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 その日の夜塔にはレオンとリアムの姿があった。


 久々に見たリアムは少し痩せている。


 頬も痩けており疲労が滲んでいた。


「大体の事はレオンから聞いた。

 アルバート公についてはレオンに任せようと思う。

 異論はないか?」


「はい、大丈夫です。」


「そして聞きたいのは殿下についてだ。

 殿下は防護壁を張ったままキャロル嬢と母親の間に割り込んだ。

 結果禁術は暴発。

 魔術師として答えて欲しいんだがこの場合術が殿下にかかる可能性というのはあるのか?」


 リアムの問いにキャロルはうーんと唸りながら宙を見上げる。


 禁術の暴発がどの様な結果を及ぼすかについては資料が余りにも足りない。


「…正直に言わせて頂けるならば分かりません。

 ただ魔術の暴発とは即ち失敗を意味します。

 普通は爆発や魔力暴走が起き術はかからない事が主ですが、現在私に呪いはかかっており殿下は魔力を失い意識不明。

 この事実から可能性はかなり低いですが不完全なまま術がかかったと考えるしかないですね。

 そんな症例は聞いた事がありませんが。」


「…そうか。」


 リアムが肩を落とす。


 ルシウスを目覚めさせられる道が見つからない。


 このままでは王妃を射たとてルシウスの王への道は閉ざされてしまうのだ。


「…でも引っかかるんです。」


「なにがだ?」


「魔力劫掠術は心臓にある魔力の核から魔力を奪う術です。

 魔石が使い切り魔力を失うと砕ける様に核も魔力がなくなれば砕けるはずです。

 そして砕ければ心臓も止まる。

 けれど殿下は魔力を完全に失いながら心臓は動いています。

 有り得ない事なんです。」


「理由は何だと思う?」


「分かりません。

 測定出来ない程微量な魔力があるのか、それこそ禁術の暴発のせいなのか、もしくは核自体が消えたか。」


「核が消えても生きられるのか?」


「そもそもリアム様の様に魔力が無い方々は核自体を持たず生まれてくる方々です。

 無くても生きる事に支障はありません。」


 リアムはふむと言ってあごに手を添え考え混む。


 キャロルは宙を見つめたまま続ける。


「あともう1つ。

 私の母の魔力量自体は殿下より遥かに劣ります。

 殿下の防護壁に操られた母の禁術が勝るとはとても思えないんです。

 例え殿下があの時どれだけ集中出来ていなかったとしても。」


 キャロルの言葉に黙っていたレオンの眉間に皺が寄る。


「…殿下がわざと受けたのだとしても症状が合わない。

 殿下のは禁術が原因ではないって事か?」


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