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 最初に言葉を発したのはレオンだった。


「…その密偵の笛は殿下の金庫にあるんだよな?

 後この事リアムには伝えても良いか?」


「ええ。」


「…そっかありがとう。

 また来るから。」


 そう言って羊皮紙を抱えてレオンが塔を飛び出していく。


 半年ぶりに頬が赤く色付いていた。


 レオンがドタバタと塔を飛び出した数分後アンジェリカが口を開いた。


「…アルバート公はいつ戻ったかは分からないんですわよね?

 そしてキャロル様が消える時には誰か駆けつけていた…。

 ならばもしかしたら誰か他にもアルバート公の姿を見ている者がいないか今一度アルブスと調べてみますわ。

 証拠はより多い方がよろしいでしょう?」


「う、うん。」


 キャロルが答えるとアンジェリカ嬢とアルブスが立ち上がる。


「キャロル様はまずちゃんと食事と睡眠をとって下さいませ。

 酷いったらないですわよ。

 そんな隈を浮かべてたら頭が回るはずございませんわ。」


「…私の事嫌いだったんじゃないんですか?」


 何故手伝おうとしてくれるのか分からずキャロルは首を傾げる。


 嫌味を言われるくらいには嫌われていたはずだ。


 キャロルの言葉にアンジェリカ嬢の目が吊り上がる。


「私だって助けたくなどありませんわ!

 でも義妹だからと嫌味を言っても庇って来る様な底無しのお人好しの馬鹿が相手なんです!

 そもそも家族を助けるのに理由なんていりませんでしょう!!」


「そっそうなんですかね?」


 アンジェリカ嬢の剣幕にたじろいでしまう。


 アンジェリカ嬢はふんと鼻を鳴らすと頬を扇子で隠した。


「聖女様もアグネス様も寂しがっておられましたわ。

 その辛気臭い顔を何とかしてさっさと学園にも登校して下さいませ。

 帰りますわよアルブス!」


「はい、アンジェリカお嬢様。

 …お嬢様、子供の後始末は大人が致します。

 後の事など考えず行動なさればよろしいと思いますぞ。

 ではまた。」


 ドスドスと足音を立てながら出て行くアンジェリカをアルブスが追い塔を後にする。


 勝手に口角があがり腹筋が痙攣を始める。


 込み上げる笑いを抑える事が出来ない。


 この世界はやっぱり狂っているのだろう。


 だってキャロルに対して好意を持って接して来ている様に思えてしまうのだから。


 キャロルは自分の頬をぱんと叩いた。


 諦めて引き下がるなど自分らしくなかったのだ。


 王妃の首を取る機会なんて二度とあるか分からない。


 楽しまなくてどうすると言うのだ。

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