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「へえ全然分からないや。

 キャロルのその特技は母君譲りなのかもしれないね。」


 ルシウスがクスクスと笑う。


 アルブスも頷きながら微笑んでいる。


「それにしても将来キャロルお嬢様とルシウス王太子殿下がご友人になられていらっしゃるとは。

 未来とは分からない物ですなあ。」


 アルブスが新しいアイスティーを注ぎながらしみじみと呟いた。


 たしかに一貴族に過ぎないキャロルとルシウスに親交が芽生えるとは誰も思わなかっただろう。


「…まあ私も陛下が突然条件に当て嵌る貴族令嬢は全員見合いしろなんて手紙寄越して来なきゃ関わる事はなかったと思いますしね。」


「それはたしかにね。

 お互いを知る事もなかったかもしれない。

 父上に感謝しなきゃね。」


 2人の会話にアルブスが首を横に振る。


「そんな事はありませんよ。

 縁とは1本の糸で繋がっているわけではありませんですから。

 もし見合いという道を辿らずとも別のどこかでお二人の道は交わっていたと思いますぞ。

 それが縁という物でございます。」


「そうなんですかねえ?」


「そうでございますとも。」


 イマイチ信用していないキャロルにアルブスは優しく微笑む。


 新しいアイスティーを受け取り喉を潤した。


 何だかこのアルブスという老人は仙人のようだ。


 まるで掴み所のない霧そのもの。


「…おやいらっしゃいましたぞ。

 アイラ様でございます。」


 窓の外に視線をやったアルブスが呟く。


 キャロルの肩がビクッと震えた。


 最期の悲痛な悲鳴。


 近付いてくるモヤ。


 命も魔力も奪おうとする呪い。


 全てが怖くてたまらない。


 暑かったはずなのに腕には鳥肌が立っていた。


「キャロルお嬢様?」


 怖い。


 逃げたい。


 今すぐここから消えたい。


 もうあの憎悪を感じたくない。


「大丈夫ですぞ。

 キャロルお嬢様、顔を上げて窓の外を見てくだされ。」


 震える肩に皺だらけのアルブスの手がおかれる。


 優しくて温かい。


 ゆっくりと顔を上げると陽だまりの様な笑顔がキャロルの視界を染めた。


「ほら、ご覧下さいませ。

 …キャロルお嬢様もいらっしゃっておいでです。」


 恐る恐る首を窓に向ける。


 息を吐くのが怖い程心臓の鼓動が強く速い。


 胸が苦しくて堪らない。


 目を向けるのが怖くて仕方ない。


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