286

 頭を下げたままキャロルはふと気が付いた。


 静か過ぎる。


 最初は魔術師会から罵声が飛んでいたり貴族達がザワついていたのに今は全く聞こえないのだ。


 確認したいが国王の許可無く頭を上げるわけにもいかない。


 頭を下げすぎたせいでキャロルの視界には床しか映らない。


 確認しようと目だけを必死で動かすキャロルの耳に広間に響く国王の低音の声が届いた。


「…面を上げよキャロル嬢。」


 キャロルはゆっくりと顔を上げながら視線を急いで動かす。


 正面に座る王族に向かって喋っていた為気が付かなかったが周囲の貴族達の様子は明らかにおかしかった。


 表情が緩み視点が宙をさまよっている。


 まるで薬でも盛られたか、幻覚でも見せられているのか。


 キャロルはゴクリと生唾を呑み込んだ。


 キャロルが時渡りを行ったと言った時には確かに魔術師達から怒号が上がっていたはずだ。


 おそらく幻覚の魔術が使われたならその後からだろう。


 王妃の罪の部分を貴族達に聞かせない為か。


 罪が露呈すれば処刑になると考えたからだとするならばもうキャロルに勝ち目はない。


 この広間にいる人間全員に、しかも魔術師達にまで幻覚魔術をかけられるなんてこの場には1人しかいないからだ。


 そう、国王だけだ。


 この国の最高権威である国王が王妃の罪を隠蔽すると決めたのだとするならばこの証拠の山もただのゴミと化す。


 キャロルは真っ直ぐに国王を見据えた。


 国王はキャロルの渡した羊皮紙の山を1枚1枚宰相と共に確認している。


 …もし全てを隠蔽するという答えならば、本当に革命を起こすのも一興かもしれない。


 そんな腐り切った国を破壊するのは中々スカッとしそうだ。


 キャロルの思考を読んだのか宰相の後ろに座ったレオンと目が合った。


 レオンは顔を青くさせながら落ち着けと手でジェスチャーを送ってくる。


 そんな中、国王が漸く再び口を開いた。


「…キャロル嬢の申立については分かった。

 まずは宰相に問おう。

 裁判となった時、この件についての処分はどうなると思う?」


 宰相は眉間に深い皺を刻みながら羊皮紙を捲る。


「…断定は出来ませんがキャロル様、エバンネ王妃陛下は極刑が下るかと。

 アルバート公はシャルドネ王国に引渡した後に恐らくこちらも極刑。

 ハリー第二王子殿下につきましては王位継承権剥奪の後に王太子への謀反を企てる危険性があると判断され辺境地での幽閉となるかと考えられまする。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る