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 アルブスから受け取ったアイスティーに口を付ける。


 暑さで熱を持っていた身体が一気に冷える様だ。


 この熱気の中日焼け対策も兼ねて厚手の旅装束を身にまとっていたのだ。


 熱中症になりかかっていたのかもしれない。


「ぷはっありがとうございます。」


「いえいえ。

 そう言えばお二人様は奥様をお探しなのですか?」


「はい。

 けど会話したいとかではなくむしろ見られるわけにはいかないんですが。」


「先程の会話で何となく分かっておりますよ。

 昔旦那様達が遊んでおられた小屋が近くにありますのでそちらへ参りましょうかねえ。

 あそこなら風魔術が施してありますし飲み物もございますからここよりは隠れるのに適しておりますから。」


 さあ行きましょうかとアルブスが立ち上がるのに吊られて慌てて立ち上がる。


 信用して良いものか悩むが今は着いて行くしかあるまい。


 アルブスは庭園の隅に作られていた小屋に2人を案内した。


 確かに風魔術が施されているのだろう。


 中は涼しい風が吹いている。


 10年以上前に『えあーこんでぃしょなー』の様な技術を小屋に施した人間がいるとは驚きだ。


「この風魔術はアルブスさんが施されたんですか?」


「いえいえ。

 儂には魔術の事は分かりませんよ。

 これはアイラ様が施された魔術にございます。」


「…母が?」


「ええ。

 アイラ様は昔から魔術を好まれてましてなあ。

 旦那様はいつもイタズラされていた物でございますよ。

 変わりに旦那様は剣術や体術で対抗なさっておいででしたがね。

 ですから喧嘩となるとそりゃあもう派手な物でしたよ。」


「…そうなんですか。

 なかなか変わった令嬢だったんですね。」


「キャロルそっくりじゃないか。」


 ルシウスがクスクスと笑っている。


 自分でもそう思ったが黙っていたのに言われてしまった。


「おや。

 キャロル様もやはり魔術を嗜んでおられるのですか?」


「ええ、まあ。

 やはりとは?」


「アイラ様がキャロルお嬢様の魔力の匂いは太陽の様だと仰っておいでですのでね。」


「太陽の匂い…。」


 自分の魔力は自分では分からないがそんな匂いがするのだろうか。


 よく分からない。


「へえ、魔力に匂いか。

 面白い話だね。」


「殿下は匂わないんですか?」


「キャロルは感じるの?」


 キャロルは頷く。


 今まで当たり前だと思っていたが違うらしい。


「例えば殿下の魔力は冬の早朝の匂いです。

 キンと張り詰めた霜の香りですね。」

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