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 リアムが彩花嬢に真実を話した時は泣いて取り乱したと聞いている。


 聖女ではないと言われ苦しかったはずなのに彩花嬢は胸を張って真っ直ぐに前を見ていた。


 最初はただの変人だなんて言われていたのに。


 本当に強い少女だ。


「…以上がエバンネ王妃陛下の罪状にございます。」


 キャロルはここで1度言葉を飲み込んだ。


 これを言うのは辛い。


 だが視界に入ったハリーが生意気そうに顎をしゃくるのが見えた。


 早く言えとでも言いたいのだろう。


 生意気な奴だ。


 そんな所は兄によく似ている。


「続きましてハリー第二王子殿下に継承権がない事を述べさせていただきます。

 まずこちらが現在のハリー第二王子殿下の総魔力量となります。

 王家の方々は重々承知かとは思いますがご確認下さいませ。」


 わざわざ巫女とハリーが教会に頼み込んで再検査して貰った魔力量の数値だ。


「ハリー第二王子殿下の総魔力量はAランク。

 これは王位継承権を持つ事が出来ない数値でございます。

 そして今まで発表されたハリー第二王子殿下の功績とされている物は全て本来はルシウス王太子殿下の功績となる物であった事を認めると署名捺印を頂いております。」


 王妃がガタンと椅子から立ち上がりわなわなと手を震わせる。


 ハリーは王妃の方を見ようとせず堂々と座っていた。


 それはもうふてぶてしいまでに。


 だがキャロルは知っている。


 魔力の再検査の時もこれを書く時もハリーが震えていた事を。


 再検査の後隠れて泣いていたと巫女から聞いているのだ。


 それでも兄の為にと母親も今までの取り巻きも継承権も捨てると決意してくれた。


 自分よりも幼い少年が決意してくれた大切な証拠品だ。


 感謝してもし足りない。


 自分ではこの恩など一生返せないだろう。


 今は部屋で眠りこけてる兄貴に存分に返して貰うと良い。


 それこそ一生かけて。


「…以上の内容からエバンネ王妃陛下の王位剥奪、また王族に対する殺人、暗殺未遂等から処刑を望む事を訴えさせて頂きます。

 そしてハリー第二王子殿下の王太子継承に対する意義申立とします。

 …私からの発言は以上です。」


 キャロルは頭を深々と下げる。


 後は王妃とハリー第二王子の反論の後に処分が行われるだろう。


 打てる手は全て打った。


 後は運に任せる他ない。

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