くのは得意だった。まあ、そんな態度を取っていたが故に「年不相応だ」と怪しまれたかは知らないが、何だか無駄な質問を沢山されてしまった気がする。

 他人はこうあるべき、と主観的に捉えて一方的に評価する風潮は、今も昔も変わらないだろう。そりゃあ、外見や簡単な会話でしか初対面の人の性格は測れない。それを判断材料とするのも無理からぬ事だろう。

 でも、それ故に主観的に判断された相手の人物像は、その人の中で一方的に拡大・増幅していく。あの警官も、大学受験を目前に控えた少女がブラブラしているのは怪しい、とでも考えていたのだろう。結局、学生証を見せるだけで終わったけれど。本音を言えば、そんな事だってしたくなかった。

 でも、私は自分を形にする事は出来ない。言葉にして伝える事が出来ない。口下手というわけじゃなく、心理的に。

 影響には兄を反面教師的に見ていた事が一因だろう。相手に食って掛かり、自分の意見をハッキリ伝え、理解させようとした。その為に時には暴力を用いる事もあり、幼心に損な役割をしているな、と思ったものだ。

 例えば今、私が地下鉄に入る為大型空調チェンバーに入る順番待ちをしている待ち時間など、外界のインフラ設備の不十分さ・不便さについて人目を憚らずに「こうだよな?」と強く私に主張してきたりして、私はかなり恥ずかしかった。他にも、居住棟のレベル単位で学校の生徒が敵対し合い、レベル2とレベル3の生徒に、レベル1の生徒がリンチを受けた事件。兄は「レベルで生きる権利を蹂躙するな!」と叫んで加害者グループを、友人らと共に袋叩きにした。後者の蹂躙、という件は完全にブーメランな気もするが。

 今思えば、兄は理想の高い、強い正義感の持ち主だったのだろう。

 それは人によっては、現実が見えていない青二才だとか、生意気な事を口にして立場が上の者に反抗しようとする思春期にありがちな行動と取られてしまい、更には喧嘩っ早い性格が相まって学校で問題生徒扱いされていた。

 だが、本当に兄は反抗心が強いだけの若者だったろうか。レベル1の身分から見た社会的な側面への関心は高く、素人考えとはいえそれに対する対抗策も自分でちゃんと考え、意見を発していた。意見の衝突を恐れて、明らかに人を不快にする発言をする目上の相手に対して気まずい相槌を打つしかなかった状況で、それは違う、と理論的に反論した姿を見せた事もあった。最終的に暴力に発展したのはどう考えても悪手だとは思うけど。

 周囲と調和せず、面倒事に毎回首を突っ込み、どれだけ批判されても自分の意見を貫き通そうとする。

 問題は多かったかも知れない。でもそんな兄をよく見ていたからこそ、彼の事は心の底から嫌いになれなかった。家を出ていく前までは、自分の意見を真っ直ぐに言えるその姿に尊敬する事もあった程だ。私には出来なかったけれど。

 でも、と私は最近よく思う。

 兄の貫き通そうとするその意見が正しいものであればいいが、もしそれが間違っていたら? あの正義漢と熱血の塊が、些細な情報や感情の行き違いやズレの影響を受けてしまっていたら? 兄は高校時代で既にどんな人間になってしまっていただろう。

 しかし、それは何も兄に限った話ではないと思う。

 寧ろ、自分の言葉や感情を吐露出来ず、鬱憤とか不満とかを貯めている私の様な人間こそ、その吐き出し口を求めて誤った思想に傾倒してしまうかも知れない。

 正しく、理想を求めて生きようと考えを巡らせて生きる様にする毎に、私はあらゆる事から距離を置く様になった。正しくあろうとし、主観的な判断のみに陥らない様に常に客観視が出来るよう、距離を置く。

 だから、熱意が無くなっている。

 だから、人類は緩やかに衰退しているのだと、表立って国民は口にしないだけで、その経験から不安を予感しているのだ。

 不安は恐怖、または諦観に繋がる。前者を感じ取る事で防護策を講じようとするのが先程の警戒心の強い警官であり、『渚』だ。だが皮肉にもこの『渚』、恐らくその名を冠する事となった元ネタとなるものが存在する。正に知る人ぞ知る、といううんちくレベルの話ではあるが。

 それは図らずも、私が今日美里ちゃんと見ようとしている映画だった。



 美里ちゃんの撮影現場にやってきた。昨今では珍しい屋外撮影であり、危険度は高い。ちょっとしたミスや気の緩みでマスクが外れてしまう可能性もある中での作業の為、現場の空気はかなり張り詰めていた。

 そんな現場の様子に萎縮して、私は一団に近付く事を躊躇ってしまう。迂闊に近付けば、野次馬と勘違いされて邪険に扱われ、追い払われる事だろう。案の定、無精髭を生やした撮影スタッフらしい男性に呼び止められてしまう。

「出待ち? 駄目だよ、さっさとどきな」

「あ、いえ。あの、友達が……」

「君ね、嘘ならもっと上手くついてくれない?」

 もううんざりだと言いたげに、敵意丸出しの表情で私に凄んでくる。私は何も言えなくなり、足が震え始めてしまう。と、そんな私に声を掛けてくれる人が居た。遠藤さんだ。

「おい。ウチの客人だぞ」

 強めの口調でスタッフに攻め寄る、三十半ばくらいのショートカットの女性だった。半面体のマスクはシックなデザインに纏まっており、印象第一の業界で働いている人だな、とすぐに分かる出で立ちだ。

 途端にスタッフは顔色を変え、平身低頭して言葉少なに急いでその場を離れていく。私は深々と頭を下げ、遠藤さん……美里ちゃんのマネージャーにお礼を言った。彼女は大きな目を細めて微笑み、マスク越しのくぐもった声で答える。

「謝らなくていいのよ。悪いのはこっちだし。……大川は、まだ撮影してるの。もうすぐ終わってメイクも流せると思うんだけど」

 と、申し訳なさそうに教えてくれるが、恐縮してしまって、ただ「とんでもない!」という意思だけ強調しておいた。

 特別に、と断りを入れて、遠藤さんは私をこっそりスタッフ控え用のテントまで連れて行ってくれる。十メートル離れた森の入り口、崩壊した木造民家の辺りで、美里ちゃんは監督や演出家らしい人と何事かを話し、打ち合わせをしていた。

 木造民家など歴史資料で間近に見た事しかなかったから、こんなに近くで、廃墟化しているとは言え実物の木造建築を見るのは初めてで、私はそれにも少しドキドキしてしまう。『大災厄』以降、空調チェンバーを設置出来ない構造上に問題のある家屋は全て放棄されてしまった現代で、住居棟の外に出てわざわざそれを見にくる好事家も極めて少ない。歴史文化保護の為に合掌造りや寺院、神社などを手入れする外勤の職員以外は、普段接する機会も無い。この放棄された民家は映画や、今回の様なCF撮影によく使用されるのだと、遠藤さんが耳打ちで教えてくれる。「ネット配信枠のコマーシャルに使われる予定なの」

 滅多に無い体験に、私は感動する。だがそれ以上に目を奪われるのは、美里ちゃんのその姿だ。

 中華風のドレスに身を包み、花を基調とした煌びやかな装飾を纏っている。しかしそれらが自己主張し過ぎる事は無く、アクセントとして美里ちゃんの顔を際立たせる役目に徹している様に見えた。背の高い美里ちゃんの「女の子らしくて可愛い」魅力ではなく、「大人の美しさと年相応の幼さを備えた絵画的な美しさ」を引き出し魅了する路線で売り出す事を考えての事だろう。実際、美里ちゃんの着けているマスクはこの前の物とはまた違う、同じスポンサー会社の別モデルの物だ。スカイブルーをベースとして桜の花びらを意識したであろう桃色のペインティングが私の琴線に、クる。

「カッコいい……」

 溢れた言葉が、私の感想の全てだった。遠藤さんはそんな私を見て、ありがとう、と目を細めて喜んだ。「大川も、そう言ってくれて嬉しいと思うよ」

 後で言ってあげてね、と言い、遠藤さんは再び真剣な表情で美里ちゃんを見守った。勿論、と呟いて、私は美里ちゃんの勇姿を見つめていた。 

 そうして、学校で馬鹿にされながら夢を追い続け、それを叶えた美里ちゃんの姿に、私は思わずポロリと呟いた。

「ようやく念願叶ったんですね……」

 美里ちゃんと話し、付き合う様になったのはたった三ヶ月前からだったけれど、それまでの彼女の頑張りを見ていたからこそ、そしてそれまでの学校での冷遇を知っていたかこその言葉だった。

 でも、遠藤さんは私のその言葉にいい反応を示した様子は無い。それどころか、一瞬ではあるけれど、今まで見せた事の無い表情をしたのだ。悔しがる様な、涙を必死に堪える様な、そして怒りを滲ませた様な、そんな複雑な表情。

 その一瞬の表情の変化に私は驚き、不安になったが、すぐに「そうねぇ」と微笑んで答えた遠藤さんの顔を見て、きっと自分が見たものはただの錯覚だったのだと思い込む様にした。

 私が来てから二十分程で撮影は終わり、遠藤さんが許可をくれたので、美里ちゃんに近付いてその衣装と撮影時の格好良さを褒めちぎり、きゃあきゃあと二人して騒いでいた。マスクをしている彼女は、それでもとても綺麗だった。

 そうして美里ちゃんの事を絶賛していると、美里ちゃん、と野太い声が掛かった。私が声のした方を振り返ると、恰幅のいい壮年の男性が笑顔で近付いて来た。瞬間、美里ちゃんが緊張した態度を取る。意識して背筋を伸ばし、体を固くさせ、満面の笑みも引っ込めた。男性は恵比須顔で、「良かったよー」と労いの言葉を掛けた。

「ありがとうございます」

 言いながら、美里ちゃんは腰を折って頭を下げた。そんな美里ちゃんを見て満足そうにした後、男性は首を傾げて私を見た。「君は? ファンの子?」

 と、それに対して美里ちゃんは何故か、ええと、と逡巡する。だが私が姿勢を正したのを見てすぐ口を開く。「友達の長谷川さんです。この後、遊びに行く用事があるので」

 そう話し、私は「長谷川です」と簡単に挨拶をした。美里ちゃんは、男性の名前も職業も、私に紹介しなかった。何かあるのかも知れないと勘繰って、私は名字を名乗るに留めた。

「そうかそうか。んー……」

 マスクの下の笑顔を崩さず、しかし私が居る事で話しにくい事がある、という態度を遠回しに醸しながら、男性は私と美里ちゃんを交互に見た。私にはその意図がまるで分からなかったが、答えを美里ちゃんが自分から話す。

「治験の件ですか? 長谷川さんには話しているので、構いませんよ」

 その声は冷たいながらも、確かな彼女の意思を感じた。その言葉に男性は一瞬たじろいだ様だが、すぐに苦笑いをして美里ちゃんに話し掛けた。

「じゃあ言うが……やっぱり治験は控えたらどう? 世間で言われてる様に、もうあれは人体実験の類だよ。君にとって何のメリットも無いだろう」

「遠藤さんや事務所が先方と話し合って、私を使った大規模なプロモーションを打ち出す予定です。人の命を救える可能性がある活動を周知させる役割として、私以上の広告塔が見つかるとは思えませんので、双方納得の上で話を進めています。これ以上詳しくはお話し出来ませんが」

 少しだけスタッフの耳や目を気にしながら、しかし毅然とした態度で美里ちゃんは男性に言い放った。その態度が鼻についたか、少し眉をひそめて何かを言おうとした男性だったが、私や周囲のスタッフの目が気になったのだろう、言い淀み、「後で話し合おう」と言って帰ろうとする。その後ろ姿に、美里ちゃんが少しだけ声を荒げて答えた。

「八嶋さんが関わる必要の無い話ですので、そのつもりはありません」

 その言葉に視線だけを一度美里ちゃんに向けるも、八嶋と呼ばれた男性はその一瞥の後、そのまま自分の車へと向かってしまった。

 若干いたたまれない空気となってしまった中、美里ちゃんは笑顔で私に向き直り言った。

「さっ。映画、行こう」

 私は、美里ちゃんに込み入った話を訊く事が出来なかった。

 これは私自身の問題なのかも知れないが、現状、私と美里ちゃんはそんな話を出来る程親睦を深めた訳ではない、と思っていたのだ。



 学校から一つ離れた駅に近い、地下モール。旧東京の中では最も歴史が古く、そして複雑に入り組んでいる。ネットの掲示板に書かれた情報から見付けたその映画館は、『大災厄』以前の映画撮影技術と映写技術を保存し、現役として使えるものにした小さな映画館だった。劇場は全部で三つ。客席も、通常よりずっと小さい。その分、古い名作映画をローテーションで上映する。ほぼ館長の道楽でやっていると呼んで差し支えないだろう。

「どの映画?」

 美里ちゃんが尋ねる。私は「これ」と、安い印紙に印刷されたポスターを指差した。男女が抱き合い、男が遠くを見つめる。二人の背景には大海原が広がっており、その海面には潜水艦が半分、頭を出している。美里ちゃんは、そのタイトルを見て一瞬だけ、動きを止めた。


On The Beach


 放題は、『渚にて』

 二十世紀半ばに制作された白黒映画だった。第三次世界大戦で核が使われ、世界が放射能の影響を受けてしまったもしもの未来を舞台にした映画。唯一放射能の影響を逃れたオーストラリアが人類最後の地だったが、そこにも北半球から放射能の脅威が襲い掛かる、という、導入の舞台設定だけ聞けばサスペンスか重厚な人間ドラマを想像する映画だろう。

 でも、この映画には強く観客に感情やメッセージを突きつける事をしない。登場人物はただ確実になった迫りくる死に対して、怒るでも絶望するでも悲観するでもなく、ただ、諦観しているのだ。確実な死を前にして、登場人物の多くは心穏やかで居る。

 モノクロームの陰影から生まれる、退廃的というよりは牧歌的な印象のある世界。自分達の死期を悟り、或る者は自害し、或る者はまた新たな地へ赴く為、潜水艦で航行を始める。

 私達の生活を脅かす『渚』は、間違い無くこの映画からその名を取った。観客に強烈な印象を残す潜水艦のシルエットデザインのシンボルが、その証左だ。

 つまり、『渚』は元々映画に出てくる登場人物達の様な、そうした達観した人達が自分達を慰め合う為に作った組織だったのではないか。

 目的は無く、死を前にしてどう穏やかに満足する人生を送れるのか。それを追い求める組織だったのではないかと、私は考えている。

 だが、今の『渚』にその理想は無いだろう。ただ格差の是正と、そしてやがて訪れる週末に対する諦観を、暴力を以って他人に強要しようとしている。それは決して、この映画と原作小説が描き出そうとしたメッセージではない筈だ。だから、元ネタとなったこの映画を定期的に干渉し、私は本来の人の生き方を、胸に刻み付けるのだ。

 正直、美里ちゃんが気に入ってくれるかは分からない。こんな骨董品レベルの古い映画を鑑賞して心揺さぶられるなんていうのは、例えそれが名作であっても難しい場合はあるだろう。

 でも、何か伝わるといいな。

 そんなオタク心なお節介を焼いている自覚を持ちながら、私は静かにラストシーンを見届ける。



 マニアやオタクにとって、好きなジャンルのものに触れてもらった後、相手にその感想を訊く、というのはいつだってドキドキする。押し付けがましくなかったかなとか、面白いと思って勧めたのに詰まらないと思ってたらどうしようとか。

 でもそんな心配は杞憂だった。美里ちゃんは「とても良かった」と言ってくれて、あの場面が良かった、あのシーンが好き、と事細かに語ってくれたのだ。社交辞令で感想を言っただけであれば恐らく口に出てこないであろう語り方だった。私は安心して、地下モールを歩く道中、映画の話で盛り上がる。

 もう、撮影現場での疑問なんてどうでも良くなってきた。……そう思った矢先、美里ちゃんの端末が鳴る。ごめんね、と断って鞄から端末を取り出し、彼女は画面に表示されている名前を見た。それを盗み見るつもりはなかった。ただ、私の立っている位置から美里ちゃんの持っている端末の画面に表示されている文字が、ハッキリと見えてしまった。

 八嶋。先程の撮影現場に居た、笑顔が印象的な壮年の男性の名前。

 美里ちゃんは通話ボタンを押し、「はい」と答えてしばし相槌を打っていた。やがて相手の話が一区切りついたのか、美里ちゃんは電話口に聞こえない程度に小さな声でため息をつき、「分かりました」と短く答えてそそくさと通話を切った。

「……お仕事?」

 そう訊く事しか出来なかった。美里ちゃんはちょっとバツが悪そうに笑い、ごめんね、と謝った。「服買いに行く約束してたのに」

「ううん、いいの。もういい時間だし」

 腕時計は既に十八時を回っている。小学生でもないのだから多少遅く帰っても問題は無いが、それでも親はうるさく言ってくる。本当に丁度いいタイミングだと思った。

 学校に行く日が分かったらまた連絡するね、と言って、美里ちゃんは今まで歩いていた方向とは逆、隣駅にある最寄りの空調チェンバーまで向かった。

 その後ろ姿を見て、私は突然、訊かずにはいられない様な気がして大きめの声を出す。

「美里ちゃん!」

 私にとっては、ここ数年で一番大きく張り上げた声だったかも知れない。美里ちゃんが振り返り、意外そうな顔をする。

「なあに?」

「フジカズの、例の件。……怖くないの?」

 本当は、辞退して欲しいの、とまで言いたかった。だが先程の八嶋さんに取った態度を見て、彼と同じ言葉を口にする事を躊躇った。

 こんな時でも私は、誰かに自分の意思と判断を委ねたままだ。

 美里ちゃんは驚いた顔をしてから、困った様に笑い、答えた。

「怖いよ。自分の体が変わるんだもん。……でも、絶対に止めないよ」

 まるで私の心を見透かしたかの様なその言葉に、私は続ける言葉を失った。元気一杯、朗らかに笑って手を振る美里ちゃんが、とても遠くに感じられた。

 ……その夜、私は就寝前にふと思い出し、『八嶋 メディア』と検索してみる。すると、複数の共通した項目がヒットした。ホームページには顔写真も掲載されている。

 それは二十年近く前、地上波テレビ放送部門をどの局よりもいち早く閉鎖し、母体基盤をネット放送局に移行させた最初のテレビ局のページだった。当時のこの方針を取ったのが、八嶋という経営陣の一人だ。近年ではオンライン放送局が独自制作する映画やドラマのプロデュースを中心に関わっているらしい。

 そして八嶋の経歴を追っていく中で、或る文章を見つけた。

『土星の日』プロデュース担当

 それは、美里ちゃんが一躍メディアで有名になる切っ掛けとなった映画だ。美里ちゃんに合わせて脚本に手が加えられたと逸話が残る程に話題になった。

 つまり八嶋は、美里ちゃんにとって頭の上がらない相手の筈だ。それが、何故あんな頑なな態度を取ったのだろう。疑問ではあった。だが、それをハッキリとさせる程、私は美里ちゃんに深く関わる事は出来ない。美里ちゃんと彼女との間に築いたあの関係以上のものなど。

 美里ちゃんと沙織ちゃんの、あの関係よりも強い絆など、私は作れない。

 その時、広告テロップに一件の新着ニュース記事が流れてきた。その見出しに、私の心は大きく揺さぶられた。

『旧東京在住女子高生変死 薬物中毒か』

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