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「…でもさキャロル。

 これで文句言ってたら色々大変だと思うよ?」


「何がですか。」


「…まっいっか。

 ゆっくり躾るしかないかな。」


 ルシウスがそう言いながらキャロルの頭を撫でる。


 確実に馬鹿にされている。


 同い年なのに明らかに子供扱いされている。


「躾って何ですか失礼な。」


「だって仕方ないでしょう?

 キャロルがお子様なんだから。」


「同い年です。」


「んーそうなんだけどね。

 ちょっと知識があまりにも無さすぎるって言うかね。」


 キャロルはブスッとむくれた。


 座学だってルシウスには負けたが1問ケアレスミスをしただけだったのだ。


 知識が足りないとは言われたくない。


 後頭部にルシウスの掌が添えられふと目線を上げると目の前にルシウスの顔があった。


 視界がルシウスの藍色の瞳でいっぱいになる。


「うおっ!?」


 キャロルは思わず仰け反り反射的に手が動く。


 気が付くとルシウスの顎に掌底を叩き込んでいた。


 ルシウスが顎を抑え蹲る。


「…すいません殿下。

 つい反射的に。」


「反射的にアッパー叩き込むってどんな反射…。」


 ルシウスが顎を摩り呻いた。


 魔力を込めていた右手から魔力を止める。


 喧嘩となったらこれを叩き込むつもりだったが必要なかったらしい。


 もうこの子ほんとどうしようとルシウスがブツブツ言っているがキャロルだって馬鹿にされている事だけは分かる。


「…何なんですか。」


「いや別に。

 そう言えば私も色々な魔獣や珍獣は育てて来たけど国宝レベルの天然記念物は育てた事なかったなと思ってね。

 難しいよほんと。」


「いつの間にそんなもん育ててたんですか。

 全く気付きませんでしたよ。」


「そりゃキャロルは気付かないだろうね。」


「…なんかずっと馬鹿にされてる気がする。」


 キャロルが不貞腐れるとルシウスがふっと笑ってキャロルの頭をまた撫でた。


「もう大丈夫だね?

 さあ行こうか。」


 ルシウスがキャロルの手を引いて歩き出した。


 …もしかして気を紛らわせようとしてくれたんだろうか。


 キャロルは照れ臭くなり繋がれた手を少しだけ握り返した。


 チラリとルシウスが驚いた様に振り返ったがキャロルは目を合わせない。


 ふわりと嬉しそうに笑ったルシウスは繋いだ掌に少しだけ力を込める。


 キャロルは何となくその柔らかい空気がやけに居心地悪く感じたのだった。

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