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「その可能性もある、としか言えません。

 なにせ禁術の暴発自体が異例、そして殿下の様な症状はそもそも聞いた事がありませんから。」


「…直接見たら何か分かるとは思うか?」


 キャロルは暫く悩んでから首を横に振る。


「実際に見た所で私は医術の知識がないので分かることは無いと思います。

 そもそも殿下には国内最高峰の魔術師や医師がついているはずでしょう?

 その方々がお手上げ状態の今、私に出来る事などないかと。」


「んあーそっかあ…。

 いやそうだよな。

 ごめん。」


 レオンが頭を掻き毟りながら唸る。


「まあアルバート公に関しては俺とリアムに任せろ。

 向こうは王弟だ。

 キャロルよりも立場的に俺やリアムが動いた方がいいと思う。

 何かあった時キャロルじゃ潰されかねないからな。」


 キャロルとリアムは黙って頷く。


 ただの貴族に過ぎないキャロルよりも宰相の嫡男であるレオンやルシウス直属の近衛騎士であるリアムの方が何かあっても戦えるだろう。


 キャロルでは家ごと消されてしまいかねない。


 地位とは煩わしいものだ。


「キャロルは殿下の事を頼む。

 実際その場にいたのはキャロルだけだ。

 見ていない魔術師や医師には気付かない部分があるかもしれない。

 時渡りした挙句禁術の暴発に巻き込まれたみたいですなんて教えるわけにもいかないしな。

 それに変な言い方だけど暴発した禁術の呪いにかかってる現役の魔術師なんてキャロル以外にはいないんだ。

 だからこそ違う視点から見える物もあるかもしれないだろ?」


「…お役に立てるかは分かりませんが。」


「ダメで元々だ。

 キャロル嬢の出来る限りで良い。

 だが諦めるなよ。

 諦めたりしたら俺が即座にその首切り落す。」


 肩を叩くリアムの言葉が怖い。


 顔が冗談ではないとはっきり物語っている。


 こんなに笑顔で殺害予告をされたのは初めてだ。


 ぶんぶんと首を縦に振り続ける。


 多分リアムは勝手に時渡りをした事にも御立腹なのだろう。


 てめえの尻拭いはきっちりしやがれと言いたいに違いない。


 首振り人形と化したキャロルにリアムが満足気に頷いた。


 レオンも苦笑いしている。


 リアムが真剣な顔に戻し口を開く。


「どう足掻いてもあと半年しかない。

 元々不遇な王太子様に仕えるって決めた仲だ。

 俺達でクーデターといこうじゃないか。

 弔い合戦なんぞにしてくれるなよキャロル嬢。」


 キャロルは強く首を縦に下ろした。


 革命の火蓋は切って落とされたのだ。

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