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 横からアイスティーを差し出され素直に受け取る。


「ああ、助かるよ。

 ありが…。」


 アイスティーを持つ手はキャロルの色白の手ではない。


 年季の入った皺混じりの老人の手である。


 ルシウスはゆっくりアイスティーから顔を上げた。


 冷や汗が頬をダラダラと流れ落ちて行く。


「ストレートでよろしかったですかな?

 蜂蜜とミルクは如何いたします?」


「…いや、あの…。」


 目の前には白髪をオールバックにした老人がニコニコしながらアイスティーを差し出していた。


 バレた。


 というか一体いつからいたのだ。


 しかも何故今アイスティーを差し出されている。


 キャロルとルシウスは混乱で頭が働かない。


「とりあえず儂の説明は後程しますので。

 まずはアイスティーをお飲み下さい。

 この暑さでは倒れてしまわれますよ。

 ルシウス王太子殿下、キャロルお嬢様。」


 ルシウスがバッと立ち上がり剣柄に手をかける。


 老人を鋭く睨み付けキャロルはルシウスの魔力が流れるのを感じた。


「…先に貴方が何者か教えて頂きたい。」


「…この屋敷の執事長アルブスでございます。」


「何故私達の名を知っている。」


「聞いていたからにございますよ。

 未来から来られここの娘だとお嬢様が仰っておられましたのでお嬢様はキャロルお嬢様、現在3歳の王太子様と言えばルシウス王太子殿下様だと分かっただけにございます。」


 アルブスは人の良い顔を崩さずニコニコと笑ったまま答える。


「…何故それを信じるのだ。」


「儂はアイラ様を幼少より知っておりますからなあ。

 まずお嬢様はアイラ様のお若い頃に瓜二つ。

 そしてルシウス王太子殿下は母君、イザベラ前王妃陛下によく似ていらっしゃる。

 疑うのが失礼な位ですよ。

 長く生きると摩訶不思議な事が起こるものですなあ。」


「…私が母上に?」


「ええ。

 絵姿をご覧になった事はございませんか?

 本当にそっくりでございますよ。

 目の形もその銀の虹彩混じりの瞳も雲に滲む太陽の様な白金の髪も本当によく似ていらっしゃる。」


「…そう…ですか。」


 ルシウスが困惑した様に瞳が揺らぐ。


 似てると言われた事などなかったのかもしれない。


 どう反応して良いのか分からないようだ。


「ささ。

 まずはアイスティーをお飲みくだされ。

 お二人共お顔が暑さで真っ赤ですぞ。

 何なら儂が毒味いたしますが。」


「…いや大丈夫だ。

 ありがとうございます。」

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